OFFICIAL INTERVIEW #5

10.人々よ
ここまで轟音と絶叫をもって推し進められてきたアルバムの物語も、いよいよ終わりを迎えようとしている。柔らかいギターの音と、粛々と詩を歌う朗らかな歌声が真っ直ぐに、飾り気なく空間を埋めていく。
陰陽も、正負も、善悪も、悲喜も、どんな風景も、ただただ執拗に諦念の情をともなって鳴らすことで現実味を帯びさせてきた、ある意味では非常に極端で、一方では非常に普遍的な曲たちは、この素朴な一曲でまとめ上げることで一個の作品として完結する。どこまでも諦めの籠った視線で地平を見つめ、最後までそれを「別にいい」と、その全てを断じるこの曲で。
叶わず、届かない無意味に思える声も、どこまでも響くはず。そうやって願わずにはいられない私も、あなたも、それでいい。過剰にその姿を美化するわけでもなく、卑屈になって卑下するでもなく、最後までただただありのまま歌うことを許す…いや、許されている世界であってほしい、と、ただ祈るだけ。…これも一つの理想であり、願いだろうか。
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カワノ 自分で言いますけどねぇ、これはとにかく音がいいねぇ…。変な話だけど、ここまでバンドサウンドの曲が並んだ上で…この、歌とアコースティックギターだけのこの曲が一番いい音してるんだよね笑
ー(大きなスピーカーで聴きながら)音に関しても素人ながらに色々言いましたけど…言わんとしていることはわかる。「良い音」の定義はさまざまだけど…これは、音の再現性がすごい。目の前でお前が演奏してるみたいだよね。
カワノ 俺、これエレクトリカル・オーディオで聴きながら、泣きそうになっちゃって笑 「あぁ、やっと終わる…」っていう感情と、「めちゃくちゃ音がいい…」という感動で、もう、おかしくなってしまって…。…実際は日本に帰ってきてから地獄が待ってたから、いまだに何も終わってないんだけど笑 …バーコード作ったり、JANコード、ISRCコードみたいなわけわからんのを流通とかJASRACに登録したり…笑
ーははは笑 地味な作業を笑
カワノ いやぁ、でも、下手したらこれが一番気に入ってるかもな。録音物として、すごくこう、一番スティーブに求めてたものが出たのは、実はこれかもしれない。
ーなんか、言い方悪いけど…CRYAMYのというか、CDに一曲はあるお前のアコースティック曲って、あえてしょぼい音響とラフな演奏で成立させる、っていう手法が多かったじゃん、これまで。
カワノ そうだね。声をミニアンプを通してフィルターかけて割っちゃったり、ギターはボディの小さいショボいアコギを使ったり、マイクも変なの使ったりね。…多分、まともに録ったことなかったんじゃない? 高山さんにも「まともなギター買えよ!」って毎回怒られながら…。「いいんすよ! しょぼくしたいんすよ、俺は!」って笑
ー一方でこれは、こう…これはさ…めちゃくちゃプロっぽい笑 …今更かよ! って気持ちもありながら笑
カワノ はっはっはっ笑 いや、もう最後だし、綺麗に、しっかりしてる音響で録音しようかな、ってさ。ギターも、三種類くらい、とんでもないビンテージのアコギをスティーブが出してくれて…。で、どれも良かったんだけど、最終的には比較的新しめのテイラーで録音した。音が一番大きくて太かったから。
ー演奏も歌も一発?
カワノ 一発だね。しかも同時。だもんでさ、マイクに歌もギターも被りまくってて、それがこの、ギリギリリッチになりすぎず、他の曲と調和とれてる感じに、一役買っているかも。ミックスもスティーブがフェーダーチョチョイといじって、「どうだ?」っつって。「うん…最高!」「I think so.(俺もそう思う)」って、終わり。最後に声の質感だけもっと馴染むように細かく調整してくれてたけど、大枠はそれだけ。
ーへぇ。
カワノ これまでは弾き語りの曲って、アルバムの中のアクセントとして、というか、…もうちょっと具体的にいうと、曲は曲なんだけど…歌としては捉えない、ってやり方が多くて。
ーというと?
カワノ 一人で歌って、一人で演奏、って完結させてる分、詩にフォーカスが当たればいいや、って、いい意味でも悪い意味でも適当だったんだよね。考え方、捉え方が曲として、って感じではなかったのかも。ニュアンスとしては、お手紙に近い。お手紙とか、おしゃべりとか。極端な話、詩の朗読ですらいいと思う。ライブでちょろっとお話しするのと同じ地平だね。別に、あれも、台本用意したり、お決まりの煽りがあったりするわけじゃないし。ただただ思ったことをつらつらと述べたり、伝えたいことをしゃべるだけ、っていう。
ーあぁ、はいはい。
カワノ ただこの曲は、もう、紛れもなく、一個のしっかりとした曲として立ってる感じがある。それは歌詞を書いてる段階からそうで、「しっかりこの曲は録音しよう」って思ってたし。
ーそれなら、バンドサウンドにしようとか、ソロ作品に持っていこうとか、そういうのはなかったの?
カワノ うん、なかったですね。これは、一人とはいえ、CRYAMYの作品だ、と思った。あんまりもう、バンド編成にしなくては、とか、他にも色々あるけど、そういうこだわりは、もはやないというか。
あと、これは完全にメロディと歌詞の楽曲だから。バンドサウンドにしても、結局そこを立たせようとすると、面白みのない曲にしかならない。もう、王道の普通のバラードみたいなのは、いらねぇっていうか。それなら、極限まで削ぎ落として、テンポもグルーブも、ギターや歌の強弱も全て俺が支配した剥き出しの状態として成立させた方が…まぁシンプルだけど、歪さはむしろ出るかな、と。
ーなるほどね。
カワノ まぁ後はこう、弾き語りの、剥き出しの状態でしか出せない…表現難しいけど、愚かさというか笑 狂気と言ってもいい。
ー狂気か。
カワノ …なんか、俺…すげぇ大袈裟な表現だけど、本当にこの世の誰しも…世界に立ち向かう瞬間に置かれた人々…人間には二種類、乱暴に言えば大きく分かれるな、って思ってて。
ーうんうん。
カワノ 言い換えると、周りと共存を選ばない…ある種、傲慢な人間ではあるんだけどさ、それは。仕組みやら、支配やら、不条理と理不尽やらに対抗したり、のがれたり、悲しみや苦しみから仲間や家族を守るために立ち上がったり、そういう残酷な空間ですれ違う誰かのために力を尽くす人。
ある一方は、もう、ブチギレてるやつ笑 そういうものに襲われた時に一瞬で沸点を迎えて…思いっきり牙を剥いたり、叩きのめそうとするやつ。逆に、それらを一身に受け止めることで、人には見せずに堪えられるやつ。腹に黒いものを溜め込みながら砂漠を歩けるやつ。いずれにせよ外界を受け入れることで人と関わること。で、これは矛先が、外側に向かって鋭く伸びているのを想像してるね。
で、もう一方はね、純粋で、柔らかで、甘いイメージの人。すごくいい意味で、穢れを知らない子供っぽい、って言ってもいいかもしれない。その、自分に襲ってくるもの…それを気にしない人であり、気が付かない人であり、…気が付かない気が付かないふりを貫き通して欺き切れる人。それを受け止めずに、夢想しきって、その心のままに無邪気に過ごして、人と関われる人。そしてこれは、どっちかというと、そばにいる隣人とか、心の内側にありようが向いているイメージね。
ーなんとなくはイメージできる。
カワノ で、この二者の地平は決定的に交わることがない領域というか。戦場を歩く人間には、今更踏みつけているものが見えないようには振る舞えないし、こびりついた汚れは引き受けなくては行けない。一方で、何かに気づけなかった人はそこに感情を向けることは不可能だし、気づいていないように装っているのであれば、そこに向けるものを見せるわけにはいかない、というか。
…で、その、俺のいう、狂気というのは…その、本来交わらない地平を、互いに踏み越えることというか。
ーうんうん。
カワノ 狂気、って別に大袈裟なものじゃないと俺は思ってるのね。人間誰しもにあるというか。大袈裟な二元論で分けたときに、ある一方からその対岸へ進むこと、っていうのは小さな狂気で。…それを選ぶことは愚かだから、白眼視されるから、単純にやっちゃだめだから、みんなが抑え込んでいる、って、そういう領域の話。
…「天国」の、デモにはあったけど削除した歌詞にもあったんだけど、ネクタイをしめた立派で冷静な大人がそれを解いて、無邪気に幼い子供のように純粋な振る舞いをする、っていうのは、紛れもなく狂気で。それは、普通は許されない…まぁ、世の中はそう断定することしかしないし、そうやって生きることを知ってか知らずか俺たちは選ばされてるわけで。…で、それでもそれを選んだ瞬間、愚か者として扱われる。
ーあぁ、つまりは、「俺は愚か者だ!」という宣誓でもある、と。この弾き語りのトラックは。
カワノ そう。これは、合奏、という形態では出せない。自分の選択を、自分のものだけで発露させるという手段じゃないと、これはうまく出せないんだよね。まぁみんなからしたら、どうでもいいことだけど笑 でも俺は、そう思っててさ。…メンバースタッフ、お客さんも…もはやこの世の人間全てを含めて、全員が愚か者であるなら、それはできるかもしれないけど、そうではない。…さっきは大きく二等分したけど、より仔細を辿れば、人それぞれの微妙に異なる領域があって、それぞれが違う対岸で生きてる以上は、心中することができないわけですよ。
ーうんうん。…それで、ここでいうお前自身の、この曲で描きたい狂気や愚かさ、っていうのは…。
カワノ 苦しみ傷つきながらも理想を捨てないこと、最後に破れるとしても生きていくことを「天国」でうたっているけど、俺の中の大いなる矛盾を見出そうとするのであれば、俺はこのアルバムの前半で徹底的に泥をかぶって汚れているのに、アルバムの終盤では少年的なピュアさを使って綺麗に歌い上げようとしている。この、対岸を挟んでの揺れが、狂気や愚かさじゃないか、って考えた。だから、その愚かさも描かないとこのアルバムは完成しないし、この曲をこういう形で生み出す必要に…迫られた、というのが近い。
ーあぁ、なるほど。
カワノ 俺が出会ってきた多くの人…あぁ、もう、洒落臭いから言い切るけど、世の中の、大半の連中! カス人間ども笑
ー笑
カワノ そういう人ね笑 まぁ、その、俺は大いに傷つけられたから。生き方を強制されそうになったこともあるし、攻撃されたり排除されたり、時に騙されたり利用をされたり。…どこに行っても、学校だったり、生まれ故郷だったり、そりゃ、東京のあるコミュニティでもそう。振り返ると、俺にはどこにも行き場がなかった。バンドを始めてからも、俺の歌うことや述べる理想…そこに向かって、たくさんの冷笑とか中傷を、フロアからも、同じ土俵の仲間からも、面と向かっても、そうでなくてもたくさん浴びてきたし。…まぁ、俺は間違っているとは思わなかったけど、汚れますよね、ここ(胸を撫でる)は笑
ー…。
カワノ 最近までね、そういうことはあったけど俺は人を見る目が少しは培われたから、まぁ、それもよかった、とか、マジで思ってたけど、これは…人を攻撃して深く疑うのがデフォルトになっただけだったな、って今は思ってるの。…もう少年には戻れないわけよ。自分の思いとか数少ない仲間を守るために、徹底的に反抗するし、卑劣さを飼い慣らして、自覚してる状態が、本来の俺で。
ーうん。
カワノ でも、その…音楽に託した理想みたいなものは、少年の頃から持ってるもので、それは、少年にならなくては歌えない。だから、俺はそういう狂気を持って、歌ってきたし、歌っている。いつだってそうだった…って、そういう。うん…それを、そういう理想を、ね…過去の、美しい景色にいる「Boy」が、永遠に、俺に歌ってる…。そして、それを今の俺が歌う上では、この「人々よ」という曲が、自分のありようを正直に白状して、これからも揺れていく以上は必要で。
ーそして、最後は「世界」に辿り着いて…。
カワノ うん。もう…これに、尽きるから。俺が、誰かに言いたいのは。
…恥ずかしいけど、本当はね、俺、音楽でしか人と繋がれない、ってマジで思ってるから、歌詞を書いて歌ってるのが一番根本なんだよ、多分。誰かの背中を押すし、笑顔にもするし傷つけるし、苦しんでるなら助けて助けてやりたいし、助けて欲しい。何より、生きていくことを続けてほしい、って。それが、俺にとってそれができるのが音楽だった。…まぁ、そんな感じ笑
ーうんうん。…若干目が潤んできたところで…笑
カワノ なんでよ笑
ーいや、なんか…お前大変だったんだなぁ、って笑
カワノ 気色の悪い…。徳光の涙ぐらい嫌だわ笑
ー笑 …しかしこれは、本当に音がいい。これは、今聴いてるのはデジタルマスターだけど、これ、アナログテープで聴いたら…。
カワノ いやぁ、とんでもないと思うよ笑 俺んちにまさにオリジナルマスターの原盤はあるけど…この曲に限らず、オリジナルテープで聴くのが本当は絶対にいい笑 マジですごいから…。再生機器が日本にないのが悔やまれる。テープ再生できる設備があればねぇ…。そういう意味じゃアナログで聴くのが一番再現性が高いんだけどね。一番シカゴで俺たちが耳で聴いてきた音に近づくと思う。
ーあぁ〜! 聴きたいなそれ!
カワノ LPも作ろうと思ってるけど、ボリュームのあるアルバムだから二枚組になりそうだし、出来上がるまでに時間かかるから、それはいずれ、で。
…あと、重要なのは、スティーブはオルタナのエンジニア、ってイメージが強いとは思うんだけど、本来はすごくアコースティックな人だと思うのね。コンピューターで加工するわけではなくて、マイクをいっぱい立てたり、部屋の反射やノイズも拾った上で成立させるエンジニアリング、っていうのは、極めて原始的というか。もちろん、アンプやエレキギターっていうのは電気出力ではあるけど、空間を録音することへのこだわりっていうのはどこまでもアコースティックな領域じゃない?
ーあぁ、そっか。音の話、ってなると色んな領域で議論ができるけど、スティーブ・アルビニはその、まずそこで鳴っている音をいかにキャッチするか、っていうところに特化した人だもんね。
カワノ そうそう。むしろ、スティーブは俺から要望を受ける以外は全く音に対して指図しないからね。繰り返し論じてきたけど、下手くそだろうが上手だろうが、リアリティ…まさに今、目の前でなっている、っていう実感を再現する技術と姿勢に殉じてる人で。そういう技術に支えられることで、このアルバムに込めたメッセージっていうのは、しっかりと誰かに届くものだと思ってる。もちろん、このアルバムは、俺がとにかくやった、俺がすごい、っていうのは大前提だけど笑 …彼にすごく感謝してるよ。最後まで真摯に俺と向き合ってくれた。
ーそっか。…で、シンプルな曲だけど、作るまでに結構時間かけたんじゃない? この曲。さっきの話だと、これもまたアルバムを締めくくるために最後に書かれた曲だし。
カワノ かかったねぇ。アルバムの全貌をとらえたときに、あと一歩が欲しくて。何度も歌詞を推敲して…。まぁ、できる限りのことはできたんじゃないかな。なんのかんの言ったけどさ、今読み返してもすごく上手にいった歌詞だ、とは言い切れない…。やっぱ、後からもうちょっとやれたんじゃないか、うまく言葉にできたことがあったんじゃ、って思ったりもするけど…。うん…でも、このアルバムにはこれしかなかった。
ー俺もそう思うよ。「天国」からの流れで、現実に立ち続けて理想を歌っていく、っていう姿を見せた後に、次はこうやってその「理想」そのものを描いてる。誰かの声が思うように飛んでいく、ありのままで、最後まで生きる、っていう、理想。
カワノ …でも、なんか、こう改めて聴くと、永遠に結論のない話をループしてるようでもあるんだけどね笑 「理想を諦めないで声を上げ続ける」っていうことを「天国」で歌にして…じゃあその次に、叫んでいる理想そのものっていうのがなんなのかをこの曲で見つめた時に、その正体っていうのは、「悲しくても理想を抱えたまま叫んで生きていける世界」そのものだよ、っていうさ。
ー…あぁ、そもそもが、苦しみや悲しみからのがれることが理想ではない、ってこと。
カワノ うん、まさに。…めっちゃ難しい話だけど、そういうことだね。逃れられない苦しみの渦中で、その中で捨てきれなかった大事なことを、最後まで諦めないこと…それ自体が俺の理想であった、っていう。だから、すごい、こう、無限のループをしてる気がする。
ー「天国」でも、苦しみや悲しみがありきで歌われてるからね…。じゃあ、苦しみからの脱出、ってテーマではない以上、苦しみながらも理想をほえて生きていくこと…自分の思うような生き方が、実はもうすでに手の中にあったんだ、っていうことか。
カワノ 俺だけの次元で話をするのならば、ね。…それでさ、「諦めないこと」を歌ったようで、矛盾のように感じるかもしれないけど、これはひょっとしたら理想であると同時に、その裏で、これまでに重ねてきた諦めが導いたものでもあるわけで。さまざまなものを捨てていく過程で…ひょっとしたら、さっきの話で、「苦しみのないところを理想とした自分」も過去にはいたかもしれないけど、それもやめてしまって…。最後の最後は「苦しいけど、まぁいいか」って状態に落ち着いた、ってだけで。
ーそういう状況を…嫌な言い方をすると、「理想である」と自分で思い込まなきゃいけなかった側面もあるということも含んでる。手放して、綺麗な曲だ、とは言い切れない。
カワノ ですね。悲しいことかもしれない、それは。
ー…まぁ、でも、そういう状況とか、そういう生き方そのものがここまでに歌われたこと、でもあるか…。
カワノ 「何かを諦めない」っていうことは、裏を返せば、諦めた末の残ったもの…これしかないんだという思い込み、諦めがつかなかったものへの愛着、っていうか…。…何にも喪失しないで生きていける人なんて…多分いないわけでさ。いるとしたら、俺の視界にはその人は登場しないし、逆も然りで俺の存在もその人の視界には必要がない。
ーお前がいう「巡り合っていくこと」だね。
カワノ そう。そして、「すれ違っていくこと」でもある。
ーでも、お前の感覚と離れるかもしれないけど、俺にとってはこの曲、励ましとか慰めのようにも聴こえる…機能するとも思うけどね。「別にいいよ」ってリフレインがされるけどさ…言い方難しいけど、大きく見たら、この歌が歌われるべき人たち…苦しみがあって、そこから逃れられない人たち…そういう人たちを「別にいい」って言い切ってるわけでさ。
カワノ あぁ、はいはい。
ー…ここで俺が想起したのは、完全にR.E.Mの「Everybody Hurts」なんだけど。
カワノ おぉ〜、大きく出ましたね笑 「Automatic For The People」、クッソ名盤っすよあれ! 俺の人生トップスリーに入る笑
ーお前が好きなの知ってて「これだ!」って思ったんだよ。いや、マジで。あれも、諦めをはらんではいるけど、それでも、って歌じゃん。
カワノ いや、嬉しいわぁ。…しかも、ここでR.E.M出るのは、俺的には感動で…。うん…でも、そうか…。
ー今の話を聞いて、語られる「理想」の捉え方がすごく複雑だ、ってのがあってさ。ループしてる、っていうけど、諦めないことも、諦めることも、どちらも内包したり、その間で惑ったりしながらその上で声を上げることを「理想」とする、と言い切っちゃう…言い切らざるを得なかったのが、そのどっちつかずでゆらゆら揺れてることもセットでカワノのここまでの歌というか。だから、「別にいい」とお前が歌っている領域というのは、実はとてつもなく広くて、だからこそ誰かのすごくささやかな救いになっていくというか。
カワノ この歌は、むしろ誰かのために、って意識はなかったけどね。「別にいいんじゃない?」っていう…ただの態度とか、そういう感じ。
ーそれでもいいんじゃないの? そうだとしても、さっきお前がさ、「誰かに歌を歌うことを諦めないこと」を理想とする…って言ってたけど…実はもう、それはここでできてるのかもしれないよ。こうして歌に残している以上は。
カワノ …そっか。…話が長くなってきてるから、もう俺、支離滅裂になってるのかなぁ笑 大丈夫?
ー全然いいよ、それも込みでいこう笑 まぁでも、結局、意識するもせざるも、そこは絶対にブレてないじゃん。このアルバムは…これまで以上に捨て身で、どこまでも自分主体で、生々しくて、…でも、絶対誰かと関わるために歌ってるじゃん。歌の中に必ず人の姿を見出して、最後は必ず、その人がありのまま生きていくことを描いている。…大丈夫だよ、そこは、もう、ずっと変わらんだろう、最後まで。
カワノ …まぁ、ちっぽけな人間のちっぽけな歌だけど、それが俺の思う理想ではあるからね…。俺の、というか…歌か。俺の。
ー…そんな理想のあり方をひたすら自問自答した上で、最後…「世界」を絶叫してこのアルバムで君は…もう、大憤死する訳だけど笑
カワノ はっはっはっ!笑 命をかけてね笑
ーかかるか! 歌如きで命が笑
カワノ ごもっとも笑 でも、体の寿命とは違って、歌歌いとしては、寿命があるから笑 それをもう、燃やし尽くす勢いで笑
ー…いよいよ最後だけど、何か言い残すことある?
カワノ いやぁ…あろうはずもございませんよ笑 こんなに喋って笑 今作も、どうせプロモーション全滅ですから…。
ーテレビもねぇ、ラジオもねぇ、状態でな。…一応いろんなところ送ったんだけどねぇ、俺。
カワノ いいよいいよ笑 いい作品だったら勝手に広まるし。それにね、何か気になった人はこれをね、アルバム発売前も後も、みんなには穴が開くほど読み狂ってもらったら、それでいいでしょ。すごいボリュームだし、最近の連中は文章読まないから、あれだけど笑
…あぁ、でもこれ、大変んじゃないか、今回。文字起こし誰? これ、もう何時間も録音してるし、途中しょうもない話しかしてないけど笑
ー笑 まぁ、うまいことやって、一ヶ月くらいかけてやるよ笑
カワノ ふふ笑 まぁ、ありがたいけどね。…うん、ここで話をしたこともそうだけど、このアルバムを作り切ったこと…俺はもう、いろんなこと…すごく満足ですよ。
ー長く、辛い闘いが。
カワノ 無事にリリースされるまではまだ終わらんけどね笑 ツアーも、何より野音の単独公演…これだけはやり遂げるさ。…だから、やることは山積みだけど…、うん…言い残したことがあるとすれば…いやぁ、本当にね、よくやったなぁって笑 俺…誰も褒めてくれないけど…すごいよくやってると思うんだけど…。
ー誰も言ってくれないから自分で言い出してるじゃん笑
カワノ うん笑 もうあとは、運命に委ねるよ、どうなってしまっても。…じゃあ、最後、行ってみますか!
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11.世界
このアルバムのフィナーレを飾るのは、アルバムのタイトルを冠する楽曲でもある「世界」。これまで幾度となく、彼らのライブの重要・重大な局面で鳴らされてきた、誰もが認める彼ら最大のアンセムである。
これまでに二度、録音をされ、最後のテイクとなったシカゴヴァージョンがこのアルバムには記録されている。アナログテープに向かって、一才の補正や修正、加工などを排したまま、あらゆる音と感情を剥き出しに、これまでにないほど壮絶な音が吐き出されている。ギターのチューニングは暴れ、ベースとドラムは軋み、怒鳴りつけるボーカルはスタジオの空気を震わせて反響し、声がこれまでにないほどザラザラと歪みきって、まるで悲鳴のように震えている。
カワノはこれまでに、挫け、傷つき、投げやりになりながらも、結局のところは何も諦めることはなく歌を届けてきた人間であり続けたように思う。そして、その歌はいつだって誰かのために歌われ続けてきたことも、事実であったと信じたい。そして、その歌はこの世界を生きていくことを強く肯定する叫びであったということも。
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カワノ 長かった戦いもこれで終わりですね! 終わったら何しますか!
ーなんでもいいけど…笑
カワノ …まぁ、帰るけど…。…また落ち着いたら飯でもいきましょうね。
ーもう終わった感出てるけど、最後に大物残ってるよ! まぁ、最後の最後がいっちばん長いんだけどね笑
カワノ これ、最初のテイクをとってる最中に、…多分平気で15分以上やってたのかな、インプロを。で、全員でゼェゼェ言いながら戻ったらスティーブが「すまん、曲が長すぎてテープがワンリール終わっちまった!」って笑
ー笑
カワノ マジかよ!笑 って。んで、結局テープの容量が、大体12分くらいが限度ってことで、この長さになったんだよね。
ーまぁそれでも11分超あるからね、十分やってるよ笑 …でも、一番変わったのは、このインプロのパートからの一連かもなぁ。インプロだからそりゃ、毎回アレンジは違うのは当たり前だけどさ、そういのではなく、音の存在感として…すごい、臨場感というか、このリアリティ。音が目の前に飛んでくる感触があって、それこそいつエフェクターを踏んだのか、とか、どれくらいの力で叩いたのか、とか、明確に何が起こってるのか、すごい目まぐるしく展開していく。
カワノ ああ、そう言ってもらえてよかった。この展開はいまだに賛否両論ですから笑
ーまぁ、あまり理解はされないだろうけど…でもクアトロワンマンで最後にやった「世界」のインプロは後ろから見てても壮観だったけどね笑 あそこの観客のテンション…興奮も困惑も、唖然とする感じも全部あった笑 あんなに熱気がありながら一体感みたいなのゼロなの、初めて見た笑 でも、あれだけの人が思い思いに…吠えるもの、叫ぶもの、泣くもの…あれはマジのサバトみたいで。
カワノ サバトって! デビルマンかよ笑
ー笑 全員狂ってて最高だったよ。メンバー全員ダイブさせて、お前も気づいたらフロアを練り歩いて叫んでるし笑 真髄はこれだ! って。
カワノ 良かった。あれがまさに理想だったんで笑 でも、今回のは前の録音よりもうちょっと無茶苦茶なんだよね。だいぶ無軌道な感じがするね。レコーディングも極まってきて、変なモードに入っちゃってるから。この、ギター2本のはちゃめちゃ具合…。特に、左が俺のギターなんだけど、もう、何も考えてない笑 本能の赴くままに…って感じ。
ーいや、でもね、以前の録音よりも、もっと一個一個の楽器の音が明瞭なんだよな、不思議と。前回の録音より混沌とはしてるんだけど、もっとエッジが立ってて。あと、バックで聴こえてくる声が折り重なってるのも狂気的だし。
カワノ あれは四人で一個の大きな部屋に入って叫びまくってるんだけど、レコーディング終盤で疲弊してるのもあって、全員とにかく奇声をあげまくる、というかね。ひたすらに…声裏返ってもいいからとにかく大きな声を出すのだ! という、もう、それに尽きるというか。この後、そのまま俺は歌を続行するんだけど。
ーで、そのファジーな展開を抜けた後の三拍のメロディ…これね…僕、泣きました。
カワノ あぁ、そう。
ーうん。歌のニュアンス…ここにきて一番ソフトな声で、語りかけるようなメロディに変わってて。旋律は変わってないんだけど…すごいよ、ここの歌のテイクは。もう、すごいことになっている…。
カワノ 笑 …よく録れてるなら良かった! やってる時はそうでもだけど、きき返すと緊張すんのよ! ミスってたらやり直しだから! うまくできてなかったらまた最初からや…って。
ーサビの絶叫は、このアルバムで一番の荒々しさと壮絶さなんだけど、それと対比するように一番柔らかい声が共存してて…。普通だったら、ボーカルはわけて録るじゃない? これも一発?
カワノ そうだね。
ーうん…だからこそなのか、その、生々しさや臨場感、リアリティ…そういうものもありつつ…なんとも言葉にはできないけど、この曲のボーカルテイクはね、すごいよ。音程やピッチがどうだとか、声が枯れてるとか、そういうことじゃない。とにかく俺は感動した。
カワノ そいつは良かったよ。…実はね、これのボーカルテイク、すげぇ面白い話があってさ。
ミックス作業に移って、曲を順ぐりにミキシングしていったんだけど、最終日、俺とスティーブだけで作業する時間があってね。んで、俺、最後だし、二人きりだから、と思って、「スティーヴ、俺は自分の声が嫌いなんだよ」って彼に言ったんだよね。
ーへぇ。
カワノ PJ(・ハーヴェイ)やカート(・コバーン)のような、偉大なボーカリストの歌を録音した人だからね。俺は自分の声が嫌いだから…どう思ったのかな、って。「もっといい声で歌えたらいいんだけど…俺の声どう思う?」って言ったら、うなづいて、「お前こっちにきてみろ」って、卓のフェーダーの前まで連れて行かれてね。で、「この最後の曲の、最後のコーラス(所謂サビのこと)の歌を聴いてみろ」って、「世界」を再生しながら、フェーダーをいじりながら聴かせてくれて。
そしたら、最後の最後だからさ、俺も体に力入っちゃってて、最後のブレイクの「ウオォー!!」からアンビエンスマイクがボウゥ! って、すごい音出てて。最後のサビは、レベルオーバーなのか喉のノイズなのか、すごい音が鳴ってて。で、それを俺に聴かせて、「お前はすごい声が出せている。お前のシャウトはグレートだ!」って、俺に親指立ててくれて。で、「俺はこのクールなノイズをミックスで残そうと思うよ」っつって。
ー…アツいな。
カワノ だからこれ、よく聴いたら一番のサビと、最後のサビで声の処理が違うんだよね。最後のサビ、よく聴いたらアンビエンスマイクが思いっきりゲイン膨らんでて、なんか声まで飽和してるんだよ。しかもあえて残してはいるけど、うまいことミックスしてくれたのか、すげぇそれがかっこよくてね笑 普通だったら整えて出しちゃうところだと思うけど、こうやってテープにその形跡を残してくれて。彼の、ありのままを記録する、っていうこだわりと俺たちの音へのリスペクトとか、そういうのを感じたし…普通は気づくか気づかないかわからない、些細な部分だけどさ。これは、もしかしたら俺へのメッセージかもしれない…って、思ってるよ。
ー…あんまり表立ってレコーディングの話をする機会はないだろうけど、もうこれだけで今日の元、取れましたね…笑
カワノ そうね笑
ーこの最後の絶叫も…うまく言えないけど、すごい迫力で。痛ましいし、デカいし、重い。
カワノ …歌う前に、「こいつでとどめだ」ってのは、すごい頭の中にあってね。もう、エレクトリカルオーディオにたどり着くまでの全て…このアルバムの曲を書き出した頃から…もっと言えば、俺が歌を通して残せること全て…うん…。全てを吐き出した、ここで。…長いアルバムだけどさ、この曲、この叫びを、聴いてほしいって、それに尽きるっすね。うん…俺の言いたいこと、そんだけっすわ。
ー…ここまでアルバム聴き返して思うけど、なんともカロリーの高いアルバムですな…。
カワノ うん。俺も、自分で言うのもなんだけど、しんどい…。
ー前作もボリュームはあったんだけどね。でも、こっちの方が重い。
カワノ 曲数的にはね。でも、曲の放ってるエネルギーが段違いな気がする。段違いに魂との距離が近い…。あぁ、でもまぁ、これは作ってる本人だけか。しんどいのは。
ーあぁ、いや…聴いてる側もしんどいよ笑 この曲やお前に、どれくらい心を傾けるかでそれは違ってくるけど、深く預けている瞬間は、同じようにきついと思う。
カワノ あぁ、そう。…出来事を振り返って、折り合いをつけてきたものを見つめてそれを回想するのと、今の視界で蠢いてるものを吐き出すのとじゃ、やっぱり心の置き方が全然違うんだなぁ、って、気づいたな。よりパーソナリティを切り出してるし、肉体的で、だからヘビーだよ。だからしんどいのかも。
ー最後の「世界」は、何度もお前らのライブの大事な局面で演奏されてきたよくだし、今回で合計で三度目の再録になるけど、それでもそう思う? 何度も歌ってきても。
カワノ うん。…むしろ、「世界」は時間をかけて、ここまで歌い続けてきたからこそ、っていうのもあるけど、今ようやくアルバムを作り終えたからこそ、この曲で描いた風景に追いついた感触がある。ここまでの10曲が…この10曲だけじゃなく、これまでの、全ての歌、それが俺の背中を押して、ようやく辿り着いた歌、っていうか。だから、そういう意味でもヘビーかな。
ーほぉ、そうか。
カワノ この曲は、実は一番最初に俺が歌詞を書いた曲で。18,19の頃にオリジナルの原型は作ったんだけど、その時から遥かに先の出来事を書いたつもりだったし、俺の空想だったり、あるいは夢物語や理想郷そのものでもあったというか。歌詞は時間と共に研ぎ澄ましていったけど、気持ちだけは変わらずに、この曲の原型を作った、歌詞を書いてギターを握ったばかりの十九歳の俺…その自分がいつか時間をかけて死ぬまでにたどり着けたら、って場所を歌った曲だったから。
ーそれが今、ようやく真の意味でアルバムの結末としてパッケージングされた、と。…不思議だね。ある意味じゃ、この曲が出来上がった瞬間から…長い時間をかけて歌い継いできた曲で、このアルバムのコンセプトとか表現したいことの帰結は、先を見据えて作った曲とはいえ、もうすでに歌われていた、と。
カワノ そうだね。…つまるところ、俺が歌ってることって、そんなんばっかだね。何回も思案して、遠回りして、でも結局、一番最初の原風景にそれがあったじゃん、って。取り戻したようでもあり、ずっと見えないだけでそばにあったようでもあり。…まぁ、夢見る、ってそういうことか。ありもせんものを思って、でもそれは思ってる分だけそばにあって…。そういう不思議な距離感。
ーずっとライブで歌ってきた歌だしな。探さずともそばにあった感覚、っていうのはあるんだろうね。
カワノ あとはまぁ、徹底して、俺がブレなかった…ってことだわ。こう、自分が歌を歌う、と決めた日から、たくさん惑ったり失敗を重ねながらも、一番大事な部分は守り抜けたのかもなぁ。…みなさんご存知の通り、誰よりも気合い入ってるから、俺は笑
ーいやぁ、それはもう、間違いなく見せてくれましたよ笑
カワノ でも、それでも探して、時間をかけてよかったとすら思ってるんだよね。「#3」の頃は胸いっぱいにあった俺のロマンチズムとか、臭い表現だと夢や希望が、若さもあって、自分で自分を後押しをする形で、この曲が収録されて…。でも、現実はそうもうまくいかない、苦しいし悲しい…って、時間と共に黄昏ていっちゃって笑 「FCKE」はその上での、歳とって枯れてしまった俺の身体でこの歌を鳴らしてて…それでも辿り着けた実感はなかった。それも間違ってはいないし、ある意味届かない状態っていうのもまた美しいんだけどさ。
でも、そうやって自分自身、すり減らしていって、その、すり減った自分の破片を撒くみたいにライブでは歌い続けててね。いつか、ここで書いた景色や未来にたどり着くんじゃないか、って。そうやって解像度を上げたり、俺が前進することで、最後、このテイクで完結できた。だから、分かりきった結末とか、自分で書いた筋書き、…見えないだけで近くにあったものではあるのかもしんないけど…それでもいい。
ーここまでに刻んできた曲で、その理想めがけて自分の中から湧き出るものを組み上げて行って、その最中で少しづつ歌を歌う自分が自壊していくにつれて、すでに存在していた…存在していた、っていうか、あるはずだ、と信じたお前の理想郷に、歌に近づいていったってことか。
カワノ 積み上げた先にあるべき景色だ、って信じてたし思ってた、って意味では、ゴールとしてこの歌はあったのかもしれない。単純に、CRYAMYのアンセムとして、とか、ワンマンライブのクローザーとして、とか、いろんな意味合いを背負ってきた曲ではあったけど…。
ーsyrup16gの「Reborn」とか、BUMPの「ガラスのブルース」とか…タイプ的に近いのはSUPERCARの「Trip Sky」みたいな、そういう…。
カワノ …まぁ、そこまでのポップソングとしての名曲の機能はないけどな、この曲笑 展開は多いし、長いし、インプロあるし、サビなんかないようなもんじゃん、徹頭徹尾怒鳴ってるだけだし笑 どっちかっていうと、なんか、パンクのライブの、もう、はちゃめちゃな大団円…Nirvanaの「Territorial Pissings」みたいに、ライブの最後、ギターとかステージセットとかを、何もかもぶっ壊して破綻させたり。あとは、ドアーズの「The End」みたいに、もう、本当にコンサートを壮絶に締めくくる意味でのクローザーの意味が近い笑 …もう、中盤のインプロは完全に「The End」の血脈だから。あれも継承されていったもんでさ。ドアーズ、ワイパーズ、クラウド・ナッシングス、で、ワシら…って継承…を、烏滸がましいですが、したつもり笑
ーあぁ、まぁ、そっちの方がお前ららしいか笑
カワノ まぁ、結果的にそういう役割も背負いつつ、でも、明確に一本、筋があったとすれば、…何もかも包括した上で、この歌は、「カワノの歌」として目指した究極であった、って、思うかなぁ。今も昔も…これの原型の歌詞を作って、もう10年が迫ろうとしてるけどさ。歌いたいことは多くあったけど、その、じゃあいろんなことを論じたり表明したりして、最後に言いたいこと、って意味で。
ーでも、…ちょっと聴きづらい事だけどさ、その理想を追求した先の究極、っていうものを、このセカンドアルバムで提示する、って言うのは…ある意味、もう、お前の中で、自分にとどめを刺す行為に近いと思うんだけど。その、とどめをくれる、っていう行為を、まだ先伸ばしていくこともできただろうし、なんなら、この歌を受けて何かを新しく作り出すこともできたはずで。
カワノ あぁ、まぁ、普通に行くなら、そうなのかね。でも、繰り返すけど、このアルバムを作る、ってなってから…っていうか、もはやこのアルバムの曲を作ってる瞬間から…もう先のことは一切考えんかったな。それは、今も全く変わってない。
ー何か…そういう自分を変える出来事とかも…。
カワノ ない。人を変えるって相当だからね、そういう意味じゃ。
ー…でも変化もあるだろうが。そもそも、「FCKE」で再録をリリースした時のマインドはどういうもんだったのか、っていうのは少し前にインタビューでも話をしたけど、今君が抱えているものっていうのはあの当時よりも確実に変わってると思うんだよね。
カワノ あぁ、それに関しちゃあ、変わらざるを得なかった、っていうのが正しいかなぁ。そもそも、最初に「FCKE」を構想した頃はまだコロナ禍の真っ只中にあったから、リリースまでに「まだだ、まだだ」って俺の自我のようなものを抑え込んで内側に潜ってる時期だったし。発売も、ライブでの制限が明けるぞ、ってお達しが2022年の秋頃にあって、じゃあ2023年、満を辞してリリースだ、って決めたの覚えてるんだけど。
ーうんうん。
カワノ あとは、今置かれてる状況…ずっとフィジカルでしか出してなかった音源をサブスクに出すことを決めたり、色々な邪魔…くだらんしがらみとか引かれてたレールや糸を引いてる何かを何もかもぶっちぎることや、アメリカでのレコーディング、取り壊しの前の野音での最後のワンマン…去年の段階では全く、一つも想像していなかったしね。
ーそうだね。2023年に入ってから、一気にさまざまな状況が動き出した。…動き出した、っていうか、側から見てたらお前が動かし始めたんだけど。すごく過剰に。
カワノ うん。まぁ、そういう出来事が決まっていくことって、もはや運命じみてるというか。そういうものがどんどん決まっていくんだとしたら、これはもう、変わらざるを得なかったって言ったけど、もはや変化とか、そういう次元ではなかった。やるしかねぇ、し、ここしかねぇっていう。悲しいがもはや今しか動けない、俺は、って。…でも、俺のせいでもあるか。そうやって俺がなにかをやろうとしなかったら何も動かなかったわけだし…。
もうね、蓋開けてみたら、やってることはなんもかんも博打だよ。パチンコや競馬と一緒。んで、博打だけど…すごく大きな意味があった、というか。周りが見てる以上に、今の結果は全部俺が打ってきた博打の成果ではあるのよ、良くも悪くも。見えないところで成功したこともあるし、失敗したこともあるけどさ。…まだ、セカンドアルバムと、野音のワンマン、っていう大博打は控えてるんだけどね。
ーそういう意味じゃ、セカンドアルバムの曲をこの間に作っていたこともすごく影響がありそうだけどね。「FCKE」のリリースと並行して制作は進んでたわけじゃん。
カワノ うん。まぁ正直それが一番、良くも悪くも俺をここまで駆り立てたとは思ってるよ。変な話だけど、2022年の俺は…いろんな理由があったけど、ほぼ延命治療で生き延びてるようなもんだったから。で、悪いことは重なるもんで、悲しいこともたくさんあって…。そんな中で開き直ってああいう曲を作るようになって、それに引っ張られてライブのやり方もどんどんシリアスになっていって、生活や活動でも不要で不純な周りのものを遠ざけてってね。頭がおかしくなったとか、これから待ってる成功をドブに捨てたとか、これまでライブに来てたお客さんからも「あいつら終わった」とか、そういうことも言われたし笑 で、そうなっていくと、メンバーもスタッフも不安になっていくしね。
結局、誰からも…近い人たちからすら、理解されないし、何からも守ってもらえなくなって、自分と並走して自分を助けてくれるものは、自分自身から湧いてくるインスピレーションしかなかった、っていう状況を一年間繰り返して…。…最後まで自分を信じて走ってきたけど、そりゃあ、そういう具合なら、もうトドメも刺したくなるよ笑 疲れてしまった、っていう…全然美しい話じゃなくて悪いけどさ、これはもう、最後は俺が俺自身と殺し合ってるような、そんな時間..非常に怒涛の二年間だった。…あと半年くらい残ってるけど。
ー…。
カワノ …何かが変わった、としたら、2023年の始まりを起点に、そういうことを経て、これまでのようにもがいて開く、ってより、明確に壊して、閉じる方向へどんどん意識が向いていった、ってことだな。そっちの方が…悲しいけど俺は得意だったし、力を最大に発揮できる。そして、そうやって心が動くことが、最後の俺のトリガーだった。
…でも、そうやって結末を予測したり、あらかじめ決める、っていうことは、聴衆へ仕掛ける欺きではあるけど、一方じゃあ、ある意味では覚悟がいるんだよね。それを歌うに足る人間にならないと、本当の意味ではその歌に届かない、っていう。それは、ただこの曲をレコーディングしてライブで歌い継ぐだけではダメで…今ようやく、これを歌えるような、状況とか状態とか、そういうところまできたな、って思う。
…結局、そういう風になって、最後、コイツを、鳴らすべき時と、鳴らされるべき場所で、俺の愛する皆さんへぶっ飛ばすこと…自分もろとも吐き出して爆発させるために、このバンドは産まれたとすら思うのね、もはや。
ーそっか…。
カワノ あぁ、でも今話してて思ったけど、でも妙な話だな笑 誰かの人生とか、命とか、賛美する…先の未来を置いていくことを歌ってるんだけど…これを俺は、自分のそういうものを閉じたり壊すことで、ことをなそう、及ぼそうとしてるというか。…結局、自分の中のヤケクソになる気持ちとか、破壊願望とか、逃避欲求とか、そこの領域からは…結果、出られなかった。ある意味、どこまでも、自分本位なアルバムになってしまったかもしれないし…自分の命を使ってどうこうしてしまおう、っていう、ものすごく傲慢な作品にはなったかもしれないね。まぁ、非常に気持ちがよかったよ、それは笑
ー…。
カワノ でも、色々言ったけど…このアルバムで色んなことを歌ったけどね、最後、結局俺が言いたいことはさ、とにかく…どんな時代になっても、どんな世界になっても、どんな人生になっても「みなさん、生きていてほしいです」ってこと。そしてそれは、何も必要とされないこと。どんなふうになっても許されること。たくましくある必要も、かといって追い詰められる必要もなく、ただ自然にね…って、こんだけ。すごく単純なんだけど、これに尽きるものはない。ただこれだけのことを言うのに、たくさん心も時間も使ったし、幼い俺は、そういうことを歌えるミュージシャンになりたかった。
…振り返ってみればさ、そりゃあ、ずっと前から同じことを歌ってはいたし、ステージでもそういう言葉を投げかけることはやってきたよ。でも、そうやって、足掻きながらも及ばずで言うことは…今振り返ってみれば、すごく、無力だった。…でも、さっきの話じゃないけど、俺は…やっぱ、無力ではあるけど、無力じゃダメなんだよ、って戦いながら生きなくてはいけない。だから、これを言うには…真の意味で、誠実に重大に深刻に誰かに声を投げかけるためには、ここまで徹底的に自分を壊してやんなきゃダメだったと思うのね。ここまでやらなくちゃ、歌う意味や理由はない。
振り返ってみたら…この、バンドっていうものは大体の時間が辛かったし、苦しい日々だったよ笑 こういっちゃうのはすごく申し訳がないんだけど、事実そうで。でも、数えるほどは「あぁ、良かった」って瞬間も迎えられたと思うんだよ。そういう時間があったから堪えられたし、逆に、辛い時間を超えたからそれがあったとも思う。そして、何より苦しみがあったから、今ようやく、何か意味のあるものを歌える姿までこれたと思ってて。そうなれたから、ようやく人に歌うことが、本来の意味で、望んだような形でできる。だから、悔いは一切ない。
ーうん。…内面に潜ったり、誰かを傷つけたり、理解を拒んだり…。でも、視線や主張、行為、何より歌は…そりゃ自分本位であるかもしれないけれど…最終的にはどこまで行っても他人に向いていて、誰かと関わろうとしてる。…そこは、結局最後まで、この歌が終わるまで、結局徹底されている。…だから、自分の内面のみに理想を求めないからアート的でもないし、だからといって外側に革命を起こして大きな人の波を扇動したり、仲間を増やして拓いていったりしないからポップスでもない。
カワノ 最初に話した通りだ…中途半端だし、どこにも置き場がなく寂しい、っていう笑
ーうん笑 でもそれは、「誰にも勝たない」っていう、お前が望んだ結末ではあり、だからこそ成し得た地平ではあると思うんだよね。すごく些細な世界だし、これが音楽史というか、この世のバンド全体の時間軸として、大きな意味を歴史や数字の領域で持つか、って言われると、絶対そんなことはない。…俺はそうであって欲しかったけど…。でも、だからこそ、本当にここまで徹底した作品にたどり着けたと思ってるし。…結局、誰にも見つけてもらえはしなかったけど、お前の視界に居合わせた数少ない人たちにとっては、何よりもお前らがこれをリリースしてくれたことは幸福だったと思う。
カワノ うん。
ー…あの、その…いろんなやり方が、あったと思うんだよ、最初は。人気者にも、孤高の存在にも、なろうと思えばなれたし、そう見せようと思えばできただろうし。でも、それを、選ばなかったのか、選べなかったのか…まぁ、どっちもあったと思うんだけどさ…、その、結果論だけど、CRYAMYは、今俺たちが見えているようなバンドとして、世に歌を投げかけ続けて。…なんだろう、だからこそ、ね、いろんなプレッシャーや、謎にする悔しい思い、果たさなくちゃいけない責任、周囲の雑音があっただろうし、それには十分傷ついたと思うのね。…多分一番、愚痴を聞いてた友達はきっと俺たちで笑
カワノ はは笑
ーそれが高じて、ここ一年はね、インタビューとか制作みたいな、こういうことも、素人ながらに面白がってやるようになったけど笑
カワノ …感謝してるよ。
ー…でも、そういうものをさ、丸ごと抱きしめた上で、それを呪ったりせず、結果として受け入れてそれで良かった、って言えたことが…俺はこのあと、お前がどうするのか、どんなふうに生きていくのか、とか、…もう、今年に入ってから死ぬほどやんややんや言われてうんざりしてるだろうから、あえて聞かないけど…良かったと思ってて。
カワノ そりゃ良かったよ。
ーでもお前が嫌な顔しようが、俺も、お客さんも、関係者の人も、お前に「俺らはこうしてほしい」って希望は伝えるけどさ笑 …でも、ステージだけでもさ、みてればわかるからね、普通に。お前が、なんか…おかしくなってるのなんか。
カワノ いやぁ、まぁ、いいじゃない、そこは笑 色々あるんだよ笑
ーあ、そう笑 …まぁ、その、俺も、…このアルバムを連れて行く旅は、見届けるつもりだから。なんか、色々笑 …でも、最後に日比谷でミラクル起こしてほしいな、俺は。
カワノ これ以上の!?
ーうん。
カワノ もう起こってるって!笑 こんなにズタズタのバンドで、いろんなことをやられてボロボロになりながらも、あんなにいいワンマンをやって、シカゴまで体を飛ばして、最後は取り壊される前の聖地野音…ドラマにできるぞ!
ーそうだね笑 でも、…これは個人の願望だけどさ、期待してるよ、きっと何かやってくれるはずって。
カワノ あぁ、そうか…。そしたら、まぁ…じゃあ、ただそこで見といてよ。とびっきりのやつをさ…物凄いのを見せるから笑 大きい声で、叫んで、…それしかできないけど、それでしかできないことを。…まっ、アルバム聴いて、来るべき日にね、待っといてくださいよ! ワンマンまであと半年もあるから笑 半年、じっくり聴いて、あとはもう…楽園へ! ですよ!
ー…でも、本当に、すごいアルバムですよ。誰も言わなくても、俺が言うし…世間が言わなくても、お前らのことが好きなみんなが、言う。
カワノ うん。嬉しいですよ。
ー…とにかく、発売楽しみにしてるよ。
カワノ そうだね。もう…ここまでべちゃくちゃ喋ったけど、そんなの、極論意味はなくて笑 我々が演奏に込めたこと、俺が歌に込めたこと、一人一人がこのアルバムを聴いて思ったこと、それが全てなんで。
あとは、まぁ…俺はステージ上に立ってる以上は、目の前にいる人間一人一人に、何もかも余すことなくくれてやろうと思って、力一杯やりますから。人間の明日のために歌うし、幸福を願うために歌うし、これから生きていく上での希望を見せるために歌うし。…心を預けてくれたら、その分、俺が歌で抱きしめて、きみの明日は俺が、俺が歌うんで、って。…まぁ、そんな感じかな。