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OFFICIAL INTERVIEW #5

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2023年12月20日(水)にリリースされるCRYAMYにとって二枚目のフルアルバム、「世界 / WORLD」。アメリカ・シカゴに渡り、オルタナの巨匠スティーブ・アルビニをエンジニアに迎えて収録された今作で、CRYAMYはこれまでの音楽性を急激に変貌させ、より生々しく、より眼前で演奏されているようなリアリティを刻んだ一作となった。

日本を遠く離れた憧れの場所での充実したレコーディングを迎えるまでに、決して短くはない時間ひたすらに神経を消耗させながら4名が走り抜けた記録は、これまでも強烈な感情の揺れ動きを過剰なまでに叩きつける楽曲を世の中にはなってきた彼らの作品の中でも一際異質な完成を迎え、深化したサウンドはその情念をより実感として感じられる仕上がりとなっている。

加えてそこに乗るVoカワノの綴る歌詞も、これまで以上に心揺さぶり、しかし、一歩間違えれば誰かを傷つけ、徹底的に否定をしてしまうような、非常に露悪的でグロテスクな言葉が並べられており、その意味では怪作…いや、これこそがまさしくCRYAMYの真の姿であり、最高傑作、といった作品となった。

結果、アルバムを一聴するにあたり、非常に根気とカロリーを必要とすることになった。だからこそ、このアルバムが誰にも聴かれる事なく(一歩間違えば、これまで彼らと繋がってきた人間すら受け入れることなく)ひっそりと埋もれてしまうのは、非常にもったいのないことだと強く思う。

ここではその一曲一曲についてカワノに丁寧に話を聞き、紐解いていくことでこのアルバムの正体を少しでも明らかにしようと試みている。彼は何を思い、何を感じ、このアルバムを届けることにしたのか、全曲解説と共にお送りしたいと思う。

アルバムリリースを前に、この作品への期待を高める一助に、そして、世に放たれたこの混乱を丸ごと閉じ込めたような作品をどうにか受け止める道標に、この一連の会談を役立ててほしいと思う。

____________________

ーまずはレコーディングお疲れ様でした。

カワノ ありがとうございます! 最終的に一人くらい撃ち殺されたらネタにもなるし面白かったんですが、残念ながら傷ひとつ負わずに帰ってきてしまいました! すんません!笑 シカゴは案外良い街で…。

ー縁起でもないことをいいなさんなよ笑

カワノ でも、本当はアル・カポネ(禁酒法時代に名を馳せたギャング。映画「アンタッチャブル」のモデルとしてよく知られており、シカゴ郊外に墓がある)のお墓に行ってみたかったんだけど、「あそこは治安が悪いから絶対に行くな! 強盗に遭うぞ!」って言われていけずで…。いけば良かったですよ。

ーいや、いいよ、行かなくて! で、肝心のレコーディングの手応えはいかがでしたか?

カワノ ええ、もう、やることは全部やったし、悔いはないですよ。非常に清々しい気分です。

ーそっか。あっちのレコーディングはどうだった? やっぱこっちとは違う?

カワノ いやぁ、なんもかんも違ったし、とにかく色々言いたいことはあるが…スティーブ・アルビニは本当に真摯に向き合ってくれたよ。言語の壁が不安だったけど、彼は英語も、すげぇ簡単な表現で、バカでもわかるようにゆっくりしゃべってくれてさ。全く意思疎通に問題はなかったし、優しかった。噂されてるような激しい人じゃなく、むしろ紳士だった、と言いたい笑 …いいもんができたと思う。

ミキシングまで終えて、マスタリングは日本に戻ってからずっとオンラインで続けていたんだけど(今会談の実施は9月末ごろ、帰国して二週間ほどで行われた)、ようやく完成が見えて…。色々フォーマットに合わせて作っていくんだけど、カセットマスターとかサブスク用のハイレゾ音源が上がって、最後にCD用のデータを作りきれば、って段階。ビニール用のラッカーカットは後日また、って感じ。ですんで、もうちょっとでケリがつくかな。

でも、アルバムのアートワークを組んだり、ツアーのあれこれで連絡を取り合ったり、野音の機材周りの仕込み(日比谷野外音楽堂でのライブは照明、音響機材含むセットは野音には常設しておらず、使用する機材は自ら手配・設営をしなくてはならない!)もあるし、方々と連絡を取り合いながら、スタッフ陣含めて休む暇は全くないんで。休暇とか挟むことはなく、年末までびっしりと、って感じですね。本当に…死にたいなぁと思ってるんですけど笑

ー相変わらずお忙しい…。

カワノ …自分で決めたことですから、しょうがないですけど、毎日何かしながら過ごしてますよ。まぁ、しんどいですが、体が壊れたりとか、そんなことはないですから、とりあえず体は動いてるんでね、大丈夫かなと。

ー連絡が取れない、って随分周りが心配してるから、連絡くらいは返してあげないと笑

カワノ あぁ…でも、もう今は…人と会うこともしんどい笑 しばらくそっとしておいてほしい…。

ーまぁ、忙しいし、やることやってヘロヘロだからな…。時間見つけてたまにはゆっくり過ごしなよ。

カワノ あぁ、それはしてるよ! アマゾンプライムで映画見たり…最近、アメリカ行く前からずっと読んでた本でね、「偽装死で別の人生を生きる」(エリザベス・グリーンウッド著)っていう本があって…。

ーまたすごいタイトルの読んでるねぇ。

カワノ いやぁ、これさ、すげぇ面白くて笑 読んで欲しいんだけど…今、バリバリ影響されてて笑 次の行き先はフィリピンかなぁ、って思ってます笑

ーまた旅に出るの?笑

カワノ 人生は旅の連続ですからね…。…スピってるわけじゃないけど笑

ー突然旅に出る奴らは…俺らの周りの奴らを見るに…ヤベェぞ!笑

カワノ ふふふ笑 そういう、旅の大先輩がいますから…。なかなかファンキーなラインナップで…。あんまり抵抗はないかも。今回のシカゴ旅もそうだけど笑

ーそうだね笑 それにしても、こんなにくたびれちゃって…。総計11曲のセカンドフルアルバムが完成して、これからツアーに出ようという人間とは思えないけど。…今作、じっくり聴かせてもらったんですが、なんというか、傑作とも名作とも言えない…そういう言葉すら使いたくない作品になりましたね。

カワノ …あなた、音源を送ってから返信まで三日かかりましたからね笑 あぁ、言葉に詰まっているのだろうなぁ、と思っていたら連絡が来たのでよかったです。

ーいや、あれは誰でも言葉に詰まるよ笑

カワノ ふふふ笑

ー…さて、僕も、そしてこれを聞くであろうお前らのリスナーも、全く言葉にすることができないであろう、とんでもない作品ではあるんで、今回は一曲ずつ、お話を聞きながらそれを紐解いていこうかな、ってスタートです。ちゃんと聴いてもらうのは難しい作品ですが…全く聴かれないのは勿体無いんで。

カワノ はい、よろしくお願いします。自分で言うのもなんですけど…まとまりのない、とっ散らかったアルバムで…。まぁ…ただ聴くだけでも、なんともしんどいくらいの、ね…。…大変だと思いますけど…。

ーそこは僕が頑張るので、あなたも頑張って、しゃべってもらって笑

カワノ そうだねぇ。

ー最初の導入だから、簡潔に質問をいくつかさせてほしいです。このアルバム、制作はいつ頃からスタートしたの?

カワノ う〜ん…大体、2022年。これ出るのいつになるのかわからんけど(その後、2023年12月20日に発売が決定した)…だから…大体1,2年くらい前ですね。2022年の年明け…1月頭からもう、バリバリに。

ーあぁ、早いんだ。そんなに。

カワノ 2021年のツアーが終わって、「#4」作り終わって、そこから一人で作り始めて。家でもう、ずーっと、宅録して。あの時期は、こう、喰らってる時期でしたから。息抜きでソロを作りつつ、真剣なものは没頭して…って感じで作業をしてて、「葬唱 / Ceremony」の歌詞と原型が完成して、ってところから始まってるかな。バンドメンバーで合わせ始めたのはそれから飛んで一年たって、2023年4月とか。怒涛のスケジュールで完成させましたね。アメリカに行くことが決まって、すぐにクアトロのワンマン…で、それをしっかり終えてから全員で合わせ始めた。順序がヘンテコだけど、「GOOD LUCK HUMAN」の方が古いんだよね、だから。

ーなるほど。その時期はバンドとしてもライブのやり方が大きく変わっていった時期だと思うんだけど。

カワノ あんまり喋んなくなって、客に対しても愛想悪くなったし、明らかに不機嫌そうに歌うようになったから?

ー周りにも言われたでしょ笑

 

カワノ まぁ、否定はできない笑 …周りはガチャガチャ言ってくるけどさ、色々あるんだよ、俺にも。

ー…でも、こう、そういうのもあるけど、なんだろう、全体の印象がもうちょっとハードになった、というか。音楽性の変化も顕著ではあるけど、曲が、ってよりも、歌詞や歌い方みたいな、もっと基礎の表現の仕方が。だからステージで見るような表面的な印象も、わかりやすくハードに変化していったのかな、と。

カワノ このアルバムに収録されてる曲が出来上がっていったっていう経緯…当然、去年はスティーブ(・アルビニ。シカゴ在住のエンジニアで今作のレコーディングで録音・ミックスを担当。)とやるとか全く想像してなかったけど…そういうの関係なく、明らかにこれまでの脈絡を無視…無視っつうか、ぶっ壊すみたいな、そういうことをすごく意識的にやっていたからかもしれない。

で、そういうものに…俺が逆に、そういう自分の曲や感情表現にあてられて、正直に自分を解放してやれる努力をしたというか。…まぁ、人から見たら、努力っていうか、人をシカトして傷つけていく、みたいな風に映ってるだろうけどさ笑

ーははは笑

カワノ でもそこは、俺自身自分に向かって、「変わる用意はあるか?」「曝け出す覚悟はあるか?」って問い続けてね。まぁ、そういうことを意識的にしていった一年で…みたいな? ステージ上でも迷っていたし、戦ってたし…ずっと模索の2022年だったかもね。それが今、ようやくしっくりきてるし、間違ってなかったって確信がある。…あれで失ったものは大きいかもしれないけど笑

ーそんなこと言い出したら、ここから失うものはその比じゃねぇな笑

カワノ ふふふ笑

ー…わかりやすいところだと、やっぱりこれから嫌というほど突っ込まれると思うけど…ここまで音楽性が変化するきっかけは何かあったの? あまりにも過剰だし、あまりにも突然変化が訪れたような。

カワノ う〜ん、なんだろうね。…でも、次作はもう、とんでもなくジャンクなものにしてやろうという脳みそはあったんだけど…やっていくうちにどんどん過剰な方向に進んでいってしまった感じはあるなぁ。リファレンスになったと思うんだけど、当時好んで聴いてた音楽も単純に下品でノイジーなものが多かったし。でも一番はねぇ…もうね、今回に限らずですが、色々頭おかしくなってたからだと思う。

ー笑

カワノ もう…一種我々のテーマじゃん、毎度毎度…何かヤケクソになるというのは笑 …で、結果…今となっては記憶が薄いから、他人事みたいなところもあって悪いんだけど、とにかく極限までやりきろう。シンプルに、どうなろうが好きなことやってみよう。それでどうなるのか世に問うてみよう、って。

…あとはこれまでCRYAMYでやってきたことが自分にフィットしなくなっていったとか、人から求められてることが俺のやりたいことではなくなってしまって、とにかくそれに冷や水を浴びせたかったんだろうな、って思う。…もう、さ、よくないところかもしれないけど、お前ら全員嫌な気持ちになってもらって、って笑

ーなるほど。とにかくこの、アルバムの閉塞感とか泥濘を歩いてるような重さを極めたようなムードや空気は、マジでとことん意識的だったんだ。

カワノ うん、超わざと笑 …大体俺が変なことしたり、顰蹙を買いそうな言動をする時って、全部意識的じゃない。わかる?

ーうん笑 別に音楽に限らず、何事もそうなんだけど…。なんか、基本は人当たりいいし、むしろ愛想良いんだけどねぇ…。

カワノ ねぇ! だから、子供とかにはすげぇ好かれるんだけどねぇ。

ー…でも、マジで突然なんの予告もなく真顔で人を脅かすし、試すし…人に踏み絵をさせたがるよな、お前笑 「こいつは信用できるのか?」っていう、そういう意味不明な拒絶。

カワノ いやぁ、本当にね、最低だし、傲慢な人間ですよ、僕は笑 それに…あんまり他人を信頼してないから…笑 …まあ、あとは、そうだね…ファーストアルバムのリリースとツアーを経ての…アルバムの世間からの評価軸としても、ライブツアーを経てのフロアの感じとしても、根本的に音楽人としての挫折感があり…ね。

かつて自分の夢や思い描いていたもの…「アルバムを出す」とか、「大勢の人に曲を聴いてもらう」とか…思い描いてたことを全て叶えた一方で、実際、それを目の当たりにしたら、案外大したことはなかった、あんまり感動的なものでもなんでもなかった、っていう。

ー当時のインタビューでも言ってたけど、ライブハウスを埋めるくらいの大勢の人の前で演奏して、アルバムを出すっていう夢を叶えてしまって、目指すものがなくなり、どうでも良くなった、っていう。

カワノ うん、そうねぇ。でさ…当時言わなかったけど、加えてもっとあけすけに言えば、そういう夢に対して自分が抱えてた淡い期待みたいなもの…そういうものの実際が、俺を失望させた、っていうか。例えば、その、幼いカワノ少年が夢にまでみて完成させた当時出したファーストフルアルバムの歌は、悲しいことに深いところまで人には届き切らなかったと思うのよ。ありがたいことにCDはたくさん買ってもらえたかもしれないけど、人にただたくさん聴いてもらえた、というのが、別にゴールではなかったのだ、と。…あらら、そういう感じですか、って、ムカつく通り越して、悲しいこと、多かったし。

ーお〜お〜…それ言っちゃっていいの?笑

カワノ いや、断言するけど、当時はね、そうだったんだよ。…いざ完成したけど、結果しっかり受け止められない・聴かれないまま、軽薄な感じで流れていっちゃっただけ、っていう。まぁ、そう言うのを目の当たりにして、それで…こう、自分のやってることに対して失望感があって。青臭い幻想とか、当時はあったんだけど、残念ながらそれも砕け散り笑 …でも、これは誰のせいとかではなく、ただただ俺が作った曲が、出来上がったもんがそういうもんだった、って言うだけなんだけどね。単純に、精度もするどさも足りなかった。

…でも、そう思いながらも、新しい曲を作りながら考えてたのは、これまでの作品をクソだとは思いたくない、何とかしてやりたい、これまでの過去や自分の愛すべき作品たちも肯定してやりたい、とか…。言っててわけわかんなくなってきたわ…、う〜ん、わかんねぇけど。

ーまぁ、…隠すことでもないけど、当時のツアーファイナルで「このアルバムは失敗した」ってほざいて空気を凍らせてたからね笑

カワノ あぁ、言った言った笑 当時は、ああ言ったこともお客さんにもスタッフたちにも死ぬほどごちゃごちゃ言われたけどね笑 ツアーファイナル出てくれた健太郎さん(アナログフィッシュ / Ba,Vo)にも「なんでお客さんにむかってあんなこと言うんだ! バカかお前は!」って怒られちゃってね笑 最後の最後に面倒なことになって…ああ、しまったなぁ、大人しく黙っとけばよかったなぁ、って…。

ーまぁ、いいけどさ…。ともかく、あの時期は、いろんな目的を果たした一方で、実際のそれはすごく自分としては不本意なものだった、と。…それはいいけど、俺も「わざわざ言わなくてもいいのに。馬鹿だなぁ」と思ったよ笑

カワノ …すみませんね、本当に。そういうの言わないと耐えられなかったんですよ、当時は笑

ー…変なバンドだよ、お前らは笑 普通そんなことは、外面気にしてビビって言えないか、マジで思ってても周りから止められるって笑

カワノ いや、あれはね、言いすぎたなぁと思ってるし、今でもほら、歌うから、当時の曲も。

ーでもそこまで言うほど悲観しなくても…とはみんな思ってると思うけどね。成し遂げてきたことは少なからず何かあるだろうに。

カワノ でも…いくらそう言おうが、どれだけ徹底的にやろうが…もうちょっと切実にやり遂げたはずのものが、どれだけ心を砕いてライブやリリースを重ねても、チャラけた空気とか、不本意な見られ方や受け止め方で人には伝わってしまう、ってのは、すごい、あったよ。…俺が奥歯を噛んでる状況すら、本当にくだらない奴らに笑われていくんだな、って落ち込みもあってさ。

一方では、それもまぁ、結局自業自得、自己責任っていうかね。…まぁ、その、そういう領域に…あえて卑下した言い方するけど笑 俺の力とか才能が、及ばないばかりに、一瞬も太刀打ちできず、って話なだけで。

…俺たちは結局ここまでレーベルもマネジメントもいないし、制作とかもいない。今作もそうだけど、テレビとかラジオとか、でかいイベントに呼ばれるとか、コンサート会社やメディアのプッシュみたいなものも、何もできなくてもやってこれたけど、それは裏を返せば、そういう世界の人たちには俺たちはいらなかった、ってことなのよ。時代や音楽産業、コンサートとかライブハウスとかの仕組みにも必要とされなかったってことで。変なおっさんに失礼な態度取られたり、「お前ら干すからな!」みたいなこと言われたり、実際、ちゃんと干されてきたし笑 …まぁ、そういう、「お前らはいらない」と言われながらそれでもやってきた、ってことでさ。これは別に、かっこいいことではないし。かといって、遠くに自分だけの居場所が作れたか、というとそういう力もなかったし…。自分の音に心を預けてもらえなかった、って言うのは、自業自得なんだよね、結局。

…まぁ、簡単にいうと、今まで居心地悪いのを我慢してたけど、もう無理! こんなことやってられるか! ってなって暴れ始めた、んで、どっか変な方向にいっちゃった、っていうね笑

ー笑

カワノ でも、紆余曲折を経て、みんながみんな、汗も涙もたらして変化を選んで進んでいって、この間、クアトロですごくいいライブができて...。ついてきてくれた人たちに素晴らしいライブを見せられたから...なんかこう、悔いはないし...だからこそ、最後にスティーブとのレコーディングに走り出すきっかけになったっていうか。

ーでも、そういうバンドのエンジニアとして、今作ではスティーブ・アルビニが入る、っていうのはすげぇ面白いじゃん。オーバーグラウンドには入れず、アンダーグラウンドでは認められてない、周りに同じような境遇で並走する仲間も味方もいない、って、そういう、まぁ〜とんでもなく中途半端で、誰からも求められてないようなバンドが笑 オーバーもアンダーも唸らせたUSオルタナの巨匠と、まさか手を組むとは誰も思ってないわけじゃん。

カワノ あぁ、でもその意味じゃあ、やっぱり、スティーブとやることになったのももちろん、なんのかんのと大きいよ。当時は勢いだけだったけど..変な曲がいっぱいできた! ダメもとでメールしたら返ってきた! 金はクアトロリキッドをなんとか売り切ったらやれない値段ではない! で、ゴーしたってのはあるけど。実際、いっぱい候補の曲はあったけど、俺の大尊敬する彼とやれるなら妥協はしない、って好奇心とか欲望に忠実に、振り切って選曲したところもいくつかあるしね。無難なポップスとか、歌モノっぽい曲とか…嫌な言い方するけど、世の皆さんが喜びそうなことをやろうと思えばいくらでもやれるけど、そうではなくて、あの人の技に期待や夢を持って、あくまで自分の表現に最適なモノだけを純粋に追求できたのは大きい、それが。

ーうんうん。

カワノ あとは、…このアルバムは、とにかく叫んだり、不協しまくってる曲が多いでしょ? 2022年から身の回りの出来事や俺の気分の浮き沈みですごくシリアスになっている中で、今までみたいなシンプルなポップソングを書くことではその状況は救われなかった。もちろん、歌ってることはシリアスだけど、なんというか…メロディがいやらしくて邪魔くさいと思ったというか。…嫌な言い方だけど、結局ポップメロディって、フィルターでしかない、俺にとって、って。

ーフィルター…自分の感情とか、そういうものを届ける上で、邪魔になったり、逆に意味合いを変えてしまったり…。

カワノ です、です。まぁ、そこまでせんでも、とは思うけどね笑 当時は、すごい極端な思考回路に陥ってたかもなんだけど。でも、だから、…むしろ、感情的でただ怒鳴っているだけの、原始的な部分が先行した叫びとか、意味のない騒音が欲しかった。んで、それがとにかくヘビーで硬くて…そういうイメージがずっとあって。もう、それが結果的に…出来上がってみたら不気味な領域まで、いっちゃってたのは想像以上だったけどさ。

で、プラス、そうでありつつ…ちゃんと自分を泣かせてくれるようなもの。泣ける音楽。それは双方向的で…聴く側もそうだけど、作者からしてもそうで。俺が、痛みとか悲しみと引き換えに買った音楽ね。そういうのを作りたかった。悲痛で悲嘆であればあるほど良い、っつうかね。

そして、そういう曲を…俺と同じような、もう一人の自分みたいなやつに曲を書いてあげたかったし。そういうやつ、いると信じたかったし。

ーうん。…でも、この作品、小細工抜きで、…さっきの話をひっくり返すみたいだけどさ、誰かに必要とされることとか、しっかり受け止められることは、ここにきてここまで振り切ったものを出されると、もはや重大じゃなくなってるような。…どこまでも凶悪で残酷なことを叩きつけて、ただ聴き手にしかと問うているすごくいさぎのいいアルバムだし。で、誰かに歌う、っていう側面は元からありつつブレてないんだけど、もっと主観的な感じがする。マジで好き放題やってやったぜ! って。ある種挑発的だし、挑戦的な感じ。

カワノ まさにそうだね。…しかし、振り返って、結局のところ一番は、俺が…みんながどうだ、じゃなく、この俺が悔いを残さない作品にしたかった。誰かに向かって歌いつつも、俺が俺のために、ってね。シカゴについてから最後まで何一つもやり残すことをしたくなかった、っていう。…うん、長くなっちゃってごめんね。

ー…導入の最後に、このアルバムのタイトルって決まったの?

カワノ 「世界」(英題は「WORLD」と命名された)。色々考えたけど、これしかなかったです。このアルバムに名前をくれてやるなら。

ー漢字2文字か〜!

カワノ 渋くない? かっこいいでしょ。

ー…ファーストの流れを汲むならばセルフタイトルに副題をつける、って言うのもありだと思うし、当初はその形で俺らも資料作って、リリースを発表してたと思うんだけど。(3月時点では各種ニュースサイトでは別称を与えて告知されていた。)

カワノ まぁ、どうでもいいかな、って笑 「えっ!違うの!?」って色んな人に言われたけど笑 「なんとかしといてください」って。

ーおいおい笑

カワノ でも、俺の気分で変えただけじゃないんだけどねぇ笑 何も面白い話はないんだけど…まぁ、そうね…、タイトルをさ、最終的にそう決めたのも、なんか…カタログとしてこれまでの作品と並べた時にさ、未来があるみたいで嫌じゃん。やり残すことがないように、って作ったものなのにさ。…未来はないんだ、だから俺はもうここで全て出し尽くすぞ、ってつもりで作ったんだから、今回のアルバムは。

ーなるほどね。

カワノ これから俺がやることなすこと全部俺の遺書じゃ! 喰らえ! みたいな笑 まぁ、あと…ストレートしか投げてないんでね、今作は。変な音楽ばっかりだからそうは受け止められなくてもいいけど…俺はこのアルバム、ストレートしか投げてない。だから、タイトルもストレートでいいんだよね。ごちゃごちゃ書く必要は、ございませんから、ええ。

ー…ちなみにこのアルバム、他の周りの人には聴かせてるの?

カワノ お世話になった人や連絡くれてた友達には! でも残念ながら評判悪いよ。そもそも、バンドマンも、ライブハウスの人もレコード会社の人も、音楽関係の人たち…まだ誰一人感想が来ないから笑 …誰も最後まで聞いてないんじゃないかな?

ーはっはっはっ!笑 マジで?

カワノ もう、本当に、全滅! 全滅…とまではいかんか。あんたみたいにね…ちゃんと聴いた選ばれし友が…目の前にはいるが…ね笑 でも、それは今のところ推定約1名笑 まぁ俺も、あんまり送らなきゃ良かったんだけど笑

ーあれはまぁ、ミュージシャンでも人選ぶか…特に俺ら世代の人間にはどうにも耐性のないものが並んでいるというか…。

カワノ まぁ、そういうわけなんで…音楽やってる人でもキツい、っていう笑 ですから、これ聴くお客さんもね、3曲目くらいでいったん、聴くのやめてもらってね笑 脱落してもらってもいいんで、最終的には。…だから、無理に受け入れる必要はない。全く。

ー…どうする? これ見て、大急ぎで連絡してくるぞ、カワノの機嫌損ねた! って笑

カワノ ないない笑 でも、まぁそういう、どんなに頑張っても、結局ここまでやっても誰も認めてくれないし、いつまでも周りに理解者が不在で寂しく突っ立ってる感じも俺の愛らしいところってことでさ笑 そういう存在でも…気合と魂でなんとか生きてきましたよ、いけたよ、って笑

 

ー…でも、俺は何かを成し遂げてほしいけどなぁ、このアルバムで。こう…確実にお前は鼻で笑ってる側の人間みたいなこと言うけど、成功してほしい笑

カワノ あぁ、でもその意味じゃね…それは全く望んでないんだけど…悪いけどさ…。…しかしね、むしろここまで同業の人間からの評判が悪いとね…めちゃくちゃいいアルバムの予感があるんだよね、俺は。まずはこのアルバム、絶対的に全ての人から「劇物」「異物」だと思われたかったし、そういう驚きが、俺が小さなロック少年だった頃の「クールさ」だったというか。だから、ここまでは、…実は流れとしては非常にいいんだよね。で、できた作品もさ…どれくらいいいかっていうと…ジーザス・リザード位いい!

ーなんでそこマニアックなの?笑

カワノ スティーブとか、シカゴつながりということで…。ともかく、この偏屈者の俺が手放しで満足だ、と言い切ってるくらい…今作、俺にとってはだけど、今までで一番最高のアルバムだと思ってるから、もうね、それだけでいいの。…またさらに三日後に、もしかしたら感想がくるかもしれないしね笑

ー…でもさ、人に聴かせる上でもヤケクソにならんでも良くない?

カワノ まぁね笑 …でもいいんだ、それで。別に、便りがすぐに帰ってくることなんて期待もしてなきゃ望んでもないわけでさ。忘れた頃に届いた手紙の方が大事だったりするじゃん。…今、いいこと言ったな、俺…笑

ー…頑張って明るくしなくていいよ笑

カワノ 笑 まぁ、でも、便りが欲しくて言葉を吐いてるわけではないので。それぞれの人生で交差した瞬間にその時の気持ちで声をかけてる方がイメージに近い。で、人はね、それを無視することも、腰を据えて対話することも、まぁどっちでも自分で決めれば良いじゃん、って。うん…繰り返すけど、何もかんもどうでもいいんだよね、俺。…25歳ぐらいから笑

ー寂しいこと言うなよ。

カワノ 寂しくないよ、その瞬間だけはその人だけに向き合ってるんだから。で、音楽って、その人がいなくなった後も思い出せるんだから、永遠に寂しくなる瞬間はないよ。

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1.世界

アルバムの幕開けを飾る一曲。

絡みつくような粘着質なフィードバックノイズと、低音域を泳ぐ太いベース、塊のように重い太鼓が目の前でなり始めてからは、一瞬にして駆け抜ける至極真っ直ぐなサウンドとメロディで鳴らされるパンク/ハードコア。

これまでも、これからも求められるであろう「勇気」も「本気」も「夢中」も「狂気」も、「邪魔だ」とかなぐり捨て、必要とされた「声」も「歌」も、「今後必要ない」と壊し、徹底的に「不幸」であることを望まれ続けた男は「うるさい」と絶叫する。

自分にのしかかるありとあらゆることを拒絶する。痛みと悲しみを吐く。このアルバムを、たった2分で簡潔に、そして鮮烈に宣告する絶叫は、鼓膜を破るほどに壮絶で悲壮だ。

安易に勝ち組の側に立たず、勝つ力を放棄し、勝ち目のある戦いにはのらず、むしろ病的に、偏執的に、徹底して「何にも勝たない」まま自殺することで歌を届けることを選び続けることの宣言でもあり、自嘲でもあるこの歌はどこまで行っても悲しい。そして、それが「We Are CRYAMY」に帰着することも。

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ー30秒以上のフィードバックノイズで幕を開けて、シンプルなパンクロックで疾走、最後はノイズとポエトリーリーディングで終わるんですが、終わってみれば2分と少しのシンプルなパンクロック/ハードコアパンクでアルバムは幕を開けてますね。

カワノ まぁ、ノイズパートが長いから実際は1分ちょっとの曲だけど。…こういう曲前のストロークって、実は一番自然体でさ。テープで全員一斉にブースの区切りのない部屋で楽器を録音するから、リールを回したら演奏が録音されっぱなしになるんだよね。だから、現代っ子の俺たちが普通にやってるようなレコーディング…クリックでカウントをとりながら、「録るよ!」ってタイミングでパソコンが動き出して、んで演奏するんじゃなくて、適当に音出して、で、全員が整ったら合図で入る、っていう。それであの長さ笑

「THE WORLD」はこのアルバムの中でも最後にできた曲ですね。だから、一番最後に出来上がった「THE WORLD」でアルバムが始まって、一番最初に作った「世界」でこのアルバムが終わる、っていう。

ーあ、そうだったんだ。逆になってる。

カワノ …まずね、暫定の段階だと、一曲目はアレンジ違いの、もっとダークで、もうちょいわかりやすくオールドサイケとか、その文脈にあるタルいロックンロールっぽい、良くも悪くももうちょい「洋楽的」な編曲だった「葬唱」の予定だったんですよ。あれはあれでよかったな…。結局あの曲は、勢いで突っ走る編曲にガラッと変えてメタルっぽくなったけど。で…あの曲がこのアルバムのとっかかりで、端的にこのアルバムの、乱暴に分割した時の「陰陽」の「陰」質の部分とか、俺の邪気と諦念みたいなものの象徴になる一曲だったんで、順序として、そこから「陽」側に転ずる表現していこうかな、と。

だけど、歌詞のストーリーをアルバムとして精査していく段階で曲順が変わっていって。ってのも、その…このアルバムはね、最終的には明確に陰陽でコントラストを取る、って構図ではなくなったんだよね。どこにも、どちらも共存してしまった。だから、いろんなものをないまぜにしちゃおう、と。で、いざ全体の流れが仕上がったら、最後に、欠けていたこのアルバムの画竜点睛を打つのだ!と思い立ってさ。ざっと10分くらいで歌詞を殴り書いたのがこれ。

ーなるほどね。そういう意味では、ある種順序だててお前の「若さ」みたいなものを追っていったファーストアルバムでやったみたいな、整頓した流れを作って表現するやり方からは図らずも離れた、ってことか。

カワノ ですな。前作はかなり几帳面に作った感じあるから、今作はもうちょいヘロヘロかもしれん。カチッとしてないっていうか。うん…聴き進めればわかるけど、もっとグチャグチャに煮詰めて…変な言い方だけど、聴く人に覚悟とか、心を整理することを要求してるかも。

ーとはいえ、前作の「CRYAMY-red album-」と同じく、短い尺のパンクロックでアルバムは幕開けになってて、これはなんか、作品の一番最初は爆走パンクでぶっ飛ばす、っていう、ある種CRYAMY的だなぁと思うな。

カワノ あぁ、そっか。まぁ…結局、アルバムを通して言いたいことは全て言い切ってしまってるからね、この曲を書き出した時点で。必然的に歌詞も短くなるし曲も短い…あぁ、でも今見たら別に、一般的には短い歌詞でもないな笑

ーうん、最後のスポークンワーズのセクションを入れるとまぁまぁべしゃってるよね。

カワノ …でもコンパクトなスピードの速い短い曲は俺も大好きだし、メロディもシンプルで、結果的にはすごく良かった。リバティーンズのファーストっぽいし…メロディもダイナミクスが大きいから、もはや、パンクってよりはある種、メロコア的というか。アルバムの中でも一番ポップな曲だと思うしね。まぁ、だから…音楽的にはいうことない。3コードのシンプルなハードコアパンクを「We Are CRYAMY」って歌詞の通りにやっただけ。

ー音源をもらって頭から聴いたんだけど、出だしの歌詞がいきなり強烈で、一発目からこういう強い言葉を持ってくる感じ…歌声のこの、アナログ的な処理の、声のトーンや音程、帯域とかを機械的にいじってない生っぽさもあって、すごくこう、来るものがあるというか。

カワノ 自分でも気に入ってますよ、この導入は。…冷静に見たら、言い過ぎだろ、って思わなくもないけど、むしろそこまで言い切ってしまえたことが気持ちがいい。完璧に気持ち良くなっちゃって、我を忘れて逝っちゃってる笑

まぁ、あと、冒頭に強い言葉を恣意的に持ってくるのはわざとやったところはある。アルバムの完成が見えて、表現の上での覚悟も決まった状態だったからね。それはもう、いい歌詞書かないとね、ってやや空回り気味な気負いもあるし。だから、気迫はどう足掻いてもこもったし、ついでに気が大きくなってるからすごいこと言って始めてる笑 「We Are CRYAMY ~ !」とか絶対言わんからな、これまでだったら笑

ー言わなそうだなぁ笑

カワノ キックザカンクルーみたいになっちゃってるからね笑 いや、マジでさ、一種…そういう打ち出しをしてないし、そもそもそういう要素皆無な俺でさえたまにそこを問われるけど…なんか、文学性みたいなのを売りにせざるを得ない「ロックバンド」ってフォーマットで、この歌詞を割り振ったとしたら、明らかにダサい歌詞も平気で歌ってるし、これ。もうね、本当に投げやりだなぁ、と思うよ、これ笑

ーいや、俺はいいと思うけど…。まぁ、元から歌詞はさ、あけすけなの通り越して身もふたもないし、もう…悲しいほどにやぶれかぶれだけど、またそこから別軸で振り切った感じというか。

それを「ダサい」っていう形容詞で括るのはちょっと乱暴で…これはある意味、アルバムのでもあり、CRYAMYのでもあるけど、自己紹介的じゃない。自分をあらためて強く打ち出す、っていう。「俺はこうだ!」って主張する「恥ずかしさ」じゃないかなぁ。

この「恥ずかしい」は、いい意味で捉えてほしいんだけど、恥ずかしいほどに何かを強烈に言い残すっていう。ある意味では小手先の技…まぁ、文学的とか、そういうの…そういうのに頼らずぶつけてる、ていう。そういう振り切り方。

カワノ あぁ、その意味じゃ、振り切る、っていうかね…このアルバムのテーマというか、主張というか、そういうものをこう…冒頭で強制的に叩き込むためにあえて聴き手の解釈を限定するというか。冒頭の歌詞で、全部断言し切っちゃってるでしょ。

ーあぁ、なるほど。冒頭の「爪の〜暴くとしよう」の一節で、今からそう言うことをアルバムでやるぞ、っていう宣告。

カワノ そう、断言することでアルバムのテーマを強制召喚して、もう、聴く人みんなに無理矢理そういう聴かせ方をしてしまう、っていう。どんなやつでも、ね。まぁ、振り切りか、それは笑

ーなるほどね…。…でもそうやって聴き手の意識を限定した上で、最後にはごちゃごちゃ言うんじゃねぇ!ってみんなを怒鳴りつけて、「うるせぇ」の連呼でシャウトしまくって、「もう俺に時間はないから今から歌う俺の歌を聴け!」っていう、これまた身も蓋もない宣言っていうのがまた悲しいほどに君だね笑

カワノ 笑

ーんで、歌詞にもあるように、このアルバムは、ある種臭いテーマではあれど、これまで幾度となく先人が挑んで解釈を試みた普遍的なテーマというか、そう言うものを感じてさ。「世界との対峙」みたいなテーマをすごく感じるから、この出だしはむしろ全て聴き終わった後に「あぁ、そういうことか」って腑に落ちる。逆に、冒頭の歌詞を受けてから「どういうアルバムなんだ?」って聴くやつもいるだろうし。

カワノ 正確には…もうちょい具体的に、「ある一人から見えた世界の対峙」って言い方の方が近いかなぁ…。一人として世界を同じ見方をしている人間はいないし、世界のあり方も無限に変わって正解のないものだから。だから、「世界への対峙=人々のそれぞれの世界の見え方」が正しいかも。しかし、それはもちろん、そういう大枠を捉えた上で、の話だけど、その大枠すら経験や世の中の常識に左右されて変わっていくものではあるのかもしれないし。うーん…難しいな。

 

(長考)

 

…こう、僭越ながらね、俺のような、作詞家・文筆家の端くれは陥りがちだけどさ、「世界」って言葉はあまりにも包括的で便利すぎる言葉だから、安易に使っちゃうんだよね。なんかすごい風に聞こえる笑

でも、それを自覚しながら、そういうでかい言葉をあえて強烈な言い回しで乱暴にブンブン振り回すことで、チープで限定的で究極に個人的なものに落とし込むっていうかね。さっきの、強制的に聴き方とか物差しを召喚しちゃう、って話をしたけどねぇ…それは文字通り一観念の強制ではあるのだけれど、逆に、それができて初めて、それぞれの人がそこに落っこちた時の実存やリアリティを意識させることができて、そうやって一人一人にオリジナリティや余白を産めるし、そのどんな風景も許せるし、存在を担保できる、という。…うまく言えんが、そういうこと。

ただ、そういう解釈の余地は残した背景ではありつつ、歌い手の俺自身が歌う、という、俺の視点に帰ってくるとすると…俺が見ている世界には、その、物差しを投げかけた多くの人が、対自分に向き合う当事者として存在しているわけでさ。そういう人たちに、さらに深く潜った上で向けた歌…って意味が、こと俺がこのアルバムのテーマかな。個人的なテーマとして。

ーなるほどね。でも、「他者に余白と余地を残す」っていう思考回路は…今までのお前の曲にはあまりなかったかもね、そう考えると。

カワノ あぁ、そうかもなぁ。

ーこれまではね、なんか、強制というか、物差しは確かに、投げることもしなかったんだけど、しかし、つらつらお前の解答は聞こえてくる、よくわからんけど答えはあるんだろうな、って想像できる、っていうさ。

カワノ うんうん。

ー…でもなぁ…まぁ、これまでそういうことをやってきたからこそ…余白と解釈を残したところで、良くも悪くもお前の音楽は「お前がどう思ってるか」にフォーカスは当たるから、そういう、結局お前さんの個人的なテーマ、っていうのが、その解釈を残した人にとっても、そうであっても第一義的だし、もはや一個の強烈な解答になってしまうと思うけどね。

…不快かもしれないし、言い方悪いけど、別にお前の曲に多用な解釈は、少なくとも俺は求めてないし、そういうやつは多いと思う。「カワノ経典」が聴きたいのよ、結局。俺みたいな、成仏したい彷徨える現代の亡霊たちは笑

カワノ 笑 でも、意識的に誰かの視点を認識して、自分の視界のどこかには置いておく、っていうのは前よりもちょっとだけ大事でね。…なんかねぇ、俺の世界…とりわけ、「CRYAMY-red album-」から後の俺の世界は、絶対に誰かに対して歌われているんだと思っててさ。

…ただ、あくまでこの世の全員ではなくて、俺の世界に登場する人物に、ね。…強制的な物差しになる強い言葉を投げてはいるけど、それは大衆に訴えたり、煽動したり洗脳するものではない。もっと限定的で、視界や関係性の及ぶ範囲でしかない、という。…難しいニュアンスだが、なんとか拾ってほしいところだね。…まぁそもそも、今作は大衆が聴く音楽にはならないけどね、絶対に。もうちょっと寂しい作品ではあるし、あるべき…。

ーああ、むしろこの曲以降の話なのかもしれないけれど、前のフルアルバムとは良くも悪くも明確に変わってしまった、っていうのは、さっきも話したけど、すっごくわかりやすいところで論ずるなら、そもそもの音楽性が全くこれまでとは違うこと、に、表面上は尽きるわけじゃん。しかも、もう、文字通りの、ジャンル的な「ロックバンド」とか「オルタナバンド」と一口では言えない、不気味な曲が多い。だから、そういう、大衆が聴くものではないっていう感想には、本当に心から同意で笑 

でも、実は一番の変化は歌詞…歌詞というか、カワノの表現だと思うんだよね。なんというか、歌詞の重心が変わった感じ。より未来を見てる感じもあるし、一方ではものすごくドライ。

カワノ ある時期の俺の歌は過去を振り返って、自分なりに決着をつけてきた出来事の再翻訳、んで、その情念を…薄れるのが常なものを、思い出したり、無理にでも引きずって、持って今に何かを及ぼす、っていうやり方だったと思うんですよ、客観的に見ると。…そういう、回想録ってウェットじゃん、質感。なんか、自伝小説や、青春映画みたいな。

ーあぁ、わかるよ。

カワノ そういうのって…実際、過去に囚われていたわけではないけど、過去の出来事のウェイトが魂の大部分を占めていたし、記憶も色濃かった。そういう状況で生きてきて…バンドもそうだけど、…今27歳なんだけど、当たり前に魂も気持ちも、その時期においていったものはすり減ったり痩せていったりするわけ。記憶も薄まるし。体力や元気も落ちていく。そしてそれは戻らない。

ーそうだね。

カワノ かといって、東京で…東京というか、このバンドというものを通して生きてきて、じゃあ過去のそういうもの…青春時代に匹敵するような劇的な出来事が…2022年...このアルバムを作り出すまでは、残念ながら、あったわけじゃない。これはね、結構驚きだけどね、すごい自分を揺さぶるような感動や感激、なかったね笑 …大事なものを得ることもなかった。だからこそ、決定的な喪失がない…過去を顧みて自傷するしかない…だから、リアルタイムの心は熱を持たない、ね。

ーそうか…。いやぁ、なんかないわけ? 失恋とか、そういうのですげぇしんみりしたバラード書くとか笑

カワノ …言い方悪いけど、ございませんでしたね笑

ーだはは笑

カワノ はっはっはっ笑 いや、やっぱ、ないですよ…。

ーすみません、俺が浅はかでした。

カワノ いやいや笑 まぁ、そういうくらいには…言葉を選ばなければ、ある意味東京は、俺の人生史的には大変退屈だし起伏に乏しかった笑 だからなのか、その、やせ細った俺の魂で…歌は、なんというか…前向きに冷静…冷たいのにエネルギッシュ…みたいな。…ってか、さっきの話はマジで図星でさ。言われてみれば、今も昔も、もはや結論を用意して人を欺いてる感じすらあるよね、ここまで冷酷だと笑 マルコム(セックス・ピストルズマネージャー。バンドのあらゆる動きを仕組んだ黒幕と言われている。)が歌書いてるみたいな感じさ。

ーなるほどねぇ。古田敦也(元ヤクルトスワローズ。選手兼任監督をある時期になっていた。)的とも言える。プレイングマネージャー。

カワノ …そう言われるとなんかかっこいいな!笑 …まぁ、そういうのも自分を揺さぶる出来事には欠けるからこそのアクションなのかもせんな。無理やり自分を痛めつけてまでやってるわけで…ロックをやる人間としては本当に情けないことだと思うんだけど…。まぁ、その、昔を回想して蹴りをつけていく、っていうのは、ある意味でしんどかったし、心を砕いたし、…もうね、大変だったんだよ笑

ーそう言いたい気持ちもわかるがね、…客観的に見ると、その、東京にやってきてからも、かなり激動を泳いでいる…そういうバンドだと思うけどね。はたから見たら。

カワノ いやいや…、見えてるほど大したことないよ、ずっとわがまま言ってるだけ、俺は笑 まぁ、もし辛いことがあったんだとしてもさ、俺は結局ウジウジと女々しいことを垂れ流しながらも蓋を開けてみればしっかり脱落しないままここまでやれてるわけだしさ。体もまぁ病気になったり風邪をひいたりするけど大雑把に言えば元気だし、ストレスで禿げるわけでもなく、白髪ができるわけでもなく、髪も真っ黒! たくましいですわ、ええ! 「口ばっかだな!」って、客観的に見たら格好悪いとすら思う笑 

…っていうのも、俺がこの10年にいろんなお勉強を終えてしまったから、柔軟にかわしたりもできるし、くだらない物に対しては、悔しい思いや我慢もすごくあるけど、一方ではもうそういうもんだ、って割り切ったりできてるのかもしれないし…。だから、心が頑丈…相当強いんだろうね、俺は。あと、背も伸びたしね笑

ーまぁ、あとさ、…見てない時期もあったけどさ、確かに、年齢を重ねて大人になった、ってことももちろん大きいと思うんだけど、年々、お前の感情が大きく振れたり、動いてるな、って見える瞬間はどんどん減ってるよね。怒って大きな声を出したり、人目も憚らず泣いたり、って。人当たりは良くなったんだけど、それがなんかわざとらしい嫌な感じで、ずっと気のない表情でヘラヘラしてる笑

カワノ ははは笑 まぁ、しかし…客観的に見て、もうそうなっちまてるとしたなら、感情表現を生業とする人…ミュージシャンとしては致命的ですけどね。

…でも、こうはいってるけど...前のインタビューでも話したけどさ、2022年というのは、俺にとって大いにゆらがされた一年だった。初めて東京で俺は傷を負ったんだよ。そしてこのアルバムの曲たちが産まれていくんだけど...で、俺はそれをさして、インタビューで、2023年からを「ここからは東京を生きる俺の歌」って表現をして…。…当時はそう思ってたんだけど、まぁ、今はあれはちょっと訂正したいね。正確には、これからの歌は「俺が歌にできる限界をやっている」が近いかもね。東京とか関係なく、もう、それすら超越して...ここまでの自分の全てを振り返って、こんな状況だから、そんなに歌は俺の中に残されてない。音楽をやる人としては、やり残したことや残ってる時間を消化する段階に入ってる、って。2022年を皮切りに、そうなってしまった。

ーまだ若いのに。老成したふりをするなよ。

カワノ いやぁ、マジだよ。…俺が思うに、歌って別に、老いていくまでのパートナー…生活の断片では絶対にない…俺の中で。もっとこう、気色の悪いものといいますかねぇ。心の揺れと、そっからの逃避や、逆に格闘…突き詰めるとそれは自分しか認識してない浮世の具現化ですから。誰にもわかってもらえないところを、どんな形であれ残す、っていうね。

ーともかく、このアルバムが出来上がってしまって、歌が生まれるべき理由みたいなものは、今は薄い、ってことね。

カワノ うん…。少なくとも、なくなってしまったというには早計としても、ゴリゴリ削れてってね…。烏滸がましいですが、もはや、空っぽだな、と。しかし、だからこそ、視界が広がったわけじゃないけど、そこからもっと外に手を伸ばしたのかなんなのか、わずかしかない歌の答えを探してるのか、逆に答えを用意して残そうとしてるのか、外の世界に対して歌を吐くようにはなった気がする。空っぽだから何かを手繰り寄せて、結果それは膨大で、さらに言えば自分のそばでずっと自分を苦しめてたもので…。…あぁ、頭散らかってきたな笑

ーまぁ、でも、一連のお前のやさぐれ具合はさておきさ、なんていうか、今作も以前の作品もお前がずっとやってるアウトプットはブレてない。全く変わってないんだけど、それをやる上で燃やしてる燃料やガソリンにしてるものが違うんじゃないか、とは思うかな。

カワノ うーん、どうなんだろう…。ガソリンの質自体は同じ物を使ってるとは、自分では思ってて…。あくまで、それの持ってきかた、持ってきた領域っつうかね…。うむ…。

 

(長考)

 

…あぁ、そうだなぁ、言うなれば…昔の俺は…こう、生産・再現した痛みとか悲しみ、を歌っていたような気がする。

ーうんうん。

カワノ 自分の残した物をひどく批判する言葉になるけど、もうちょい製品っぽい、というか。作ったもの。偽物。リアルタイムプロセスで書き殴ったものではない。思考してコーティングしてる感。さっきの話でさ、結論を用意してる、っていう。

…その、まぁ、過去を再翻訳する、っていう作業だから、当たり前にそれに陥ってたんだろうな、って今話しながら思った。プロダクトで、清潔で、汚れがあるとすればあくまでその再現のレリック加工で…ある意味整頓された混乱を投げていたような…。

…で、今は…実際の痛みを認識してしまってる。それは、すげぇネガティブだし、負の側面がでかいのは否定しない…し、かわらず、なんらかゴールを定めて走らせてはいるんだけど…だからこそ、もうちょっと、実存であり、実際の痛みと悲しみはあると思う。生産ではなくて、もうちょっとこう、グロテスクだけど、もうちょいやむをえない感じ。排泄や嘔吐に近い。生身から液体を吐き出しているイメージ。清潔ではなくて、形を保てずにドロドロしているもの…でもあり、色を塗る前の絵画のようでもあり…、難しいがね。

ーさっきから時間軸の話をしてるからそこに乗っけてやると、これまでのすべてをふりかえって歌にしていく、っていうのは、これまでのように過去に重心はなくって、それすらもひっくるめた上で焦点が現在や未来に向いている…よりリアルタイムで走らせている神経とか感情が反映され始めてる、ってことか。

カワノ 始めてるっていうか、まぁ、このアルバムすら、すでに過ぎ去った時間を使って残していった記録ではあるから、された、というべきだけど。なんかねぇ…やっぱ聴き返すと、すごくこう、オカルト的な話だけど…歌声やこのアルバムの全体のムードで、それは、深刻に出てると思うけどね。わかるかどうかは別として。うん…俺はわかる、俺のことだから。

ーまぁ…だからこそそれを聴いてさ、みなさん、言葉に詰まってるわけでさ笑 お前はそれが大いに不服だろうけど笑

カワノ 当たり前だろ! 「くれ」言うからくれてやったのに笑

ー庇うわけではないんだけど、なんかねぇ、みんな何も感じなかったわけじゃないと思うんだよ。

カワノ まぁ、なんでもいいけどさ。でもまぁ、そういう、誰も躊躇して突っ込めなかった領域で歌を作って話ができて、その上で、今作は悔いのない仕上がりを見ることができた。すごく奇跡的にね。でも…生きた証を残したいとか、みんなの記憶に残りたいとかは、マジで全然ないんだけど笑 もうそればかりは、聴いた人間が決めることであり、もっと言えば天命に任せるしかないわけで。

ーなるほど。俺は加えて、お前も言ってたけどそこにヤケクソ味が乗っかったって笑えるくらい悲しい、って印象なんだけど。むしろ、「ヤケクソ」の割合がまぁ高い笑

カワノ あぁ、それはもう、あるでしょうね。ヤケクソじゃなかったら、思いつきでアメリカまで自分たちだけで行ったりしないから。…もうここで倒れてしまっても、悔いを残さないためにこの生き方、このバンドのやり方を選んだんだから、そりゃあ当たり前なのかもしれないけど。…これもまた天命だった気もするし。

ーでもね、結成した当初とか、以前もヤケクソだった時期はあったと思うんだけど、今は質が違う気がして。ものをぶっ壊したり、血を流したり、みたいな若さ故の無鉄砲さとか、ステージダイブして、ギター放り投げて、みたいな、パンクとかハードコアのある意味お決まりで定型のパフォーマンスみたいな、そういうことをやらなくなったじゃん。そうではない、ヤケクソと言っても別の質の何かというか…。今は本当に何か予測もつかないことをしでかすんじゃないか、って感じるというか。命懸けも通り越して、命知らずになっちゃってる。良くも悪くも。

カワノ 多分それもパフォーマンスだよ、パフォーマンス笑 俺ねぇ、多分格好つけてるんだろ、無意識に。

ーでたよ、そうやって悪趣味に振る舞う感じ笑

カワノ でも本当に、人を過剰に脅かしたりするの昔から好きだからねぇ笑 自分でもどこまで生まれ持っての性格でこうなってるのか、わからんのよ。

…でも、実際は先のことは一切考えてないっすね。もう…とりあえず、このアルバムに、未来の分も先取りして全ては置いていこう、と。それに、このアルバムの制作中はずっと「これで金輪際終わってもいい」ってずっと考えてたし、今もライブをする時はそう思いながら歌っている。凄みとか気迫とか、そういうものがあるのかどうかはさておき、そういうのは出たんじゃないかな。出そうともしてるしね、もちろん。

ー辛くない?

カワノ 辛いけど、レコーディング終えてから、捉えようによっては楽だ、って思うようにしてる。だって、ちゃんといつか終わりが来るのが前提だから。永久の苦しみとか無限の地獄ではない。…と、もう、先に敗北宣言しておかないと、俺がやってらんない、頑張れないのもありますけどね笑 疲れるし、しんどいし、ねぇ。

ーずっと音楽を続けていってる人もいるじゃん。

カワノ それは超尊敬してる。五味さん(LOSTAGE)とか、俺のヒーローみたいな人だけど、音楽はもちろん、スタンスも超かっこいいし、人も大好きだしさ。いっとき、過去にはそういう姿を目指した数年が実際あったし、本当はそういう人になりたかったけどね。…向いてねぇのよ、多分、音楽やるの笑 飽きるし、疲れるし、嫌なことも嫌な人も増えてくし。

ーすぐそういうこと言うよね。

カワノ あぁ、でも音楽に限らずかも! 昔、バイトしてる時もそうだし、学校に通ってる時もだし…あのね、ダメなんだね、何やっても笑 …一曲目から暗くなっちゃってるけど大丈夫?

ー俺は大丈夫じゃない笑 …話変えよっか。引き続きテーマの話。この一曲はこのアルバムを象徴する一曲で、このアルバムのテーマは聴き進めることで明らかになっていくものだ、っていうのは前提としてあるんだけど、冒頭のテーマに加えて、さらに「世界の正体を暴く」というのがこのアルバムの柱としてあると思うんだけど。

カワノ そうだね。でも、それは間違いなく正しいけど、この「暴く世界」って言うのも捉えようで、さっきの解釈の余地を残した、って話に通じていくけど、みんなが好きに捉えてくれて構わないんだよね。明確に一個の答え、に限定してない。許される限り。

例えば、「世界」というものを、今俺たちが生きてる実人間社会である、ってふうにも捉えられるし、そう捉えた人にはこのアルバムはプロテストソング、ってほどまでは行かないにしても世に対して過激に物申してるアルバムになる。

「世界」というものを聴く人自分自身に見出す人なら、じゃあ自分はどう生きていくのがいいんだろうか、自分はどう生きるべきなのか、自分が生きてる世界をどう切り抜けるのか、そもそももうここで死んじまうか、って自分に問いかけて何かを決定するきっかけにもなる。…まぁ、こっちであってほしいわな。俺としては。

そして、この「世界」を、あくまでカワノ自身による俺の視界の出来事と捉えるなら、これは俺自身を余すことなく捧げる独白である、と。…まぁ、好きにすればいいんだよね。…どうでもいいや、もう笑 そもそも別に、教えを説こうとかさ、そういうふうに思ってもないし…捉えられたくもない。強いて言えばどんなふうに受け取ってもいい、と、そう言う考えや生き方を推奨している、のかもね。

ーなるほど。でも、その世界を見つめる目線はどの捉え方でも、絶対に弱者や虐げられた人の視線を内包してるように映る。でも、そこに寄り添うわけではなくて、むしろ、お前がそういう人然としている感じ…。難しいけど、だからこそなのか…ショッキングな歌詞や過剰な感情表現は、下手したら昔よりも増している。そして、乱暴に言えばアウトな表現ばっかりだけど、それは強気で無敵だからこその発露ではない。むしろその逆で、弱々しく立ってもられない人が、なんとかしてこの世にないものも含めてあらゆるものを片っ端からかき集めて燃やしている感じ。

カワノ そっか。そもそも俺が弱者だし…弱者でもあり、潔い人であるし、諦めちゃった人…「無抵抗の人」とか、「抵抗する力を持たない人」でありたいから。…そういう人然とするというのはね、「俺はそういう人なんだよ」っていう自己紹介ではなくてね。どちらかというと願望とか、理想論ですよ。俺はそうでいたい、そういう人であるべき、だし、そうでないと歌はない、と、宣言でもあるし、言い聞かせることでもあるし、自己洗脳でもある。で、もう、そういう人の、イタチの最後っ屁とか、自爆の特攻じゃないかな、かき集めたものを燃やし尽くしたエネルギーで。で、あるんだけど、…多様な見方はあってほしいと望むけど、反対に、大勢にとってフィットするものは作ったつもりはない。…まぁ、それを考えてたらここからのアルバムの流れのような曲や、そもそもスティーブに依頼をしてこういう、空間へのリアルさを追求することを主体にした硬くて太いロウな音にはしないわけでさ笑

ーそうだね。

カワノ 表現においても、俺は特別にショッキングだとは思わない。別に、人の内面の奥底を取り繕わずにあらわにしたらこういうもんだろ、って思うし。まぁ、だから、これが受け付けない、っていうのはわかるんだけどね。だけど、こういう次元が常に身の回りを囲んでしまってる人間は多くはないが確かに存在しているわけでさ。そういう人たちに聴いてもらえたら、って気持ちだし。

一方では、そうではない人たちにも、お前らそういう人にも気づいてやってくれよ、って、そういう思いもある。所謂健康ではない人間だけにとどまる言説で終わるんだったら、それはただの慰めとか傷の舐め合いで終わるわけだから。…全方位に強く訴えかけて、真相を見せつけなくてはいけない、って、思ってるかなぁ。まぁ、偉そうに言いましたけど…俺がただここでやるのは、俺は「そういう人たちから目線を絶対に切らないよ」「いつもお前のことを見てるぞ」って宣言するだけなんだけど。

ーうんうん。

カワノ …俺は自分の目線は、どの曲でも強烈に描いたり残したりしてきたつもりでさ。そして、その目線で何を見るか…街なのか、記憶なのか、感情なのか、人なのか…それを全て映す空なのか。「世界」っていう言葉で、俺の目線を切り取る、っていう。…まぁ、そういう曲であり、アルバムです、って、この曲で、強く宣言できたんじゃないかなぁ。

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2.光倶楽部

鈍重なバスドラムと、塊のようなベースのサウンドがこのアルバムがシカゴで録音されたことを物語っている。これまでの彼らとは一線を画したサウンドは硬質で、太く、目の前でなっているような臨場感がある。

内に秘めた暴力性を、肯定するでもなく、推奨するでもなく、ただただ隠していないだけ。しかし、隠していないだけと言うにはあまりにも露悪の極みとも言えるほど身も蓋もない歌詞が並ぶ。彼らの歌ではその露悪という側面は今に始まった事ではないが、それが今までより過激になっていることは確かだ。

すっかりと忘れていたのだが、本来、作曲者のカワノという男は「美しいメロディ」を作るのが本職の人間ではなかったことを思い出させられた。彼はどちらかと言えば「猥雑な騒音」を極めて濃く作ることが得意な人間ではなかっただろうか。器用ゆえなのか、隠していたのか、それともなんらかの制約の上なのか、これまで彼が人に見せることのなかった側面がこの曲を発端に一気に溢れ出していく。

とにかく、ラストの歌詞、最悪。

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ータイトルからなんだけど、「光倶楽部」はどう言う意図で?

カワノ 昔実際にあった闇金融会社の名前。学生が起業した貸金業の会社なんだけど、最後は警察にしょっ引かれて、起業した大学生が自殺しちゃうんだよね。「青の時代」(三島由紀夫著)とかは、この事件がモチーフになってる小説。歌詞の内容をそこから着想を得たってわけではないけど、最後にタイトルをつけるときに、なんとなくリンクして、これに。

ーそうなんだ。二曲目からとんでもなくヘビーな始まり方で。

カワノ 「THE WORLD」はああいう曲だけど、別に楽曲としてはこのアルバムを音楽的に拡張したものではないからね。楽曲がとにかくシンプルな分、俺たちが過去も未来もないまぜにして明確に出てしまってるから、変貌を遂げた、っていう感触はないだろうし。実質、この曲でこの異常なアルバムは幕を開ける、と。事実上のオープニングトラック。

ーそうだね。こっからはひたすらハードコアナンバーが連打されていく、めちゃくちゃヘビーなゾーンに入っていくからね。

カワノ そうだね。…まぁ、これ、まだポップな方だと思うんだけど…どうかね?

ーいや、別にそんなことはない笑 …これさ、最後の歌詞が個人的に、強烈というか…。

カワノ ははは笑

ーいや、でもここまで明確に言ってるのを見るともはや…痛快笑

カワノ …あそこだけね、一個具体的な話あってね。…ちょうどウクライナとロシアの戦争が始まったくらいかな。通りかかりに街頭運動みたいなことをやってたの。…で、俺のおばあちゃんくらいかなぁ、それくらいのご婦人がこう、一生懸命声を出しててね。ちょうど、そういうのが問題になってニュースや街が騒がしくなってきた時期。

ーうんうん。

カワノ まぁ、なんか、そしたらさ…それを、通りがかった大学生ぐらいの、いかにもしょうもなさそうな連中が集団でさ、「ウルセェ〜」とか、「意味ない」とか粋がってコソコソ言っててね…。「こんないかにも漫画に出てきそうなダサくてしょうもない奴らおるかね!」ってなって…。近寄って行って…。

ーあぁ…もうそのあとはいいや…。色々目に浮かぶわ…。

カワノ 笑 まぁ、そういう歌詞。あれ聞いて傷ついた、って人いると思うけど…ごめんねとは思うけど、まぁ…俺から言えるのは…そんな君も親に感謝せえよ、ということで…。

ーうーん、歯切れ悪いなぁ笑

カワノ 角が立たないように笑 …でも、この曲、怒りのポイントが身近じゃん。色んな見方があるけど、この曲は、だからこそ比較的聴きやすい部類かな、って自分では思うよ。

ー五十嵐が塾帰りの学生にキレてたり、リヴァース・クオモがファンレターに欲情したり…。

カワノ うん、そんな感じ笑 可愛いっしょ、俺。そう考えると、途端に笑 …まぁ、親の金で酒飲んで調子こいてる学生はシンプルに嫌いなんだけどね、昔から。

ー笑 まぁ、これはサウンドも歌詞もだけど、面食らうと思うなぁ。一曲目も、最後はポエトリーで終わって、いきなりこのヘビーメタルみたいなイントロから始まるし。でも基本的には、メタルやハードコアの文脈にあるヘビーで不気味な構図の曲がこのアルバムのコアだもんな。歌詞に関しても、…最後の物言いに限らず、これもまぁショッキングな文言が並び続けてるし。…少し反体制的な意味合いもあるの? さっき、その、戦争の話題も出たけど。

カワノ あぁ、でも、そう思われるかもだけど、実際はそうでもない。もうちょっと漠然としてるよ。戦争に限らずだけど、社会の暗いムードっていうか。で、それを強い言葉でなじる人たちも目につくし。なんか、それでこう、ストレスを溜め込んで平静を保てなくなってる状態の歌かねぇ。

そもそも、俺はプロテストソングを作るような作家では全くないし。面倒臭い人にさ、「バカが社会派ぶるな」って言われたらそれまでじゃん。傷つくし笑 俺如きがものも失せるのかな、って気持ちもあるしさ。あんまり自信がないんだ、自分に。…「政治興味ない~♪(「悲しいロック」の歌詞より)」つって歌っちゃってるしさ笑 俺はプロテストソングをやってる人たちは尊敬も尊重もあるし、かっこいいと思うけど、別にまぁ、俺はかっこいい人ではないし、なれないしねぇ笑 格好つけるためにそれに言及するのも違うし、そう思われたくないし…。

まぁ、その…これは、ちょっとはそういうのもあるのかもしれないけど、本当にね、もっとフワッと歌ったつもりだった。…けど、結果的に語気が強くなってしまったから、ちょっとそういう風情もあるかも、っていうくらい。

ーでも「政治家の全盛期が来てる あいつらがキモイから泣いてる」とかさぁ。物言いがつきそうなことを、わざと言ってんじゃねぇか、ってぐらい相変わらず身も蓋もなく言い切ってるけど。

カワノ あぁ、でも実際、この…身も蓋もない感じもここまでくるとわざとらしくなってきちゃってて嫌になるんだけどね…笑 まぁ、しょうがない。本心だし。

…「政治家」って言うのは、捉えようだけど、別に言葉通りの政治家の意味だけじゃないんだよね。本当は「演出家」だったけど、より聴き心地のきつい言葉にしようかな、って。「政治家」ってワードにしたのは、皮肉っぽいけど…会社でも、学校でも、ライブハウスでも、こう…人を操って上手いことやってやろう、っていう政治っぽい動きをする奴は、バンドマンにも業界人にもいるし、実際その政治がうまいやつが偉そうにして、生き心地のいいように今、社会や音楽業界はなっていってる気がしてて。人間が人間を操ったりうまく取りいったりして、遊んで、気持ちよくなってる。そういうのがうまい選手権…いかにうまくやるかの競争っぽい感じね。

…まぁ、それすら…キモい奴らが多いなぁって、思うけど、別に…いろんな人がいていいんだけど、俺はそういう人には魅力を感じないし、惹かれない。なんか、生き方がずるい気がして。

ーあぁ、なるほど。そういう、狡くて小器用な小心者を「政治家」と揶揄してる、と。

カワノ …まぁ、今の政治家もクソだけどな笑 あとどいつもこいつもカリスマ性ないの問題だわ笑 ボンボンばっかで渋いイケメンもいないし、ダメだろ、ありゃ。キアヌ・リーブスみたいなのおらんじゃん。

ーキアヌ・リーブスじゃダメだろ笑

カワノ でも、こういう、社会のこととか、やっぱりここ数年は意識をせざるを得ない時代になってしまったから、こういう歌詞を書いて言ったんだろうけど…表現の仕方というより、届き方が、いまだにやっぱ、難しいなぁ、って思うことは、すごいある。歌の本質が、「表面上ポリティカルだ」ってだけで、奇妙なバイアスがかかって聴き手に届き切る前にレッテルが引っ付いて歪むのがいやだ、っていうか。…これはもう…そうね、例えば…まぁ、この歌の中で揶揄されてるような、茶髪の大学生さんがね、Twitterとかで僕らの曲に向かって「思想強いっすねぇ〜!チョリーッス!」みたいな、あっさい感想しか出てこない、あの、浅ましさと不愉快さね笑

ー…解像度が低いよ…。最近の若者は「チョリーッス!」なんかいわねぇって笑 おっちゃんの想像するチャラ男じゃん笑

カワノ ふふふ笑 まぁ、俺もチャラ男なんでね! …でも、実際この曲は、自分でいうのもどうかと思うけど、そういう強いワードに引っ張られてるだけで、大したこと歌ってないじゃん、この曲。もうちょい身近で素朴に怒ってるつもりだけど。まぁ、でも、社会派とまでは行かずとも、このアルバムは実社会を生きてる姿はより出てしまってるから。

今作は、わかりやすくシステムや風潮に対して明確に激怒してる歌詞に見えるかもしれないけれど、もうちょっと生物的というか、因縁的というか…仏教で言うところの「縁起」に起因する怒り。…まぁ、社会って人間が構築してる人間のシステムだから。もうちょい素朴ではあると自分では思ってるけどさ。

ーあくまでもそのシステムを生きる人間にフォーカスを当ててる、と。

カワノ 世の中を囲んでる枠を鋭利に捉えたいのはあったんだけどさ、大枠だけを捉えてそのことについてだけ歌っちゃうと、現実味がないからね。大枠を捉えながらその仔細もつかむように、器用にどちらも往来しなくちゃいいものとは言えない。

…ちょっと真面目な話になっちゃうけどさ、その、枠線の中にいる人間の中には…この歌詞に描かれているような人…よくわからんけど、「無敵の人」って言われる人がいて。なんか、俺が正しく言葉の意味をわかってるのかわからんけど、そういう言葉が数年前からすごく出てくるじゃない。今だったら、また意味が違うのかもしれないけど…「弱者男性」とか、そう言うワードあるじゃん。あれをさ、ネタみたいに笑い話にする人がいるけど、嫌だなぁって思うの。だって、あれ、他人事に思えないから。…まぁ彼らにも、別に女子アナに彼氏いるのぐらい許したれよ、とは思うけど笑

…俺だって、例えば、一歩間違えれば職を無くして無一文…なんて簡単になるわけで。そうなれば、多分、人を恨んで、下手すれば人を殺してるかもしれないし、やけを起こしてもっとたくさんの人を巻き込んで大量虐殺まがいのことを計画してるかもしれない。…頑張って墓まで持って行くつもりだけど、俺にも恨んでる人間は数知れずで…。

だから、もうね…不謹慎だけど、俺もさ、いろんなブレーキを踏んでるけど、それがなくなってしまって、プッツンきたらいつかやっちゃうかもなぁ、って、そういうことも覚悟をして生きていかなくてはならない。でも、それは俺たちには幸か不幸か良識が備わってるからブレーキされてるだけで、誰しもにある感情や激情だと思ってるし。対岸の火事みたいに思える出来事…戦争とかもそうだね…ああ言うものも、絶対に他人事ではないんだよ、俺にとっては。「GOOD LUCK HUMAN」で暴力性の否定を歌ったつもりだけど、それとは真反対の地平。それが俺にも、残念ながらある。

ー矛盾とかではなくて、二面性の話ね。…でも、「そう言うのやめよう!」とか「優しくしよう!」とか、「大丈夫だよ」じゃなくて、こういうアウトプットになるのがお前らしいけどね笑

カワノ そんなの全部ウソだよ、ウソ。

ーはっはっはっ笑

カワノ さっきさ、「弱者の視点」って話したけど…その「弱者の視点」を意識してるとして、じゃあ俺がやってることって、俺が思うそういう人たちに努力して寄り添うことではないと思ってて。

だって偉そうじゃん、優しさを振り撒くみたいなのはさ。大事なのは、共有できる目線があるならあくまでそこの範囲内に立って、同じように痛めつけられたり、同じようにブチギレること、であると思ってるんだよね。…仮に、俺からさ、そうやって上から押さえつけるように、なんか耳障りのいいことを言われたらね…ぶっ飛ばしたくならない?

ーわかるよ。…お前に限らず、誰でもそうじゃないかな。「舐めんなよ」って、思っちゃう。…まぁ、これはマインドが固すぎるのはあるかもしれんけどさ。

カワノ ねぇ。大した人間じゃないくせに何こいつ勘違いしてんだよ、って笑

ー多分真の意味での「寄り添う」ではないからね、人に…不用意に優しくする、っていうの。終わってる暮らしをしてたガキの頃にJ-POPが受け付けなかったのって、そういう、いやらしさを幼いなりに感じ取ったからだと思うんだよ、今振り返ったら。

カワノ マジでおっしゃる通りですよ。

ーこれまでもずっとカワノは「優しさ」っていうワードで括られることを拒否してるもんね。むしろ、やさしい世界があるとすれば、わざわざ優しさを振り撒く必要がないほどそれが絶対的に正しいはずなのに、って思っている。だからカワノは優しさではなく、そういうものが存在することの正しさを歌ってるんだ、っていうスタンスでずっといるわけじゃん。…で、その正しさを歌うのであれば、正しいとかリアルである、というのは、一方では残酷な側面も孕んでて…今作はその両極が過剰に出ている…ってイメージなんだけどさ。

カワノ …まぁ、さっきの…嘘は言い過ぎにしても、わざわざ優しさを演じて曲にする必要はない…少なくとも俺は、そう言う気持ちがないし、そういう気持ちがないのなら、嘘をついてやってはいかんのですよね。…まぁ、そういう「優しさロック」みたいなのは、…この世に本気で優しさを持った人がたくさんいるとは思えませんが…まぁ、本当に優しい方か、嘘八百が得意な人がやればいいし、そういうの好きな人…そういうので満足できる人たちが聴けば?って感じ。俺はもう、ひたすら同じ地平で怒り狂って、ただ事実を言うことだけですから。…ですし、本当の優しさって、「優しさロック」みたいな気色の悪い歌に存在してないから、絶対。本来のそういうものは悲壮で壮絶な向き合いの果てで、少しだけ掴めるものだと思ってて。

ー…でも、心配しなくてもこのアルバムの音は全く優しくない笑 マイルドさのかけらもないし。逆に、お前らがこれまでやってたことにも通じるかもしれないけど、轟音で心象風景を訴えかけることでロマンチックにしたり、音と心情のコントラストを浮き上がらせて繊細さや柔らかさを表現してもいない。全体を通して、ただただ冷たくてヘビーなサウンドで、これまでももちろんヘビーな曲はあったけど、これはアルビニの録音も相まってすごい仕上がりで…。この曲に限らずだけど、このアルバムは演出とかそういうものがない。

カワノ 音はもう、間違いないんで。スティーブはドラムの音…特にスネアとバスドラムが最高なんだよね。とにかく生っぽい。だからこそ、本当に打楽器をぶん殴っている、って以上の情報がなく、研ぎすまされてるっていうか。現代音楽みたいに、パソコンを立ち上げてコンプレッサーやEQ、プラグインで加工とか、一切しないの。実物のアナログのフェーダーをいじるだけで、パソコンすら立ち上げない。

あと、今作、マスタリングでもそこまでボリュームを上げてないから。ボブ(・ウェストン。シカゴ在住のマスタリングエンジニアで、「In Utero」などスティーブ・アルビニとタッグを組んで多くの名作を世に送り出している。)にも最初っから「レコーディングをした音そのものの再現性を一番重視してくれ」って伝えてて。…大きな音にするとどうしてもヘッドが潰れてきて、ただでかいだけでダイナミクスが失われるからね。このアルバムは、「聴覚上の爆音」よりも、「生々しさと存在感」の方が大事だった。

だから、好き嫌いは分かれるけど物凄く生々しくて重たいんだよね。ヘビーメタルやスクリーモみたいな音圧の詰まった重さはないんだけど、とにかく存在感がある。現代的な音楽に親しんでる人たちからしたら、ものすごく古臭い音に聴こえると思うんだけど、これが多分俺たちにとっては最大にマッチしたサウンドなんだよね。

ーいや、そう入っても十分音はでかく聴こえるけどね笑 でも、言わんとしていることはわかる。カワノがずっと追い求めてた「生々しさ」がある気がするよ。

カワノ そうだね。これまでも色々みんなで工夫して作ったものは、それはそれで今でも胸を張って素晴らしいって言えるけど…今作でようやく辿り着いた気がするし、このアルバムのサウンドは、まさに理想そのものだね。

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3.注射じゃ治せない

人間が出せるとは思えない絶叫とやかましいノイズギターが誘うのは、囁くように拒絶の意思を示す歌と、とてつもなく冷たいアンサンブル。もはや何の感情もないまま線引きをして関係を切り捨てていく様を淡々と見せつけられていく。

静かさと騒がしさを極端に行き来することで聴き手の精神を揺さぶる。混乱を誘っておきながら、それを放置するように囁くメロディは冷酷。かと思えばディストーションペダルを踏んだ瞬間、へばりついたしがらみに拒絶の意思を示すかのようにノイズと共に喉を引きちぎるような絶叫が空中で反射している。彼らは何を望むわけでもなく、ただひたすらに醜い関わり合いとの距離をとることを望む。

しかし、何かを冷たい言葉で言い捨てて突き刺しているように聞こえるかもしれないが、吐き出されている言葉は果てしなく遠い。実際のところ、ここで並べられている言葉は「お前には話す価値すらない」ということを、実に遠回しに伝えているだけだ。自分のいないところで笑われている気分になる。

周囲をまっさらにしようとする、ともすれば傲慢なそのやり方は強さ故でも、かといって弱さ故でもない。本当に「何もない」のだ。何もないままで自分の体をよじるから、痛々しいのだ。

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ー絶叫とノイズから幕開け…なんだけど、これ、聴く上での結構ハードル高いよ笑 すごい声してるし。

カワノ わかりやすくこれまでと違うからなぁ。こういうの無理!って人も多いだろうね。ただ、これは今作の中でも特に会心のテイクで録音できたね。アルバムの中でも演奏の記録としてはかなり気に入ってる。

ーとにかく重たい。ビートももったりと叩きつけるような印象だし、これまでのとにかく前進あるのみ!っていうお前らの印象とは一線を画してる感じ。ギターとか、すごい音してるし。この、黒板引っ掻いたみたいな音…。

カワノ ギターはほぼアドリブだね。デモを投げた時点での俺の弾いたイントロやオブリ、ギターソロなんかも全部アドリブだったし、ここはその場の感性に任せたところが大きいけど、まぁ、どうせこうなるよね、って感じ。

ーこの、ギターの音がすごくいいんだよね。これは機材は現地の?

カワノ いや、実は借りたのはアンプだけなんだよ。それもVOX、マーシャル、ってすごくオーソドックスだし。エフェクターもギターも、3人とも自分の機材を持ってきてて、ライブと同じセッティングだね。

ーあと、ベースの音がすごくいい。ものすごく不思議な位置にいるんだけど、本来のベースってこうだよな、って。

カワノ 俺もそう思う。めちゃくちゃいいんだよね。ラインの音を混ぜてない。機械的ではない、これが本来のベース、って音。我々は演奏が特段にうまいバンドではないから、こういう音響に救われてるとこめっちゃあるね。

ー…音の話になっちゃったけど、でも、それが特に色濃く感じられるのがこの「注射じゃ治せない」。タイトルも独特。

カワノ どこに行っても、色々あって同調圧力とか、前に習え精神とか、そういうので非常にしんどいものをここ数年見せつけられてたし、こんな奴らからは上手に距離を取らないと…っていう。んで、なんかタイトルにふさわしい仮想敵が欲しくて。手っ取り早かったのが「コロナ禍」の、あの感じ。あの期間は確かにみんなが大変な時期だったけど、一方で、一気に醜い人間を炙り出した気がしてて。だから、自戒も込めて、「注射じゃ治せない」。…まぁ、ああいうことでどれだけ人を縛ったところで誰もが醜い側面を秘めてるちゅうこと。

ーなるほど。

カワノ 話は少しずれるけどさ、当たり前に、コロナが大変だった、っていうのも、そもそものこのアルバムの音像に大いに反映されてるんだよね。なんというか、音楽という領域で言えば、肉体性とか、シンガーやプレイヤーの実像みたいなものがすごく薄れた期間だったじゃない、この数年は。自分が歌う意味や、もはやこんなことしてる場合なのか、って神経にさせられた瞬間もある。

ーうんうん。そこは多くのミュージシャンも言及してるよね。ライブハウスでの交流というものが配信ライブに代替されて、そこには本来あるとされるものが全く抜け落ちて。音楽的にも、配信全盛の時代になって、いわゆる名曲と言われるものも現場ではなく、誰かのデスクやベッドルームから生まれていく。まず誰かに聴かせて、そっから広がる、っていう流れがなく、いい意味で0から100まで飛躍できる時代になった、っていうか。

カワノ うーん、いや、俺は正直、そういう、リスナーというか、他者が介在するか否か、の次元はそこまで重要ではなかったかも。

ーあ、そう笑

カワノ もちろん、当時はライブが大好きだったし…う〜ん、その、曲を作る上でも、ライブを意識するとかは、あったのかもだけど…今はね、ここまできたらどうでもいいちゃ、どうでもいい笑 そこはまぁ、来るもさるも勝手にしやんせ、って。前からインタビューでも言ってるけど、そこは変わらず。

どっちかというと、他人主体の話ではなく、演奏者…自分主体の感覚…眼前で鳴らされてる感触かな。もっと物理的な、現実的なところ。音が鳴っているという事象そのもの。他者に寄りかかって立ってるとか、誰かに認識されてる、承認されているという状況が大事ではなくて、…俺が生身で、「ただいる」ということが俺の重大関心事であると…。

ームズッ!

カワノ まぁ、いいや、抽象的な話だから笑 …あとはまぁ、この曲ね、できるだけ嫌なことをたくさん言おう、って。で、これは、遠回しな言い回しにしてる風で、実際はお前、俺に馬鹿にされて嫌われてるのに気づけよ、って笑 複雑な俺の乙女心がね。

ーさっきの実存の話とは反するように、この曲は歌詞を読んだら、とにかく周囲を拒絶して一人になりたい、って歌のように思えるね。嫌なことを言う、って言うのも、攻撃性からくるものよりも、もうちょっと遠回しに嫌悪感を示して、周囲を遠ざけてしまおうとしてる感じがする。

カワノ でも行き着く先が「孤独」ってニュアンスじゃないのは感じ取ってほしいな。

ーっていうと?

カワノ まぁ、孤独ではあるのかもしれんが…孤独って、本来は望むものではなく、また苦しいものが本質だ、って気持ちがあって。孤独主義者とか、サブいわけよ、自分で用意してガワだけ気取るものじゃない、っていうかさ。随分余裕あるじゃん、って。苦しいから孤独なのであって。自分でひとりぼっちになることは苦しいことではない…苦しいにしても、自分で苦しい方に行くのは、意味がわからない、と言うか。…間違ってる?

ー…捉えようによる。そう言い捨てるには難しい気がする…。

 

カワノ 今日捉えようによること多すぎるね。でも、これは俺の感覚からすると、どちらかといえばそういう孤独主義者的ではなく、しっかりばっちり「独立・孤立すること」である、と。どちらかといえば苦しみから逃れて、望んでちゃんとみんなとは距離を置いて人と過ごしたい…って、これは去年今年はすごく、自分の中でテーマだった。…他人だろうが親族だろうが友達だろうが関係なく。しょうもないなぁってのを見て幻滅したり、くだらないこと付き合わされて疲れたりするし。

ーでもお前は人間不信気味なところがずっと根深い人だから。気も短いし、我慢も効かないし。で、それを改めることもないし笑 さっきの話だったら、もはや孤独を用意してる側の人間だとすら思うことあるよ。

カワノ いや、絶対に用意してるわけではない。それは否定させてくれ。それも作為的じゃん。

どっちかといえば、孤独があるのだとすればね、まさにそういうところや、人を信頼してないとか、下手したら馬鹿にしてるとか、そういう俺の腐った人間性で起こったことだから。自分に起こったなんらかの事象を他人のせいにしたくない、というのはある。自業自得、と言う意味。見方を変えれば、俺が人を遠ざけている一方で、俺も誰かから遠ざけられてんのよね。

ーでも、これまでの曲でもそれは感じられたけど、この曲は…なんでここまでいうかね、って。最後の歌詞なんか、まぁ、キツイ。俺はキツイ…。こんなん言われたら、嫌いになる笑

カワノ ふふ笑

ー未だかつてないだろ、「お前の音楽と服のセンスは終わってる」って、曲で言うのは笑

 

カワノ お前俺の私服見たことねぇだろ、って笑

ーいや、なんか、お前がそういう感じで人と接してるのは目に浮かぶんだけど…いざ自分がこの感じで来られたら、きっついなぁって笑

カワノ …あぁ、そうやってさ、歌詞をしっかり読んでもらってすごく嬉しいけど、…じゃあ今作がリリースされたときに、そこまでしっかり歌詞を読む人はあまりいないと思うけどね笑 歌詞は俺、一番大事だけどさ…、一方では、もう最近は、誰かがしっかり歌を、詞を聴いてるだろう、っていう期待はどんどん薄くなってる。…だから開き直っちゃってこれだけ書けたのかもしれないけど。

ーあぁ、歌詞を聴かれてる実感がない?

カワノ ないわけじゃないけど、あるわけでもない。なので、人によっちゃこんなもんは無駄で、どこまで行っても無駄なもんは無駄だ、って感じ。…そもそも、このアルバムの歌詞を隅から隅まで読むようなやつは、非常に奇特な方だと思うし。

ーなんか、とにかく投げやりだな笑 ミュージシャンは普通、アルバムが出る!って時はもっと溌剌とするもんじゃないの?

カワノ うーん…よくないけど、そんな元気がもう、ない! いろんなものに対して本当にどうでも良くなっている。昔は諦めなかったものに対しても、最近はすぐ諦めるし、気づかないうちにどうでも良くなってたり。で、そこを諦めたから、愛想も愛着も、実はいろんなものに対して尽きてしまってて、ってさ。

ー今日ひたすら投げやりだな…。大丈夫かお前…。

カワノ …言い過ぎました…。…あぁ、いや、言いすぎてないか…。うん…まぁ、正直に言いますとね…そのように思ってます。はい笑

ー語尾ひろゆきみたいになってるけど笑 …歌詞だけじゃなくて音楽的な変化もそういうマインドが出てる感じはあるなぁ、そう言われると。最初にこのアルバムの前半を聴いた時はさ、所謂ポップさ、みたいなものを、単にコアに振り切って捨てた、より突き詰めてテーマ重視・抽象寄りなアウトプットにしていくからなのかと思ってたけど…これは諦めか。この、とっつきづらさの訳は。

カワノ いや、なんていうかさ…俺は別に高尚なものを作ってるとか、音楽を操るセンスが抜群にあるわけじゃないからね。器用にそういうものを作ろうとは相変わらずしてないよ。その分、自分が諦めないものが絞られてきた分、一点に集まった念の深さは増している気がするけどね。だから、今作を占めるこの4名の緊張感と、このアルバムの俺の声はどの曲も本当の意味での「絶叫」がある。もうね…自分で自分を、…こんな気持ち初めて、ってくらい素晴らしい…素晴らしいっていうか、「カワノ君! 君はよくやった!」と思うね。…自分で自分を褒めるばかりで申し訳ないけど笑

ーただこれを世間が手放しでいいアルバムだと断言できないのが難しいところだがね笑 少し話外れるかもしれないけど、全曲通してこういうヘビーなサウンドが主軸のアルバムを作る上ではやっぱり洋楽とかを参考にしたの?

カワノ うん、もちろん。デモを作ってる時から、今の自分のハートの部分を楽器で表すんなら、もっと重くてロウなサウンドが欲しくて。で、ジーザス・リザードとかFUGAZI みたいな、あのラインの、ポスト・ハードコアとか、そこから派生したSunny Day Real EstateとかMineralみたいなエモコアの変遷を踏襲しよう、とか、意識したところは正直ある。シリアスで緊張してるエアーというか。まぁ、初期エモからすごく影響を受けてるのは結成した当初からだけど、今作はより、コア寄りに振り切った感じはあるかもしれない。

ー元からサウンドはUSインディー寄りではあったもんな。本場のシカゴでやるとは想像してなかったけど。

カワノ うん。で、直接はそんなに及ぼしてはいないかもしれないけど、街とその空気に馴染みたかったからシカゴは「Touch And Go」みたいな名門インディーレーベルもあるし、シカゴで過ごしてる間はその周辺の、いわゆるシカゴ音響派のバンドを意識的に聴いてたりもしたね。

で、それに連動するようにサウンドに期待したのはスティーブのあの生々しい音だったり、80~90年代のハードコアやオルタナのような、古いけどリアルで存在感のある音像ではあったね。…スティーブとも、当時のUSのハードコアのカルチャーとか、ビッグ・ブラック(スティーブ・アルビニが所属していたバンド)のいろんな話ができて、楽しかったな。

ーなるほどな。それもあるのかもしれないけど、これまでは割とリズム的にストレートな曲がCRYAMYの曲には多かったと思うんだけど、今作はちょっと捻ってるよね。

カワノ オフビートを意識する、っていうのは家でドラムフレーズを考えながら、あったなぁ。ポスト・ハードコア、って、ざっくり言ってリズムを凝ろう! っていう意識から発展した音楽ではあるからね。まぁ、俺らは演奏下手くそだから、カチッとしなかったけど笑 スティーブも「展開はプログレなのにパンクに聴こえるな」って笑ってたし笑 ああ言うクールなサウンドは数学が得意なやつがやんないとダメね笑

ー笑

カワノ でも、そうはいっても根本では、楽曲に関してはむしろ日本のバンドの系譜を継ぐぞ!って気持ちが強かったよ。

ーそうなんだ。

カワノ もちろん本場の音楽や古典を参照したり、影響を受けてきた音楽からアイディアや方法論を受け継いで作ったのはあるんだけど、ガチガチに洋楽のサンプリングみたいには、しなかった、というよりは、ならなかったな。迷った時にパッと浮かんだのは日本語で歌われている曲ばっかりだったね。例えるなら、なんか、持ってるDNAとかはUSインディーとか、そう言うものだとは思うんだけど、育った環境で形成されたものが日本語のロックだった、ってイメージ。だから、キワキワで洋楽寄りには聴こえないはず、客観的に見ても。

ー元から洋楽邦楽問わず聴きまくってるイメージではあるけどね。むしろ、CRYAMYは邦楽の側面がどちらかと言えば強いバンドだと思ってたから、今作の変わりっぷりに驚いたのは、個人的にはあるんだけど。

カワノ ちょっと引き出しが変わったのかもなぁ、とは思ってて。結構、これまでは、演奏スキルとか、強みとして歌を立たせるしかない、って言うのがあったからさ。バンプとかシロップとか、もうちょっと古いとブルーハーツとかね。洋楽でも、ニューウェイブのキャッチーなバンドとか、グリーンデイとかジミー・イート・ワールドみたいなポップな、その辺りが影響としては強かったかも。…当時も今も変わらずずっとあるのはGet Up KidsとかJoy Division、ドアーズじゃないかな。あと、ピンカートンのWeezer。

ー日本のバンドだとどのあたりがリファレンスになってるの?

カワノ 誰もが知るわかりやすいところで言うと、いわゆる、歴史的に見てもロックの名盤…とりわけその中でもラウドとされているロック然としたもの。一番はやっぱ、ミッシェルの「GEAR BLUES」以降の流れ。あの、ミッシェルの後期へ向かっていく過程の…最強無敵モードを通過して、終わりに向かって黄昏ちゃってるムードというか。

…あぁ、そうそう。なんか、いつだったか忘れたけど、ミッシェルのラストライブの映像見ててさ。最後、「世界の終わり」でアベフトシさんが弦を切っちゃっても演奏し続けるんだけど…あの時のアベの表情…こう、「男の悲哀」みたいな…。あれにすごい、今更ながらに気づいて感動しちゃって。うん…あのムードだな、後期ミッシェルを俺が好きなの、って。

あとはNUMBER GIRLはもちろん大いに。…セカンド以降かな、でも。ギターポップを経由して、ハードコアもあるけど、ダブぐらいまで足突っ込んだ時期の。今作はオーディオ的にエッジの立ったミキシングではないし、エフェクトをバリバリかけるアルバムではないから全然音的には違うんだけど、あの、行く所まで行くぞ、って気迫がある感じ。「SAPPUKEI」以降はナンバガも海外レコーディングだしね。

それと銀杏BOYZの初期二枚もそうだね。生々しくて、カロリーが高くて、重く、虚飾がない。あとは、あのアルバム、ジャンクだけど、ちゃんと聴くと実はすげぇしっかり作られてて聴きやすいから気にならないんだけど、多分クリック使わないで一発で録音してると思うんだよね。あの、演奏にも歌にも、よれも走りもあるんだけど、それがかえって人間的な魅力になってる空気。…あと、あの初期二枚って、ゴイステの再録曲以外、ほとんどめっちゃくちゃオルタナとかハードコアだからね笑 変なアルバムだと思ってて。…あぁ、でも「夢で逢えたら」とかは違うか。

ージャパニーズロック黄金期のロックサウンドやねぇ、全部。このアルバムは王道からは幾分はずれた仕上がりではあるけど、参照点はそういう、教科書的に歴史に残っている作品も多い、って言うのが面白いね。

カワノ そう、標榜した。あとは、やっぱりスティーブと仕事をする意味では、スティーブとこれまで制作を共にした日本の、よりエッジの立ったバンドたち…54-71、GEZAN、ZENI GEVA…とか。三バンドともにスティーブと仕事をしてきた、かつ、音像も音楽性もハードコアライクな系譜をすごく意識した。元々どのバンドもCRYAMYを組む前から熱心に聴くくらい大好きだし、影響されてきたと思ってて。GEZANは上京したばかりの頃にライブも行ってたし、「Silence Will Speak」が出る、って時には「アルビニとやるのか!」って興奮したなぁ。だからアレンジに関してはすごく意識したんだ。…まぁ、そのラインにある音楽は、CRYAMYにこれまで落とし込めなかっただけで、本来は自分にもそういう先人たちのような、ハードコアパンクの影響はすごくあるから。ここにきて、自分の引き出しから引っ張り出してきて。

ーあぁ、むしろ俺はそのあたりのバンドの影響を強く感じたな。音もそうだけど、ある一方方向へ振り切った感じというか。

カワノ うん、そうなんですよ、本当に。…まぁ、そういう、烏滸がましいながら、そういう日本のレジェンドたちを意識して、このラインの継承、オマージュ、ともすればサンプリング、じゃないけどさ。重厚な楽曲のゾーンは特に影響は受けたし、出てると俺個人は思ってるよ。だから、音はまさにUSオルタナだけど、鋳型としては日本のロックの姿が多くあると俺個人では思ってる。

ーあと、不思議なんだけど、確かにとっつきづらい曲ではあるけど、こう、ちゃんと歌心は残ってるんだよね。アコギでも成立させられそうな。

カワノ 歌心! そう、それは変わらず大切にしてる! そうだね…。絶叫やシャウトひとつとっても、叫びにも心があるというか…。スクリーモとかメタルコアのバンドもすげぇ聴いたんだけど…リンキンパークのチェスターとか、Pay Money To My PainのKさんとかね、すげぇわかりやすいけど、絶叫の中にもちゃんと悲痛さと情緒がある、っていうか。あれだねぇ、すごく意識したの。…あぁ、でも、さっき日本のロックを! って話をしたけど、捉えようによってはこのアルバム、前半戦の楽曲で一番近いジャンルはそういうバンド…所謂ニューメタルかもね! 今思ったけど、やっぱ、どうしてもこういう、叫びとかスクリームがフィーチャーされそうだし。

ーあぁ〜言い得て妙。歌詞も、ニューメタルのバンドって、サウンドはモダンになりつつ、Nirvanaやパール・ジャムみたいな、陰質なグランジのノリを正統に継いでる、内面のドロッとしたものを歌ってるしね。ある種、厨二病っぽい感じ。そういう意味でも近いかも。

カワノ ええ、ええ。…まぁ、そういうことを吐いて、矛盾したり、恥をかいたって構わないんだよね。こんなことを大っぴらにするのはとても痛くて恥ずかしいことだ、って認識しながらも、そういうことを言う、っていうことが大事で、すごく潔い行為というかね。

ー昔からそうだけど、何かを言い切る、というか。その言い切る対象がよりグロテスクになっていってる感じ。言動も鋭いし、激しいし。

カワノ うん。でも、あくまですごく個人的なラインでは踏みとどまってると思っててさ。もちろん、大きな世界には対峙するし、大きな枠に向かって歌を投げたり、怒ったり泣いたりはしてるけど…大きなものを何も変えようとしていない。変革を呼びかけたり、啓蒙したり…。そういうのはないかな。

サウンドとしてはすごくハードになったし、歌もキャッチーではなくなったけど、そこは以前から変わらないっていうか、変われない、っていうか。ただ事実とか事象をありのまま置いていってるだけで。…しっかりそれを見つめた上でね。大事なのは、何かを変えてしまうことではなく、どこまで自分をさらけ出せるか、どこまで見せられるか、ってことでさ。…その上で、絶対に同調は求めないんだけどね。

ー…でも、同調を必要とせずに自分を開示する、っていうのは、俺としてはよくわからないところではあるんだよね、正直笑 形問わず、自分を見せびらかす、っていう行為は、良し悪しあれど誰かと繋がっていたいからするもんだとは思うんだけど。お前のそれは、この曲に限らない話だけど、どちらかというと人を遠ざけるような部分を切り取って見せてるから、すごく露悪的であるというか…。

カワノ う〜ん、でも、俺も誰かと繋がれるんじゃない? こういうことをすることで。拒絶の姿勢を持つことで得られる信任とか親近感もあるからね、俺が望もうが望まざるが。…誰かと結びつく、っていうことは、一方では誰かとの関わりを切り落とす、ってことだと思っててさ。自分を開示する、っていうのは、程度の差はあれど、誰もがやってる行為で、その過程で少しずつ自分を開示していって何かを得ていく、増やしていく以上は、どこかで別のつながりと軋轢を起こすし、何かが切れるのは仕方のないことというか。…最大公約数を維持しておければいいのならば、深いところまでは見せなくてもいいし、逆に自分を抑圧すればいいとは思うけどね。…まぁ、切り落としたことで楽になることもありますよ。人と繋がっている、ってことは、本来難しいことだし、具合の悪いことでもありますから。

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4.豚

破綻したアンサンブルや意図しない不協和音すらありのままに残し、ともすればそれすらも個性にしてきたCRYAMYだが、この曲は明確な意志を持って歪め、不協を誘っている。おそらくは往年のサイケデリックロックやドゥームメタル、ダブやレゲエをカワノが咀嚼して生み出したそれには、ところどころに彼が影響を受けた先人たちのサウンドやビートがオマージュされている。

こんな曲は、商業的なヒットのために敷かれた制約まみれの現代日本の音楽シーンや大衆に寄り添うことで成立しているロックシーンで鳴らしたところで決して歴史にも残らないだろう。この曲に限らず、彼らの曲は全てそうなのだろうが。

ただ、大きな枠組みの外からこの曲を眺めた時、その存在は痛快。ある日のライブで、1000人以上を詰め込まれたライブハウスで、初っ端からこの曲をフロアに放り込んだ瞬間、人の波が一斉に凪いだことをものともせず、むしろ楽しむように薄ら笑いを浮かべながら歌詞をなぞっていたカワノを見て、同じように薄ら笑いを浮かべている人たちにとっては。

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ー俺、これが一番好き。カッコ良すぎる。悪い音してるんだよ笑

カワノ あぁ、そう笑 これね、「脱皮」(CRYAMYがリキッドルームで行った主催公演。来場者全員に歌詞カードを配り、全曲がセカンドアルバムの新曲のみで構成された演目でライブを行なった。)のゲネリハ(音響の整ったスタジオで行われるライブを想定したリハーサル)で、スタッフ全員が集まってやる日があったんだけど、その日最初に演奏した曲なんだよね。

ーそうだったんだ。

カワノ ワンマンが終わったあと、アメリカに行く前にリキッドを打つのは決めてて。で、色々考えた末に、「リキッドルームは全部新曲でいくんで」って。

ーその頃にはもう曲は出来上がってたの?

カワノ いやぁ、どうだったかな。割と作りながらだった気がする。デモはもう出来上がってたから、ひたすら四人で練習して…でもスタッフには曲のイメージとか、共有する時間はなくて、結局リハは一回で本番一発勝負だったね笑 だから、…リハの日、その時点で全員緊張してたんだけど。じゃあとりあえず、一曲ずつやっていくんで…って、一発目いきなりこれやって…。その時の地獄みたいな空気ね…。

ー笑

カワノ オペはタカちゃん(結成当初よりCRYAMYのPAを務めている。趣味は釣り。)だったんだけど、もう…明らかに苦い顔してて笑 八木さん(ローディ。シカゴまで帯同して今作の楽器テクニシャンも務めた。)も、「いや、ヘビーになるとは聞いてたけど…ここまでとは…」って。もう、全員暗い顔してて…。「シカゴまで行って何を録音する気なんだ…」「終わった…」みたいな笑

ーまぁ…でしょうなぁ、ここまで変わると。

カワノ まぁ、これに限らず、何回もね、みんなが「終わった…」みたいな局面はこれまでもあったから、流石にいけるだろ。…と思ったら…本番も暗い顔してたからね、みんな。あれねぇ…当日、お客さんも何見せられてんのかよく分かってなかったと思うけどね、僕らもね、みんなよくわかってなかったから笑

ーあぁ、それじゃもう、文字通りフロアの「全員」置き去りだった、と…。

カワノ タカちゃんが「せめてアンコールぐらいやった方が良かったんじゃ…」ってぼやきながらビール飲んでた、打ち上げで。しかし、まぁ、みんな不安だったと思うけど…こうしてリリースができるところまで来て良かったですよ、本当に。もう出してしまったら何を言われることもない…。

ーそんなことはないだろ笑 でも、客観的に見てもこの曲が一番、意味不明なところまで行っちゃった、ぶっ飛んだ曲ではあるとおもう。そもそもコード使いがこれまでとは質の違う感じじゃない。なんというか、フォーク・歌謡的な部分がゼロ。歌を突っ込むことを想定してない…というか、どっちかといえば、わざと歌を破綻させようとしてる。

カワノ そうだねえ。このイントロのギターフレーズは俺が作ったんだけど、俺もよく正体がわかっていないという。コードとかスケールとか。イメージだけ持って、適当に押さえて弾いてるから。

ー不穏な響きで。

カワノ Dメジャーのコードフォームを一弦ずつ上にずらしただけなんだよね、これ笑 でも、適当に押さえた割にらしくなってくれたから気に入ってるんだけど。…あぁ、これ途中で転調してんのかな? どうだろう…気のせいかな。

…当初の考えだともうちょっと、インドあたりの東洋っぽいスケールで、もっとエフェクトもべっとりした奇怪なフレーズを組んでたんだけど、どんどん変化していったね。単純に最初のデモの演奏が難しすぎてみんな弾けなかったのもあるけど、ドラムのビートのノリや手数がレゲエっぽいロウな感じになって、テンポが落ちて、ギターはシンプルにして、トータルしてインドメタルっぽいフレーズに落ち着いた。あとはところどころ、さっきの話じゃないけど、よく聴いたらいろんなバンドのオマージュがある。

ーアンサンブルはとにかく不協和音を突っ込んで進行してるけど、歌いづらくないの?

カワノ 最近はもうメロディを主体で考えてないからねぇ。歌詞さえ乗ればあとはどうとでも、って感覚。メロディよりもリズムの方が面白くしたい。しかも、この曲、誰一人コードとかキーがわからないまま演奏してるんじゃないかな? 俺も実はよくわかってないんだよね。

ースタジオで理論的な話はしてないの?

カワノ あまりにも全員の解像度が低い時はするけど、この曲は特にしてないかも。俺もよくわかってないくらい、まぁ、きいたまんまで、気味の悪い曲だし。俺らは元々あんまり会話せずに、俺のデモを聴かせて、弾き方を教えて、みんなで黙々と演奏して、誰かとちったら俺がやいやい言って、って作り方だから。特にこの曲はデモの段階からどんどん簡素にしていったから、削ぎ落とした部分が多くても、不思議と基盤のアレンジからイメージした姿が一切変わってないね。各々が細かく変えたりはもちろんあるけど。

ー邦題が「豚」っていう直球なタイトルで、前の曲と比べてこれはより対象を攻撃的に揶揄してるね。

カワノ これこそ捉えようによる、だな笑

ーざっくりいうなら、人がすがってるある対象があって、それに対して冷や水を浴びせてる、って意味かな、って思ったけど。「God」ってあるし。

カワノ 最初は「God」はマズいのでは、ってなって、「Priest」だったんだけど…なんかドラゴンクエストの敵キャラみたいでやだったから、まぁ、「God」でいいか、と笑 …で、その対象、っていうのが今の世の中溢れまくってて、それがこう…具合悪く及ぼしてることがあるのが、非常に俺を難しくさせたところではあるけどね…。

ーっていうのは?

カワノ …難しいんだけど、今って、暮らしていく中で何かに縋ってないと不安だ、って感じることや、そこまでシリアスではなくても、カジュアルな次元で言えば、何かに没頭している自分じゃないと退屈なのかなって人が増えてる気がしてて。どうも昔よりも、身近にすらそういう人が多いし、もはやスタンダードにもなりつつある、というかさ。…もしかしたら、昔からそういう空気はあったけど、より可視化されてきちゃってる、ってのが正しいのかもしれないけど。

ーうんうん。

カワノ まぁ、それ自体はいいんだけどさ。どうにもちょっと、その入れ込み具合が過激になり過ぎてるところはある気がしてるんだよね。…あまりにも価値基準を他者に委ね過ぎてて、自分が主体にない、ってレベルまで来てる人もいるじゃん。で、それがもう、周りと競ってる空気とか、むしろ入れ込めば入れ込むほど良いとされてる感じとか、それがちょっと俺、あぶねぇなって気はしてて。

本来、そういうものに対して時間や愛情をかけることって、自分が求めてるものとか欲しいものを得るための対価としてだったり、ライブでもなんでもいい物を見るための交換であるべきでさ。もちろん感謝、とかでもいいけど。あくまで自分に主語があるべきで。でも、危ねぇのがさ、本来ある良識を超える入れ込み方が是とされてる空気とか、その、芸を売ってる側の人間があれに甘んじたりそれを推奨する流れが出来つつあることで。…あまりにも具体例を出すと、とんでもない悪口を言ってしまうから、やめとくけど笑

ー笑

カワノ うん。「危ないぞ、それ」が一番、思うなぁ。具体的などうこうはさておいても、自分を他人に預け過ぎたり、自分の領分が曖昧になるまで無茶やるのは、別に、悪いとも言わないが、何もいいことではなくないか? って。

…まぁ、あとは、それが生き過ぎた結果なのかもしれないけど…その、演者側だけじゃなくって消費者側にもさ…なんか思考がビジネスっぽいやつ増えて気持ち悪くなっちゃってるところが正直あると思ってるんだよね。

ーあぁ〜すっげえわかるわ! そりゃ…嫌だよな…。

カワノ 昔だったらさ、アーティストが表立って金の話をしたりとか、数字乞食をするとか…みっともないし、「ダサい」とされてることだったじゃん。でも、今はもう、割とその辺あけすけな人増えたし、「それの何が悪いんだ?」みたいな感じすらある…。…俺もさ、ちょっと前だったら「カワノくんの借金いくらあるんだっけ?笑」とか、今は「シカゴレコーディングどれくらいかかったの?」とか、立ち話でも、取材ですら面白半分で聞かれたりするし…。まぁ、その度正直に答えるけど…あんまりそれ表に出さないでね、って思ってはいる…。まぁ、結局ペラペラ書かれたり言いふらされたりするんだけどさ笑

ーまぁ、でも、そういう下世話な感じをさ、…あるのはいいと思うんだけど、表に出す奴は増えたよなぁ。なんか、最早それがアピールポイントじゃないけど、カマシの一種に使える、って世の中的にはなってんじゃない?

カワノ そうなのかもねぇ。…で、そういう話を公の場でするとさ、客も平気でそういう思考にはなってしまうじゃん。動画の数字を回さなくちゃ、SNSのいいねを増やさなきゃ、オリコン何位だ、バズらせなきゃ、売れなきゃ…って、そういう…レコード会社の汚ねぇおっさんがしてそうな話を一ファンの人たちも見えるところで平気でしてるのが、ヤベェな、って。古くは秋元康の野郎がやった握手券商法とかだけど、演者も、どう考えてもキモい空気になってるのにそれに乗っかる施策をするしさ。数字数字数字! って…全く美しくない。

…まぁ、数字の大小を測ったり語るのは俺ですら心をすり減らすし、虚しいのに、客にまでそのノリで来られると、きついだろ、って。もう、そこだけになってくると、どこにも美徳や逃げ場を用意できなくなって、最終的には全然関係のないところでまで数字を欲しがるようになってきちゃうと思うんだよ。そこでしか意義を見出せなくなってしまう、というか。どうでもいいTwitterやインスタグラムのハートマークを稼ぐために嘘ついたり過激なことを演出するのもアリ、っていうかなり惨めな感じになってくるじゃない。やってる側もそれ、やりたくないだろうし、だるいだろ、って。何もかも幸せじゃないっていうか。

ーまぁ、…全然音楽と関係ないところで、みんな元気すぎる、ってのに尽きる気がするな笑 演者もお客さんも。現代っぽいなぁと思う。

カワノ …なんというか、そこはすごく、演者と客の距離が年々バグり続けてってる感じで、しんどいなぁ、って。…そりゃ数字を意識するのは、これで飯食ってる以上はある意味では大事だけど、そんなビジネス的な部分まで俺たちが一体化する必要は絶対ないじゃん、って。そこは…一緒に暮らしてるわけでもないんだから、ほっといてほしい笑 別にさ、家族でも彼氏彼女でもないんだし、なんなら友達ですらない…し、なること、絶対ないんだから笑

ーお前の方からできることも限られてるからね。

カワノ いや、本当にそうよ。歌歌ってあげるくらいしかできないんだから、それ以上も以下もないんで。…でも、かくいう我々もさ、そういう奇妙な構造に組み込まれてはいるんだよね。どんなに格好をつけようと頑張ってもさ。やっぱり、ふと自分に向けられてる視線とかを感じることがあると、…マジでごめんやけどさ、虚しいし疲れることもあるよ笑 けど…しょうがない。…でも本当にね、みんなには必要以上に時間も金も…最早愛情も、使わなくていい、っていうかねぇ。欲しい時にいる分だけ、無理しないで、って、そうでいて欲しいとは思うな。結構ね、我々はみんなのことは大事に思ってるから。俺もそうだし…まぁ、他のバンドもそうだと、信じたい! …とにかく景気悪りぃしな、最近笑 貯金とか、筋トレした方がいい。時代は、ヘルシーですよ〜!

ー笑

カワノ でも、バンド…バンドに限らんでもいいけど、うん…そういう、外的な部分との関わり方というか、すげぇ難しいよ、最近は。もう、目に見えて萎えてくるのが…なんていうか、音楽に、ってよりも、その、それをやってる人間自体に入れ込んでる感じ。で、その人間っていうのも、誰かが演出したりSNSとかで騙くらかして見せてる虚像です、っていう、かなり虚しい状態…。それはある意味、世の中の娯楽への向き合い方の風潮が、今はそうなのはあって、そういう方向に人は流れるし、それがビジネスになってる、っていう。…否定してるわけじゃなくてね、事実として。…否定はせんけど、本当にそういう領域とは距離置きたいんだけどさ…まぁ、しゃあなしやな。それが今の普通なら。

ーうんうん。

カワノ で、まぁ、そういうのはね、いいんだよ。…っていうのも、悪意はないから。それが変わって欲しいとかも、もはや思わない。まぁ、他は知らんが、俺に限っては…本質としては、一人黙々と打ち込んだものを出すだけで、おそらくそれは俺…絶対できてるから。このアルバムもそうだし。やるしかねぇし、やるとこみとけ、あとはもう、もはやなんでもいいよ、って笑 君を感動もさせるし、涙も流させてあげるよ、ってさ。それに…まぁ…人はいつか死ぬから笑 俺も、お前も、って笑

ーはっはっはっ!笑 何、宇宙の話とかするんけ?笑

カワノ ふふ笑 まぁ、そういうわけでさ、その、そういうのはまぁ可愛いもんだわさ。だからいいんだけど…悪意、ってところだよな。その、そういう、虚像…対象が、一歩間違うと、一線飛び越えた世界では…例えば宗教とか、闇バイトとかさ、中には邪悪なものがいたり、ちょっと目に余るものもあるし…。なんだろうね、その、本質や中身ではなくって、ガワに目が向きすぎてる故に、ちょっと盲目的すぎてしまうこととか、その結果大事なものが見えなくなってしまったりとか…。

ー…ちょっと前だと、統一教会のゴタゴタもあったよね。

カワノ ああ、もう、まさにそれよ、これ。…もうね、言葉選ばないで言うけど、これ書いてた時がさ、統一教会の二世信者の女の人の告発の会見…あれを見た日だったの。

ーあぁ…。

カワノ スタジオかな、待合室で、テレビでニュースを見ながらずっと胸が痛かったんだけど…俺がしんどかったのが、その…信者の両親が…会見に手紙かなんかを差し出してさ、教会からの指図なのかなんなのか知らんがよ、「娘は頭がおかしくなってる」って…。何を信じるのか、信仰するかは自由にしても…親のすることじゃないんだよな、そんなことは。あれは、他人事なのかもしれないけど、…本当にはらわたが煮え繰り返ってさ。言葉悪いけど、マジであいつら、ブッとばしてやろうかと思ったくらいで。

ーうん。

カワノ まぁ、…俺もさ、見ようによっては親の教育の失敗の結果生まれたモンスターだし笑 憎まれてるかもしれないけど、少なくとも今は親から石を投げられて生きてるわけじゃないし、そもそも、そんなことは…ダメだろって。俺は子供がいるわけじゃないけどさ。あれがなんか…自分のコンプレックスもあって、本当に、ダメで。

ー…。

カワノ でも俺は深くまで背景は知らないから、それだけしかひょっとしたら言えないかもしれないんだけどね。でも、じゃあ何があの一家を壊したのか、誰の欲望の犠牲になったのか、って…悲しむばっかりではあったけど、ある日、ふと、新陳代謝みたいに、この歌詞を書き上げてね。まぁ、その出来事をモチーフにする、ってよりは、もっと拡大した歌詞表現にはなったけどさ。あまりにも具体的な一点にフォーカスすると俺自身がしんどくなる、っていうのは「N・H・K」(「YOUR SONG」収録)で学んだというか。

ーカワノは歌詞先行で曲を書く…歌詞を選んでから順々に音をはめていく人だから、こういうサウンドになったのかもね。純粋な怒りの感情だけだったらおそらくこういうサウンドにはなっていない。もっと複雑だし…だからこそ、こういうサウンドスケープが生まれた。

カワノ うーん、いや! そういう、芸術家っぽい感じではない笑

ーなんだテメェ! 花持たせようとしたら、今日やたらハシゴ外すな!

カワノ だって違うんだもーん笑 そんなに高尚なもんに捉えないでほしいな! どっちかというと、この曲はものすごく意識してポップソングから遠ざけた、ってのが正解。自然になったとか、それとはまるで逆で、狙いまくりよ。テーマがテーマだから、オエっ! ってさせてやるよ、って。狙い澄ましてこういう曲にするのだ、っていう。もう、絶対に誰もが拒否反応を示すような曲にする、って頭で組んだ。冒頭のイントロのギターもそうだし。気取った連中が「CRYAMY変わりましたね!」とか、言えないぐらい。誰も聴かなくていいとすら思う、というか。

…それと、このアルバムを作りながら考えてたことがね、「ポップソングになった瞬間残らない感情もあるな」ってことで。こう、メロディが綺麗だとさ、混乱が混乱のまま伝わらない瞬間がどうしてもある。徹底的に蓋をしめて蔑ろに煮詰めた臭いものにしか宿せない気持ちがあるんだよ。

ーうんうん。そう考えてたからこそ、このアルバムはよりヘビーで重たい曲が並んでいるんだろうしな。一連の話をして、さっき、演奏のテイクに宿ってる緊張感の話をしたけど、もはや、美しいメロディの放棄とか、そういう方面に、意識的に自分を持っていかないと、あの歪さは出ないんじゃないかな。

…俺は、少なくともこれまでのCRYAMYは、非常にストレートなロックバンドだ、って思ってるんだけど、だからこそ、カワノ自身の負荷を上げなくちゃあの異物感は出せなかったんじゃないか、って。何もなけりゃまたストレートを投げていたと思うし。

カワノ うん。あとは、まぁ、絶妙なニュアンスだけど、「神様がいる=教会」ってイメージとか、攻撃ではなくて嘲笑みたいな、少しだけそういう雰囲気も込めたつもり。

ーその神様っていうのが、卑しい豚だと…。

カワノ 腐った豚野郎。…あとは、まぁ、みんな家族とは仲良く…してほしい、ね笑 それと、自己保身のために世論や家族…他人まで扇動して操って、ダラダラ太っていくような奴はね、神様じゃなくて、もうちょっとダサい存在ですので。豚ですわ、ええ。

ー最後に。…まぁ、繰り返し論じてきた話ではあるし、嫌な言い方だし、さっきの話でも出たけど…これは誰しも思い悩むテーマではあるけど…バンドってある意味宗教的じゃん。これは絶対に否定できないし、ぶっちゃけお前もその渦中にいると思うしさ。そこに関しては改めて、どう思ってるの?

カワノ うん。まぁ、それもさっき話したけどさ、…まぁちょっと嫌だけど、別に、どう思おうが好きにすれば、って思うよ。…本質には関係ないし、歌のね。…まぁ、でも、俺は自分のことを信じているから、別に、他人がどう思おうが…今日何回も言っててごめんやけど、どうでもいい笑

…と、思うけど、…俺はそういうのを、自称したり意識的にやっちゃう系の人たち…、いるけど、あれがなんか、人を馬鹿にしてるみたいで、クソみたいだし嫌だなぁって思ってるし、そういう風に自分自身が捉えられるのはものすごーく嫌だ、っていうのは、伝わってるのかわからないけど、もう、これまでもずっと言ってるけどね。そういうのを楽しんでる人には悪いけどさ。

なんというか…宗教的なイメージ…この曲でいう、「God」にあたるところ…それ自体を否定はせんけども、とは言ったけどさ、ああいう、救済する対象を「探す」…いや、「数える」か。「数える」っていうのカッコいれてね笑 うん…指さしてよ、「数える」っていう行為、すごく情けなくて浅ましい。やっぱりそれは、よく見たら心の深いところで人間を馬鹿にしてるようには見える。し、そういうのをなんか美しいことと勘違いしてる奴らが、演者・聴者問わず多いんじゃね? って思うな。キモいとか、終わってるとか、そういう感想が出る以前に、目につくと恥ずかしくなるし、怖い。…俺もああなるのかなって意味でさ。日記やめたり、メールの返信返さなくしたり…ライブ中全然喋らんくなったのは、そういうことよ。もう、そういう感じでね、ライブハウスの人々が来るんだったら、何喋っていいかわからんし、お話しすることはないです、って笑

ーあぁ、なんとなくわかる…気がする。し、そういう意味ではお前は全くの逆だよね。

カワノ 俺が探してるように見えるか?笑 こんな曲出して、人を探せるわけないでしょ。むしろ遠ざけてるし、今からお前らを拒絶するぞ、っていう姿勢を示すことは、自分の信任を得るためにわざとやってるところも正直あるし。何かカウンターを打ってるとしたら、そういう連中と同じにするな、よくみろ、っていうね。…それに可哀想な人なんていねぇよ。もしいるとしたら俺も可哀想だよ、同じ人間なんだから。

ーうんうん。…ここでやってしまったことの一つとしてはね…その、お前がこれまで貼られてきた鬱陶しいレッテルを剥がすようでもあるし、お前の気難しいし神経質な面が隠せなくなってきたという意味でもあると思ってて。

というのも、お前は否定的なことをすごく意識的にやり続けているのはあるけど、そういう思考が曲になってしまったことで、よりお前の悪いところがわかりやすくなってしまった感じは…すごいあるんだよね、一連で笑 昔から気難しい人だけど、「いや、でもこいつは実はいい人で…ほら! 曲聴いてくださいよ! 意外と思いやりのありそうな人でしょ〜?」ってできてたのが、「気難しい人ですよ彼は…見てごらんなさいこのアルバム…、マジで終わってますがな」になってしまった笑

カワノ ふふふ笑 いいじゃん、いいじゃん。人って美しいところだけではないですから。

…まぁ、…巡り合うだけなのよ、俺たちは。人生の交差点で、巡り合った人間を助けてやったり、支えてやることだけよ、本来人ができるのは。勝手に放り投げた音楽を、誰かが拾うのか、わざわざ会いにきて歌を聴きにくるのか、そういう時何をしでかすか、の、瞬間瞬間の心の動きやアクションでしかない。可哀想な人を指を刺して数え出したら、それはもう、それこそ神の領域で…で、その傲慢さは醜いよね。本当に神様がいるなら、そういう人間では到底神の力まで及んでない。餌を探してる豚と変わらないと、思います。

ー…で、その上で、サビ…サビって言っていいのかわからんけど笑 「Come Together」のスクリームね笑 これは歌詞としてはものすごくベッタベタだけど、悪意まみれ笑

カワノ ふふふ笑 …まぁ、そうだね…、そこに陥るのは、なんというか、未来の俺だけは避けてほしいな、という意味も…今こめまして!笑 でもね、…実際には、神様みたいな優しい人って、マジでいるし、そういう人には…人の善性を信じるのなら、誰にでもなれるはずなんだけどね。そうなるには、そこで根本的に間違えたらいけないと思う。「神」にはなっちゃダメなの。「神様みたいな人」は、どこまでも人なのよ。…俺が思うにね。多分キリストだって元は人間だから笑

ーそれは言っちゃダメよ! 怒られるよ!

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