OFFICIAL INTERVIEW #3
今作はもう…実際の事象として異例づくしっていう感じ
ー…まずは「FCKE」リリースおめでとうございます。…もちろん先に聴かせてもらったけど、…マジで最高傑作だと俺も思ったよ。
カワノ …だよね! まぁ相変わらず強引に動きすぎてのギリギリ進行で、ついこの間、ようやくCDの発注をかけた段階ないんだけど笑(取材日は2月上旬)
ーいつも無理やり動きすぎなんだよ笑
カワノ おっしゃる通りで笑 まぁいつも通り大勢の人の手を借りて完成したんだけど…今作は時間かかったね…。過去1で過酷な制作だったと思う。
ーそうなんだ。
カワノ うん。プリプロを夏にやって、録音を秋口に始めてさ。これは二日間で終えたんだけど、終わった瞬間ものすごい脱力感で翌日起き上がれなかったし。で、後日ライブハウスで歌入れで、22時から朝の7時ぐらいまで、レイが立ち会って高山さんと休まず録音作業して一晩中歌いっぱなし。で、これもボロボロ…。最終的なミックスには、おおよそ一ヶ月以上はかけたかな…。トータルで半年…か…。
ーミックスに一ヶ月! …二曲でそれって、相当なんじゃないの?
カワノ 普通のバンドはミックスはそんなにかけない笑 周りが思ってるよりチーム全員死ぬ思いで作ってるよ笑
ー普段バンドの制作なんてカワノから聞く制作の話しか聞かないから俺もちょっとおかしいのかもしれないけど、お前ら毎度毎度異常なぐらいこだわって作るから、それは毎度のことだろ…笑 でも単純に疑問なんだけどさ、これまでは二曲でそこまでの期間を設けて作るっていう動きはなかったわけじゃん。それぐらいの時間があれば、お前だったらアルバムの1枚ぐらい作れるだろうし。今作はどうしてそんなことになったわけ?
カワノ うーん、単純に1曲のボリュームも凄かったっていうのもあるけど…録音の方法が特殊でさ。まずこの二曲…どちらもトラックが100超えてるんだよ。だからその処理に時間をかけざるを得なかった。
ー100笑 え、だって、楽器は四つだよね? シューゲイザーみたいにギターをめちゃくちゃ重ねてる、って感じなの?
カワノ いや、今回オーバーダビングはなし。俺とレイが弾いてる本数だけだね。
ー…ますますわからん笑 なんでまたそんなことに笑
カワノ ここがすごいところでね…一回の演奏に対して、尋常じゃない本数のマイク立ててんの。ギターだったら、アンプの前っつらにオーソドックスに2本、で、1.5~2m間隔でマイクを置いて行って結局4つくらい立てたのかな? で、アンプは同じ部屋でスタックのでかいやつを2台同時に鳴らしてるから、マイク本数で言うと単純にその倍立ててて、最後、轟音まみれの空間の音を拾うマイクをいくつか立ててるから…って、もう、一回の演奏につきこれだけ立ててる。
ーおぉ…。
カワノ マイクの本数はドラムが1番多かったね。そもそもドラムってパーツごとにマイクを立てるから多くなりがちではあるんだけど…ドラムにくっつけるマイク以外にも部屋のそこらじゅうに高さとか位置を変えてマイク立てて、最後は部屋鳴りだけを抽出するためにドアの向こうの廊下にマイクを立てたり、床の振動を拾うマイクを立てたり…。
ー…専門的な話だからあんまり首は突っ込めないけど、それも普通は…。
カワノ うーん、しないんじゃないだろうか…。…俺はスティーヴ・アルビニ(アメリカのレコーディングエンジニア。オルタナティヴロックの金字塔的作品に多く携わっている。代表作にpixies「surfer rosa」、nirvana「in utero」がある。)の音がすごく好きなんだけど、彼の作る独特な…空間ごと鳴ってる音を再現するためにすごい本数のマイクを立てるらしくて。アイツのインタビューとかを読み漁って、完璧ではないだろうけど、その手法を真似た、って感じかな。
ーなるほど。
カワノ 位相が崩れたり、そもそもの素材の活かし方やチョイスにセンスが問われたり…短所やしんどさもあるけど、まぁ…そんな感じ笑 これまでは我々の異常な制作って、俺がメンバーを怒鳴りつけながら進めたり、「心を込めて弾け!歌え!」みたいにちょっとスピってたり笑 そういう印象があったと思うんだけど、今作はもう…実際の事象として異例づくしっていう感じ。わかりやすい形で表出した。
ーまぁ、どちらにせよ過酷なことに変わりはなかったわけだ。本当にお疲れ様だったね…。
人間が生きていくことってものすごいエネルギーを必要とするものなんだから
カワノ …こういうレコーディング云々の話はいいよ笑 CDについて話そうや笑
ー笑 じゃあ、「FCKE」についていろいろ話をしていくけど…もうね、本当に繰り返しになるけど、凄まじい傑作…うまく言葉にできないんだけど、だからこそこれに尽きるんじゃないかな。お前もそう思ってるだろうけど…。
カワノ うん。珍しくそういうことも公言もしてるしね笑 ビッグマウス系笑
ーただ、俺もそうだし、おそらくお前の曲を聴いている人たちみんなそうだろうけど…そもそも、お前らの音楽やライブって言葉で説明できないんだよね。感覚として想起させられるものはたくさんあるんだけど…一言で括れない、っていうか。
カワノ うんうん。よく言われるよ。
ー例えば音楽のジャンルにしてもさ…、お前のルーツはポストパンクとかニューウェーブにあるのに、やってることは雑然としたパンク寄りのガレージロックとも、音のゴツくてノイズっぽいエモコアとも言えるし、やっぱり今年に入ってからは最新シングルの二曲をライブで聴くと、インプロパートや展開の複雑さはサイケとかダブ、ポストハードコアの側面も覗いてるじゃない。けど歌メロはフォークとかJ-POPに接近するぐらい強固に作り込んでて…なのにそれをミドルテンポのバラードでやらずに異常にBPMが早いエイトビートでやる、みたいな笑 もう、言ってて訳わかんないけど笑
カワノ いやいや、むしろ…いいねぇ、そういうの笑
ー笑 まぁ、そういうのは今に始まったことではないにせよ…今回は「FCKE」の傑出具合をさ、どうにかお前の話ぶりから言語で解き明かせないか、っていうテーマが今日、俺にはあるな。実際、俺もインタビューしといてアレだけど、今作は「なんかわからんけどすごい」としか言えない作品で…。カワノはこの作品を自分で形容するなら、どういうものになったと思ってるの?
カワノ …そうだね、生々しい…言うなれば「生命力」に満ち溢れた作品になったと思ってる。「生命力」…これいい言葉だな、今思ったけど笑 テーマっすね、今作の。
ー「生命力」! 結構キーワードっぽいな。「生々しさ」っていうのはずっとお前の中のバンドテーマではあったもんね。
カワノ うん。色々と時期によって、その「生々しさ」の捉え方っていうのも変わってはきてるんだけど…音像の話に限るのであれば、「#4」の、極限まで無加工の乾いた質感で一旦の俺が目指すべき方向性はようやっとしっかり見出せた感じがあってさ。そこと地続きではあるんだけど、あれは新生CRYAMYの萌芽としての、いわば0だとすれば…「FCKE」は一気に飛躍して正解まで…100までぶっ飛ばしたって感じ。
ーその正解っていうのが…。
カワノ 「生命力」。
ーなるほど。
カワノ そもそも、「#4」を作り切った後に、一回腰を据えて「生々しさ」っていうものの自分の中での正解を再定義する作業をずっとしてたというか。そもそも…何故俺は「生々しさ」が欲しかったのか、っていうのを考えるところから始めていってさ。
ーはいはい。
カワノ もちろん、その…さっきも話に出たアルビニの作品が最たるものだけどさ、そういう生臭いローな音が好きだ、っていうのは大前提としてある上で…自分のやる音楽において「生々しさ」を最重要に位置付ける理由はなんだ、欲したのはなぜだ、そもそも、位置付けたり欲しがる必要はあるのか、って。そういうことをずっと考えてて…。
ーそもそもの、なぜこの音を作るのか、っていう、音像そのものではない精神的な部分の話だね。
カワノ そう。で、またそこから飛躍してさ、そもそもの話…「俺の表現したいこととは?」「俺が本質的に訴えかけたいことはなんだ?」って…ずいぶん考えこんでね、そういう格闘は常にあった。...曲を作るときはその時で、録音の時はその時、ミックスの時はその時…って、常在戦場じゃねぇけど、そう言う感じの一年。
ーそうやって悩みながら生み出したもののテーマとか、さっきも言ってたけど、これまで突き詰めてきた音楽的なテーマの正解っていうのが「生命力」だった、と。
カワノ うん。結論から言って、俺が「生々しさ」って言うのを欲していた理由っていうのは、生き物の息遣い…うーん、…これを持って「生命力」…まぁ、そういう、的な、みたいなものを音楽で表現したいからなんだ、ってやっとちゃんと認識できたんだよね。俺の歌ではそれを表現しなくちゃいけないし、表現できないと死ぬフィーリングもあって、何より、限界まで表現しきらないと何も歌で成し遂げられない、っていう。
ーうんうん。
カワノ 俺…ていうか、このバンドか…CRYAMYは、いろんな枝分かれはありつつ、根幹は初期から人間の営みとか経験や人生とか…もっと踏み込んだ言い方をするなら、人が生きていくということそのものというか…そういうことからさらに一歩踏み込んだ領域のことを歌とか言葉にするのを目指ししてるバンドだからさ。そういう表現のコアにあたるものを余す事なく歌で表現しきる上で一番になくてはならないものが楽曲にみなぎる「生命力」だ、ってことに気づいて…これを強烈に意識して放出することが大事だった。だって、人間が生きていくことってものすごいエネルギーを必要とするものなんだから。それを描くには楽曲にもそのエネルギーがなくてはいけないし。それがようやく正解、ってレベルにまで押し上げて表現し切れたのがこのシングル二曲なんじゃないかな。そういう風に自分では思ってる。まぁ、まだまだ深化させて行かなくちゃいかんテーマだけどさ。
ーなるほどね。…その、「生命力」ってキーワードでさ、すげぇ俺の中で腑に落ちたことが一個あってさ。俺の捉え方なんだけど、CRYAMYってCDで音源を聴くときは、サウンドも歌詞も本当にいろんな捉え方のできるバンドだと思ってるんだよ。暗く沈んだ曲を聴いて共感することだったり、激しく怒り狂ってるような曲で自分を鼓舞したり、安心とか安寧みたいなものを歌で届けてもらえるような曲で寄り添われたり。本当にいろんな解釈や捉え方ができる。でも一方で、ライブに関しては…そりゃその日のセットリストやお前のテンションの違いっていうものもあるけど、その、「生命力」みたいなものって、実はお前らを象徴してる最たるものなんじゃないか、って今思ったんだよね、話聞いてて。
カワノ あぁ、そうかなぁ。自分のことはわかんないんだけど。目指してはいるけどね。
ーそうだと思うよ。そもそも、すげぇさ、当たり前のことかもしれないけど、CDで聴く音楽とライブで見て感じる音楽って全然違うじゃん。アレンジだったり、演奏の熱量だったり、いろんな要素があるけど…CRYAMYのライブはね、CDで聴いたどの曲も、楽曲のキャラクター問わず、目の前で鳴らされるとね、一貫してとにかくパワフルなんだよ。いい意味でどの曲もさ。
カワノ パワフルねぇ。
ーそりゃあさ、でかいスピーカーで大きな音出るし、特にお前らは重厚な音を出すバンドだけど、そういうのじゃなくって。もっと深い意味で、ね。四人が目の前に立って演奏してる姿とか、カワノの目とか振る舞いとか、ステージ上でする話とか…。そういう意味でのパワフルさ。でさ、そういうふうに色々理由はあるんだけどさ、お前のいう「生命力」っていうものって、実はお前も気づかないうちにその、パワフルなライブで一番強烈に出ててるんじゃないかな、って。自覚してこなかったこれまでも。
カワノ うんうん…。…そっか。全然それは…自分のことだからわからないことだった。
ーうん。…で、さ、お前がよく言ってることでさ、「自分でコントロールできる領域に何もかも落とし込んで、責任持って届けたい」っていう。それ、俺はすげぇ大事なことだと思うし、ある種悲壮な覚悟を持ってお前はそれをやってる。そこに対する極端さや異常な神経質な感じがお前の良さって思ってるんだよね。だから「生命力」って言葉が出てきて、話を聞いてさ…俺はこれからがすごく楽しみ。だって、今まで無意識下で放出してたものを、ようやくこのリリースで意識に結びつけることができたってことじゃん。それって、これからはある種、自分でコントロールして研ぎ澄ましていける、研ぎ澄ませた上でより濃く放出できるってことだし。っていうか、既にもう、そうなってると思うし。年末のLOFTのライブとかさ…。
カワノ あはは笑 あれねぇ…すごい物議醸してましたけどね笑
ーまぁそれは否定できないが笑 でも俺はあれこそが2022年で見たかったライブの最たるものだったのよ。パワフルで、真剣で、ピュアゆえの取り繕ってない狂気もあって、お前も近頃じゃ珍しくベラベラと喋っててさ笑 で、あの日のライブでやった二曲がCDになって、その作品はお前が「生命力」っていう、ついに一個の正解に辿り着いた手応えがあって…ってさ、これはすげぇドラマチックだな、って勝手に思ってる…うん。
カワノ …なんか、そう言われると不思議だな。俺がずっと探してた正解が実は表裏一体で既に俺のそばには実はあって…っていうのはさ。俺、このCDはある意味正解を出すことによるこのバンドの集大成の作品で、一方では音楽性もはっきり言って2023年のこのリリース以降は全く変わってしまうから、CRYAMYの「終わりの始まり」の作品って思ってて…。まぁ、やっぱりそれは変わらないけど…。でも、なんていうかさ、色々話をしててさ、この作品は一方で、自分の原初的な姿とか、自分の元々持っていたパワーに回帰してもいる作品になってた、っていう構造ってことにもなってる…。…俺の始まりであり、終わりでもあるのループっつーか…。…俺もよくわからないけど笑
ー笑 いや、でも、わかるよ。
カワノ まぁ、でも、最初にさ、この二曲を言語化できないってところから話してきたけど、できなくてもいいのかもね。だって、作った本人ですら気づかない内にずっと求めていたものを最初から内包してて、しかも俺の狙ったところに着地するわけでもなく、全く反対の意味も含んじゃってて…。
ーうんうん。でも、だからこそ傑作だ、ってお前もはじめて言い切れたのかもしれないね。時間をかけて導き出したモノと、お前が本来持っていたモノが同居した2曲。きっとこの先もこの二曲はCRYAMYのアンセムになると思うよ。
カワノ …そうだね!
「醜さに走らなかったお前は絶対に間違っていない」
ーまず…新曲の「GOOD LUCK HUMAN」はいつ頃から作り始めた曲なの?2022年のライブでは結構やってた印象がある。
カワノ ツアー(2022年に開催されたCRYAMYのツアー「売上総取」。)の後ぐらいじゃないかな。あの時期はソロの曲も含めて死ぬほど曲作ってたから、正確には覚えていないけど、あの時期ぐらいだったと思う。かなりボリュームがある曲だけど、だからと言って特別な作り方をしたとかはないかな。いつも通り歌詞を書いて、メロディをつけて、コードをはめていった。…これはパッと作ったんだよ〜とか公言してるけど笑 実は…実際曲自体はすぐできたけど、その前…作詞に恐ろしいほど時間はかかったけどね。
ーなるほど。
カワノ ちょうど去年の夏はいろんなことがあってさ。俺個人の出来事もそうだし、社会で起こった出来事もそうだし。すごくね、あの頃は俺自身、誰かに心を開く、っていうことが難しい時期だったから…すごく風通しの悪い心境で黙々と書いていたのは覚えてるよ。
ー…今にして思えばお前自身の態度とか振る舞いにも出てたかもしれないね。ずっと書いてた日記もやめて、ライブもMCしないでガンガン曲をやるし、ステージ上での発言も対話っていう感じではなく自分に言い聞かせてるみたいだった。
カワノ まぁライブ運びに関しては前のインタビューでも話したけどあれが結構俺の理想でもあるんだけどね笑 …でもあまりにも極端だったな、っていうのは今思えばある。一時間ノンストップで四人とも演奏と歌を止めないなんて、「ライブ」ってより「修行」みたいだったし笑 誰かと交流する気がなかったのかもしれないね。…うん、でも、そういうよろしくない状況の中でずっと書いてたのが「GOOD LUCK HUMAN」だったな。
ーでもそういう閉塞した状況下で書かれたとは思えないほど歌詞は素朴で真摯な愛情を歌ってる。
カワノ 俺自身辛かったんだろうな、って思う笑 2022年は俺も、身の回りの人も大いに苦しんでたり、世の中も暗くて、悲惨な事件や戦争もあって、ネットの世界じゃ醜い人間の姿がありありとしていて…俺自身、もうこの歳だから、めちゃくちゃ繊細な人間、ってわけでもないんだけどさ、それでもすごく傷ついてた。そういう時にヘイトを吐き出したり、俺の悲しみみたいなものを書いたり、って、今までだったらそうできたんだろうけど…それがもうね、できないくらいだった。
ーほう。
カワノ もうそんな元気もないし、経験上そんなことしても根本的な解決にならんな、と。で、今までできていたことができなくなって、俺自身も八方塞がりの状況で、どんどん鬱屈していって…最終的に俺が救いを求めたのが、あの歌の中に描かれてるような世界だったのかもしれないね。まぁ、結果論だけど、こういう曲ができたことで、そんな時期に少しでも意味が持たせられたら、って思うけどね。…良かったとは手放しに言えずとも。
ーうんうん。…俺はさ、あの曲って、展開が複雑だったり、頭からいきなりインプロぶち込んだりしてるから、曲としてのボリュームみたいなところにこれから絶対フォーカスが当たると思うんだけど…「GOOD LUCK HUMAN」は歌詞の曲だと思ってるんだよ。歌詞のさ…「暴力に憧れないで 悪意に魅力を感じないで」っていうところ…あれね、単純に言葉として捉えた時に、俺、「カワノ…」と笑 こう、感動しちゃって笑
カワノ ふふふ笑
ーお前はよく「音楽は感情表現だ!」って言うじゃん。極端な話、内省の極みとも。なんというか、自分を説明したり、自分の気持ちを主張したり、っていう意味もあると思うんだけど。でも、あの歌詞はそう言うものをやりながらも、すごく、鋭くハッとさせられたんだよ。図星をつかれたというか…。自己完結に終始してない。それがお前の曲の良さでもあるんだけどさ。…他の人間にも何か新しい気づきを起こさせるというか。
カワノ 内省…。そうだね…。…一概にはまとめられない難しい話だけどさ、やっぱり今の世の中っていろんなものがどんどん可視化されたりあばかれたりするし、SNSじゃあ手軽に24時間自分の人生をいつでも共有することができたりするでしょ。でもその分、距離感がバグってくる。他人とのボーダーが薄まって行ってると思ってて。…俺とお前はあくまで他人、って、一線を引いた上で誰かと関わるっていう認識は、どんどん薄くなってると思う。
ーはいはい。
カワノ まぁ偉そうなこと言ってるけど俺だってそうなんだよ。CRYAMYチームには日々無茶を要求して苦しめてるし、動けなくなったり、サボってる奴には怒り狂うし。外部に対しても、舐めたやつにはこれでもかと拒絶の意志でぶっ叩くようにしてるし、ソリの合わない連中には大人気なく怖い態度でおい返さないと我慢ならないし。…でも、これも変な話さ、俺がちゃんと他人とのボーダーを引けてない結果だと思ってるんだよ。自分と他人は違うと認めて接するだけの余裕や認知がなかったり、過剰に外部に期待を寄せすぎる弱さがあったり…。
ーなるほどね。
カワノ …もう最近は、だんだんマシにはなってきてるし、…自分のこともさ、バンドっていうのはある程度誰かとの共同作業だ、って、仕方ないけど思うようにしてるんだけど、一方で、俺の人生の当事者は俺しかいねぇ、誰にも舵は取らせねぇ、とも強く思ってる。…んだけど、やっぱりこう、どっかでね…自分と他人の境界を意識できなくなって…。
ー爆発する笑
カワノ そう笑 それは醜さだよね、俺の。…まぁ今のは俺のケース。で、さ、世の中を見渡してみると…そういうことじゃないかもしれないけど近いとこがあると思ってて…。ヘイトスピーチ、差別、SNSの誹謗中傷、注目を浴びるためにやる不謹慎な行為…。
ーなるほど。ざっくり、ヘイトスピーチや差別の類は当事者の意識の低さとか時代遅れとかって観点で、SNS周りの問題は顔が見えなかったり安全圏で石を投げられるからって観点で論じられることが多い気がするけど。
カワノ …そうだねぇ、それも間違っちゃいないけど…俺は、他人とのボーダーをうまく引けてない…他人を他人としてしっかり認識できてないからこそ起こること、っていう側面もあると思ってるかな。…もっとざっくりした言い方すると、単純に自分勝手になんもかんも考えすぎだし、自分の都合のいいようにしか物事を捉えられなかったり、無意識に捏造したり演出を働かせたりしすぎてる。…もうね、めちゃくちゃ単純な言い回しするとね、人が人を見てないんだよね。これは…多分これから時間が経つごとにもっと根の深い問題になるんじゃないか、って俺は思ってるけど。
ー…難しいね。
カワノ …俺も上手く説明できた気がしない笑 まぁでも…例えば…学校じゃさ、「自分がされたら嫌なことは相手にしないようにしましょう」なんて、道徳で習うわけじゃん。でも、俺それはちょっと違うと思ってて。そうやって自分の中だけで判断をするからこそ、都合よく物事を捉えたり、時に捏造したりしちゃう。そうなると、他人を操ったり、傷つけることに躊躇がなくなっていく、って。人間ってずる賢くて弱い生き物だから。あくまで他人と接するときは、他人である、別の人である、だからこそ想像も及ばない部分まで思考を巡らせて思いやらないと、すれ違うだけで人を刺してしまうことだってあるって思わなくちゃいけない。
ーなるほどね。
カワノ …ちょっと話ずれちゃったね。…まぁ、その、今の世界っていうのは、…さっき言ってたような人間の醜さみたいなものに直面することが多いじゃない。で、人に備わった良識や良心がそれを拒絶したり、逆にそれがあるからこそ傷ついたり。…一方で、そういうのはありつつも、どこかでそれに慣れていって、気がつけば自分もそういうものに染められていってしまう…。誰が悪いとか何が悪いとかではなくね…。
ーうんうん。
カワノ
(長考)
…そういう世界の醜さとか、変わってしまう自分とか、そういうのへの抗いとか、否定ではなくて、そこに傾きかけた場の空気や人間を引き止める一言でもあるし、…または、そういう風に既になってしまってる誰かを、責めるとか批判してくるわけでもなく、その状態に気づかせる…シンプルな言葉でそういう歌詞にしたいって思ってたんだけど…伝わるかな?
ーなんというか…そうはいってもさ、この歌は、他人を変えようとしてないんだよな。…結局選んだり決めるのは、歌を聴いている人間に委ねてるんだけど、この歌は気づきとか、キッカケとかを与えてくれる。…だから、素直に嬉しい…うん…感動したとか、泣けるとか、そういうのじゃなくてね、嬉しいって俺は思えたんだよね。
カワノ …でも一方で、俺としてはさ、結局出来上がったのは明確に今の世の中に対するカウンターのつもりで書いた歌詞、っていうのが正直なところかな。純粋な気持ちで書いたつもりではあるけど…隔たりはある。カウンター…っていうか、雑に言って、人間の醜さみたいなものに…対抗したり、苦しめられながらそっちにいかないように堪えてる人たちへ向けた、っていう。だからさっきの話で言うと、どちらかというと前者の捉え方に近くフォーカスしてるかも。
ー悪意や暴力に転じる前の段階の人、ってことか。
カワノ …前の段階、っていうか、絶対に転じないで…生涯を終えた人かな。…でも、今の世の中のままじゃ、そういう人たちは…心情的、人情的には正しい生き方だとされてほしいし、理想を言えば報われてほしいけど、おそらく敗者として歴史には残ると思ってる。シビアすぎるかもだけど、…まぁ最悪を想定して、ね。
ーうんうん。
カワノ まぁ…ただ、勝ち負けじゃなくて、俺の中の美醜を見る価値観としては、そうは転ばずに死ぬことは美しいと思うし…せめてさ、誰もそう思ってやらなかったとしたら、俺が思ってるし、絶対断言しよう、って。「醜さに走らなかったお前は絶対に間違っていない」って。誰かを最初から最後まで肯定する。…俺の涙はそういう風に使いたい。ボーダーを引いた上で、その線の向こうから。対岸から対岸の人へ、ね。…うん…それにしてやり方はスマートではないかもしれないけどね笑
ー…いいんじゃないの? お前、別にエンターテイナーでも宗教家でもないんだから笑 そんなにうまいことやるのなんか誰も求めてないよ笑
カワノ …まぁ、だよね!笑
ー…だし、お前は多分、そういう自分でいようともしてるし、そういう自分が好きなんだと思うしね。
カワノ …ええ、おっしゃる通りですわ笑
押し付けがましくないし、人を肯定するパワーがあるし、何より「Fuck」ってはいっててなんかロックだぜ、って笑
ー「FCKE」…「You Are Not Fucker」というかなり印象的なタイトルのシングルですが…ベタな質問ですけど、これはどういう?
カワノ 特に意味はない!
ー笑 まぁまぁ、そうおっしゃらずに、さ笑
カワノ ふふふ笑 いや、でもねぇ、本当に意味はないんだよね。なんかいーじゃないの!ってだけの言葉で。
ー初出は古いよね? 昔お前がインスタグラムで書いてた日記があったけど、そのユーザーIDが「fckcfcke」だったし。後ほら、お前の家の壁に「You Are Not Fucker」って書いた紙がベタッと貼ってたりさ。
カワノ まぁ、そうね…あの言葉は一種標語というか、スローガンというか…俺のそういうのなんですよ。意味はないと言いつつ。
ーうん。
カワノ でも本当に意味はないよ笑 あれはねぇ…遡ること、俺がまだギリ10代で、八王子市の山の麓にあるズタズタの木造アパートで冬の寒さに震えていた頃に遡る…。家の近くには蕎麦屋と丸源ラーメンがあり俺はそこで…。
ー笑 そういう芝居かかった感じで振り返るんだ笑
カワノ 笑 まぁ、その、当時の家にね、古い友人たちはよく出入りをしていたんだけどさ、もう…かなり破滅的な暮らしをしてたんだよね。
(過激な内容のため割愛)
ーひどい話笑
カワノ で、さ…ある日、頭のおかしくなった友達がねぇ、あの…夏目漱石のさ、「月が綺麗ですね」…。
ーあぁ、「I Love You」をどう日本語に訳すか、と。
カワノ そうそう。あのノリでさ、「愛してる」をさ、そのノリで、ちょっといい具合の英語に逆に訳してみるべ、と。なんかそれで盛り上がって…。それで、いくつか出した中で、「You Are Not Fucker」があったの。
ーへぇ。
カワノ 俺の中でさ、すごいいいな、って。日本語で、「お前はクソ野郎じゃねぇ!」って読める。押し付けがましくないし、人を肯定するパワーがあるし、何より「Fuck」ってはいっててなんかロックだぜ、って笑 でさ、それで「最高じゃん!いいぜ!」って盛り上がってたらね、あるやつがね、…俺の家、当時ね、スプレー缶があったんだけどさ、それアパートの壁にね、ラリっちゃってるから、「ウオォー!」って、ブワァーっ!って笑
ーははは笑 そんな無茶苦茶な笑
カワノ もうね、お酒いっぱい飲むとか、女引っ掛けるとか…そういう…ショボい大学生とかバンドマンの言う治安が悪い、とか、そんなのがお遊びみたいなレベルでおかしかったから、あいつらは笑 俺もブチギレよ、「このアパート仮にも賃貸だぞ!」っつって笑 髪の毛掴みあって殴り合い笑
ーお前が1番まともやな笑
カワノ そんな奴と四六時中遊んどったらそうなるわ笑 まぁ、楽しかったけどさ笑 で、翌朝、シラフに帰った我々はことの重大さに気づいて青ざめるんだけど笑 そしたら友達の一人が、「いや、でもカートコバーンもさ、「smells like teen spirit」って部屋に落書きされたらしいから! カワノもさ、いつかバンド組めたら、「You Are Not Fucker」って曲作って売れてくれよな!」って笑
ーはっはっはっ!笑
カワノ 退去費用死ぬほど取られたなぁ…みんな元気かな…。もうね、当時の仲間は二人くらいしか連絡取れないんだけどさ。
ーそうやって生まれた言葉だった、と。
カワノ うん。それをさ、変形して、「You」を「U」、「ARE」を…発音的に「R」、ってして、「Not」だから消す、みたいな。なんかそんな感じ。だから…別に意味とかはないんだ。これをIDにつかうとかも、バンド組んだし、これやろ、ってだけだったから。でも、言葉の響きとか、文字通りの意味とか、すげぇ気に入ってたのはあるけどね。…自分で言うのも何だけど、なんかこの言葉、まさしくCRYAMY…俺の書く音楽そのものっぽくない?
ーあぁ、わかるよ。さっきの話じゃないけどさ、誰かを肯定するとか、誰かの傷だらけの人生を歌って讃美するとか…そう言うの、すげぇ浮かぶし、お前っぽいっていうか、お前がやりたいことって感じするよ。
カワノ だからね、ここぞ、って時にとってたの、これ使うの笑 やっと出せましたわ、「You Are Not Fucker」。…俺の「ガラスのブルース」であり、「Reborn」であり、「ビューティフル」であり…何より、「smells like teen spirit」だからな、「世界」って曲は笑
ーにしては大衆性やポップさのかけらもねぇけどな笑
カワノ …まぁ、変なこと言うけど、この2曲が入ったシングルは、もう、名曲になる宿命を背負わされてる、って自分で思うぐらいだからさ。「FCKE」の名に恥じない、俺の理想そのものを閉じ込められた、っていうか。その情念は確実に伝わるし…CRYAMYというバンドは、すごく恵まれていることに、その情念を確実に人が拾ってきてくれたと思ってるから。それで構築できた素晴らしいフロアがある。その中でも、今作っていうのは俺の歴史上本当に重大な意味を持ってくれたし、持ってしまったしね。そういうものに、この「FCKE」って名前を授けられて、授けるに値する2曲があって…。
ーそうだね。繰り返すけど、これ、本当に名盤だと俺も思ってるから。
カワノ うん…とりあえず…このCDの売上であの時の退去費用は取り戻そっかな笑
ーはっはっはっ! 500円ぽっちで売るシングルじゃきついだろ笑
カワノ 馬鹿野郎!俺はこのシングルで一生食うからな!100万枚売る!生涯をかけて!夢の不労所得じゃ!
俺の歌の中に全てがあるぞ
ー再録された「世界」を聴いたけど、音が「#3」の時とは段違いにゴツくなってる。
カワノ うん。これはもう、全員の努力の結晶でしょうな。俺たち四人しかり、楽器テックしかり、録音しかり、ミックスしかりね。
ー新録バージョンでまず特筆するべきはこのインプロよ。これ、CDにまで完全収録するとは思ってなかった笑 あくまでライブアレンジだと思ってたし。
カワノ …長いよな!笑 俺、吉祥寺からバス乗ってこれ再生し始めたんだけど、家についてもまだ曲やってたからね笑
ー笑 こういうプログレ的な展開はいつ思いついたの?
カワノ これも2022年の冬から春にかけてかな。ワンマンツアーの時からはもうこのアレンジでやってた。
ーあぁ、そうか。キネマ倶楽部でのワンマンの時にはもうやってたもんね。
カワノ そうそう。何というか、この「世界」って曲の構成…1番最初のバージョンですらおかしな展開ではあると思うんだけどね。
ーそうだね。大まかに三段階に分けて展開がついてる。直線的なパンクのゾーン、ワルツのドリーミーなゾーン、最後に加速してノイズでぶっ潰すゾーン。
カワノ …そもそも最初はプログレとかサイケのイメージじゃなくって、ロックオペラを一曲でやろうとしてたんだよね。
ーあぁ、「American Idiot」的な。
カワノ そう。1曲で言ったら、「Welcome to the black parade」的な。古くはthe whoの「tommy」とかね。そういう、ロックオペラの系譜。ただ、最初のバージョンを作った2018年当時の俺たちの技量とか、アイディアとか発想的には上手くやれた感じがなくてね。結局三つの曲をつぎはぎにしたみたいな感じだなぁ、って実は思ってたんだ。上手く作り込めてないかんじというか。
ーそうだったんだ。
カワノ だから再録にあたっては、各パートの流れや継ぎ目をより流動的で自然に作り替えて、中盤にはより肉体的な表情とか迫力を求めてインプロぶち込んで、って、そういう風にしてあのバージョンが完成、って感じ。…まぁ、客観的に見たら…結局ロックオペラにはなりませんでしたな笑
ーははは笑
カワノ これ以上世界観を拡大しようと思って展開増やしたり、新しいパートを作ったりとかも考えたけど…この曲はこれ以上書き加える言葉はねぇな、と。指摘の通り、サイケとかプログレっぽいよね笑 …どっちかといえば「Zen Arcade」になっちまった笑 もう、ただひたすら疾走してノイジーでね笑 ワイパーズとか初期cloud nothings的なね笑
ーもうちょいアングラなね笑 まぁ…そうなるのがかえってお前らしいけどさ笑
カワノ まぁ、とはいえ、俺は気に入ってるんだけどね。ここはライブでは長さもフレーズもあえて考えてないし、指示も出してない。そのまんま思うままに永遠に弾き続けて、他3人もマイクに向かって絶叫してね…。PA卓でもオペがその場のテンションで声にエフェクトかけたり、ダブみたいに楽器隊の音をぐわんぐわんやったり…。俺もギターのアンシュミでノイズ出しまくってさ笑 外でその様子を聞いたことはないけど、俺が思ってるよりカオスな仕上がりではあるんじゃないかな。…まぁ、そうやって、メンバーもスタッフも含めて、一個の舞台を借りて全員好き勝手やってるのがなんかいいかんじだし…そういうのがむしろ、俺ららしいかな、とは思ってるよ。
ーそうだな。お前もよく言ってるけどさ、「このバンドは四人が一致団結してるんじゃなくて好き勝手やってるだけだ」って。
カワノ そうそう。それでいいし、この一見無駄で意味不明なパートは、まさしく我々の姿勢を象徴してるといいますかね。うん…意味があるとすれば、そういうかんじ。本能のままに好きにやってることで生まれる迫力、っつーね。…だし、ちょっと野暮な気がしないでもないけどさ…もっといえば、このパートはね、俺らがそうやってるんだから、フロアの人間にも好きにしてほしいと思ってる。し、言うしね。
ーほう。
カワノ …まぁ、ライブ中、みんなの好きにしてね、っていうのは常々言ってるんだけどさ。なんつーか…そもそもの話…俺がその、言葉の意味通り、好きにしてね、って言い続けてるのも変な話だよね、って笑 そりゃ、人目を気にしたりとか、変に自分の振る舞いを意識しちゃったりとか、もちろんそういうのはあるにせよ…そんなこと言うまでもなく許されてるべきだろ、って、こう、最近思ってね。
ーあぁ、なるほどね。わざわざステージ上のやつが…その、観客の自由な振る舞いに許可を出したりすること自体が違う、ってこと。
カワノ うん。そんなこと言わなくても、俺たちのフロア…ってかライブか…まあ、そこでは既にそれは許された状況であるべきで、あくまでその中で何をするかは彼らが選べばいい。しかも、例えば「好きにしろ!」って言って、みんなが単純に「うわーっ!」ってなることなんて想像してないのよ、俺は。究極、周りに合わせて無理に盛り上がってたやつが急に深刻に黙り込んだりとか、それもまた「いいね!そうだぜ!」ってなる笑 …別に俺は盛り上がってるから嬉しい、とか、反対に黙って聴いてるから真剣なんだ、とか、そういうふうにとらえたりはしないしさ。好きにやってるところを見るのが好きなの。
ーうんうん。
カワノ まぁ、そういうのを小難しく考えた結果…俺のすべきことは…そうではないしそこではないな、ってさ。もっと踏み込んで、その…自由とか本能のまま振る舞うみたいなものを…許すとか起こそうとするとか、こちらが相手を操る方法論じゃなくて…人々がフロアでありのままでいられるように目の前の人間を限界まで解放することだな、と。ありのままをそこで出せるようにしてやる、というか。許可されてアクションを起こす、みたいな宗教臭い一体感じゃなく、自分の欲求に素直になることが自然にできるような空間を作って、みんながみんな好き放題やる、っていうね。
ー解放。
カワノ そう、解放。解放とは、そこにいる人間全てが素直に全力で心を開くことができるようにする…。これはね、すごい難しいことだけどね、しかしあえてそれを目指さなくてはならない、と。…これは文章にすると多分、すげぇ微妙な話だから、伝わり切ってない気がするからライブの時に話しようかな笑
ーいや、でも伝わってるよ。お前がフロアに許可を与えたり煽ったりして熱狂とか感動とか、あるいは沈黙を生み出すんじゃなくて、お前がフロアの人間のことを…どうやるにせよ解放してやって、その結果それぞれが自分で思うように心が動いて、熱狂したり黙ったり、そういうことを実現したい、と。
カワノ そうそう。…まぁ、ここ数年はすごく難しい時代だったからね。現場の人間は、演者客問わず、「あれはするな」「これはいいよ」って、ロックの歴史じゃありえないぐらい誰かに自分をコントロールされることがあたり前に時間を過ごしてしまったし、それのせいで演者やフロアの人間すら周りの人間をコントロールするような発言や動きをするようになっていってしまったのも俺は見てきたし。「ルールが」とか、「マナーが」とか、ね。
ーうんうん。
カワノ 俺も難しいフロアには演者としても客としてもたくさん直面してきたし、自分で思うにせよ、誰かの反応を受けるにせよ、それを受けてそう言う現実に対して物申して発言することもあったけど…正直内心…いろんな事情を考えたらそうはいえないし、尊重はするけどさ、そう言うの全て抜きにしたら、ぶっちゃけ、個人の感情だと…ふふ笑 自分で色々言ってて、「馬鹿じゃねぇの」って思いながらね笑 アホくさ〜!って笑
ーはっはっはっ!笑
カワノ うふふ笑 …そりゃ時代の難しさはあったけど、本来のライブなんてさ、さっきの話を俺が理想とするなら、いろんなやつがいていろんなやつが思い思いに過ごすんだから、それぞれに正解不正解があっていいし、それが日によってどっちかに傾いたっていいわけよ。しゃーないじゃん、そんなの。横で歌われるのが嫌な奴もいれば、大人しく音楽聴いてるやつに「こいつ感動してる?」ってイライラする奴もいる。いろんなやつがいる。で、その上で100点のフロアだ、0点のフロアだ、って、人がそれぞれ思えばいい。それはそれぞれが誰も間違ってないし。一個の価値基準を美にする必要はない。誰もコントロールできないし、しようと思う奴はバカだろ笑 誰だお前は!やかましい!って思うね…それは、演者である俺も含めね。誰が偉いとかはないんだから。
ーうんうん。
カワノ …俺はこの間の吉祥寺の小箱でやったライブ(1/27に行われた吉祥寺Black & Blueでのライブ)は、数年ぶりにフロアが徹底的に荒れたから、流石に俺もお客さんが心配になって、普段は見たくもないんだけど、本当に久々にエゴサーチをしたんだよね。…見たかんじ、怪我したり嫌な思いをした人はいなかったようだけど、でも、SNSに書いてないだけでなにか心に抱えた人もいるかもしれない。こればかりは想像をするしかないけど、でもその想像は絶やさないようにしたいしね…。結局のところ、蓋を開けてみないと人間の心の動きは読めないし、どうなるかなんて操れないけど、最後の最後はどちらも尊重されるべきだ、って思ってるわけよ。それは起こりうるどんな結果に傾く可能性もあるからこそ、ね。傷ついたり転んだりするから誰かが助けてくれる、って言うのと同じで。
ーわかるよ。
カワノ …まぁ、そういう、難しい時代の中で、ことライブという現場で俺がずっと言ってきたことは「何が起こっても誰も悪くないし間違ってない」っつーことでさ。これだけは俺はブレないし、どっちにも傾いたりはしない、って絶対決めて臨んできたから。…流石にやばくなったら止めたりとか、冗談言って場を和ませたりとかはするけどさ。ただ、どっちかに加担すると、絶対にそれは俺の思う自由ではないし、不公平だし、それこそ俺が操ってることになるからね。…つーか、声がでかい方にただ漫然と動かされるのがまずダサいし、さっきの話じゃないけど、俺は…CRYAMYは、SNSにも出てこない、会場でも俺が客と会話するわけでもない、ただCD買ってライブ来て何か持って帰っていく、物言わぬ沈黙する人たちの言葉ではない大いなる支えでも生きてきた、って自覚があるから。…どっちも大事にしたいわけよ。
ーそれはずっと一貫してやってきたことだもんね。おそらくコロナの前もだろうし、コロナに入ってからはそういうことを特にいうようになったな、って印象がある。
カワノ うん。…まぁ、最初の話に戻るけどさ、「世界」のあのパートを持って、「じゃあ言葉ではなく態度で示せ!カワノ!」の解答としたい、と思ってますね。誰も君たちをコントロールしない、ただ開いてくれ、心を。…っていうね、そういう時間に。ここにはね、メロディがあるせいでそれをなぞったりそれに縛られたりする制約もなく、尺の決まったギターソロで次のことを考えさせられるでもなく、…ここには何にも用意していない分、何があってもいいし、何もかも開かれていい。…俺の「好きにしろ!」っていう言葉は、まぁ、そういう意味だし、このパートは、そういう意味。…ベラベラ喋ったから煩雑になったけどね。まぁ、いいよ、伝わらなくても。感じろ!後の結末はその日その日を迎えてみんとわからん!…エイドリアーン!(おもむろに叫ぶ)
ー笑 今日家だから油断してるな笑
カワノ 笑
ー…まあでも、ここまで喋っといて、そういう話すらもはや些細なことではあるんじゃねぇかな、って思うけどね。この「世界」って曲は…お前が古くに作った思い入れのある曲でもあり、お客さんにとっても既にアンセムだし。これに込められてるお前の思いが何より1番大事というか。
カワノ そうだなぁ。…これこそ「生命力」よ。本当に。…もう腐るほどライブでたくさんお話ししてきたからいいだろ、ってかんじだけどさ…とにかく、生きていくことだよ。そしてその人生は賛美されるべきであり、末長く続くべきだし…そうでないにせよ、その人生は望まれたものであるべきで、…仮にそのどれもがないのならば、俺の歌の中に全てがあるぞ、と。…うん、これですね。…〆ったんじゃない?話。
ーそうだな。
カワノ だってこれに尽きるもんね笑 あとはでかい声で歌ってやるから、聴きに来てよ、って、それだけ。
そのために生きてきましたから
ーそれじゃあ最後に東阪レコ発と、…ついにやってきたお前念願のフルキャパクアトロワンマン…リリースしてすぐだね。
カワノ そうだねぇ。レコ発に関しては突貫で動いたけど、…意外となんとかなるもんだね笑
ー東は下北沢daisybar、西は堺FANDANGO。どっちもホームだね。
カワノ うん。デイジーバーは言わずもがなだし…FANDANGOも欠かせない。どっちも主が加藤さんなんだけど笑
ーそうなんだ笑
カワノ いや、でもね、急きょ抑えてライブを切ることになったけど、この2箇所でやるのはすごく大きな意味があるよ。…俺の思う「THE ライブハウス」の姿をね、この日見せられたらいいな、って。
ーうんうん。
カワノ 良くさ、現場のバンドマンがいうじゃん、「取り戻していきましょう!」「失った時間をやり直しましょう!」的な。実際俺もね、最初の頃とかは「また一から仕切り直しや!」ぐらいのテンションだったし。ただ…今になって思えばね、全然違うこと考えてるかも。…最早ね、最初から失ってなかったし、むしろ得てきてしかいねぇな、って。
ーおぉ。
カワノ 確かに現実さ、ライブハウスには活気がなくなったし、割食った人もいただろうけど…別にさ、あの当時いた人間だったり、過ごした時間を失ったわけではないだろ、って思えるようになったんだよね。過去を振り返ったときに、人とはもう会えなくなっただけで、過ごした空間はもう戻らなくなっただけ。…まぁ、事実失ったとも取れるけど…あれが確かに存在していた時間は実際だし、思い出とか経験には生きてるわけだから。…捉え方だけど、失ってはいないんだよね、生きてるっすよ、俺の中に。
ーうんうん。
カワノ だし、むしろ、そりゃあみんな大変な中でバンドを頑張ってきたわけだけど、その、大変な時期にも経過した時間とか経験はあってさ…俺はここで得たものもでかいと思ってるし…いや、思いたいね。過去と比べてさ、今を軽視するのは絶対にやってはいけない。平等に重いし…むしろ今の方が重いんだから。だって、今のやばい俺らを見れてるのって、その、過去に得て今まで引っ張ってきた人間たちと、その大変な時期に得てきた人間たちだけなんだからさ。
ーそうだねぇ。
カワノ だから俺は…今は断言することができるようになった、もうね、これは声を大にして言いますけどねぇ…俺は何にも失ってないし、むしろ得てしかいない。多くを時間と経験の分だけ多く、重く引きずってきてるよ。
ー…よくいった!それは…これまでお前らを見てきた人間は嬉しいと思うよ。
カワノ …だし、さっき言ったさ、会えなくなった人たちも…もうそろそろ会えるだろ笑 「なんか最近様子おかしいらしいよ…」ってさ笑 風の噂でもなんでもいいからまたやってきて…。一度出会った以上は、また関わるもんだし…きっと俺たちは出会えるんだよ。そして、遠のいたように思えた空間も、…ぶっちゃけこっちも我慢の限界なんだから、見せてやるぜ!ってさ。
ー…ライブが楽しみだな笑 怪我だけはしないように笑
カワノ …いや、俺だけがするっしょ笑 …あ!これだけは大事なことだけど、お客さんは怪我とか無理はしないようにね。音もでかいし、具合も悪くなったらいけないから。マジでそれだけ。無理と怪我は俺の担当ってことで、ね笑
ー笑 ツアーファイナルは渋谷クアトロ。しかもフルキャパ。…ついに、ってかんじなんじゃない?
カワノ まさに。「クアトロワンマンで埋めたら一人前!」って、ずっと言われてきたからね。登竜門じゃねぇけど…ついにだね。もっと早く来る予定だったけど笑 やっとっすわ。コロナの前にやった最後のフルキャパライブが渋谷クアトロだったのもあるからさ。そういう思い入れもある。あれを転換点に何かが変わったのなら、またあそこを再び転換点とする、っていう。
ーあぁ、「世界」のライブ映像のやつか。
カワノ そう。それの後にすぐコロナの波が来てね。その後、仙台でのライブとタワレコ地下のインストアライブもあったけど、お客さんも困惑する中でのライブだったから。
ー…長かったな、そう考えると。
カワノ うん。本当にね…。それでも、なんとかみんなを食わせないといけないし、曲は出したかったしライブはやらなくちゃいけないから頑張って動いてきてね…。だから今回ようやくっていう思いもありつつ、…やっと来たぜ、って気持ちもありながら、初心に戻ってやる、ていう、そういう不思議な気持ちかも。
ーそっか。
カワノ そりゃ、外から見たらさ、デカイ会場でライブをやってたり、夏フェスにも出たり、って見えてただろうから、「それなりにうまくやってるんだろうな」って見えてたかもしれないけど…少なくとも俺の中じゃあれ、全然ノーカウントだから。全然、成し遂げてねぇの。人も制限して、ルールも設けて、人件費削ってギリギリで成り立たせて…って、コロナの期間に成し遂げたことなんて、俺は全然納得いってないし、…意味ないとまでは言わないけど、本来の姿を見せられてないと思ってるから。だから気持ち的には…そうだね、デイジーバーで初めてワンマンをやった時のままなんだよね、ことライブっていう現場においては。…だから本当にようやく、ですよ。なげぇルーキーイヤーだったわ笑 元々、デイジーのワンマン終わってから「次はクアトロワンマンだな!」って言ってたし。…そういう風に足踏みは食らったけど、その分積み重ねたモンが必ずデカいから。やばいの見せますよ。
ーよくぞ言った!人数制限のないクアトロとか、お前の気合いの入り方とか、今回でるシングルとか、色々込みですごいの見れそうだな笑
カワノ まぁ、もうそこは絶対に約束されてるんで。メンバー、音響チーム含め、すごい音出しますよ。耳栓はいる。耳栓したくなかったら気合い入れろ、って感じ。エイドリアーン!(再びおもむろに立ち上がる)
ー笑
カワノ …まぁ、ワンマンよろしく、って感じよ笑 本当に全員きて欲しいって思ってるしさ。…だし、そこですごいものが見せられるぜ、って証明はこれまでのライブで必ずしてきたから。CD買って、曲聴いて、楽しみにしててね、って。うん…そんだけ。後の大事なことは当日、ライブで言うからさ。
ーそっか。…じゃあ最後になるけど、お前らはこのCDと、レコ発と、ワンマンで世界を救えるか?
カワノ …勿論!そのために生きてきましたから。