OFFICIAL INTERVIEW #2

1.1st LP「#3」について
ーまずは1st LP「#3」発売おめでとうございます。初のアナログ作品になったね。
カワノ ええ、ありがとうございます…。…ふぅ…。(コーヒーを飲んで一服)
ー笑 めちゃくちゃ疲れてんじゃん笑
カワノ 昨日も夜中まで色々弄ってたからね…笑 耳くその溜まり方えぐいよ、俺。膿が汁になって固まってんじゃね?って感じ笑 歯も痛いしよ…。でもまぁ、色々ひと段落しましたよ。まだ色々あるけどさ…。で、今日は休んでたらふく寝て、昼ぐらいから町田でフラフラ遊びにいこっかなとか考えてたんだけど…ねぇ笑
ー俺が悪いみたいに言うなよ笑 LINEで「明日10時、お前んち迎えいくね!」って言ったじゃん笑 お前も、「わかりました!よろしくお願いします!」とか言ってさ笑
カワノ いやぁ、ほんとにねぇ、申し訳ないよ笑 そんな…全然意識なかった笑 …いや、でも、ウン…よかったです、無事完成して。
ーうん、俺も、ついにCRYAMYもLPリリースか、って感じ。しかも「#3」ってチョイスがいいな、って思ったよ。俺、なんだかんだあれが一番好きでさ。
カワノ そう言ってもらうこと多いんだよね。俺的には、あのCD、今聴くと「うわぁ、オボコいなぁ」って感じなんだけどさ。演奏もまとまってないし、音も良くも悪くも初のスタジオ音源!みたいな、あの、拙くって後一歩及ばない素朴さがあるし。良くも悪くもなんだろうけど。
ー当時を俺は知らないけど、リリースされたのは三年前の同じ時期なんだよね。
カワノ うん、そう。だから…まぁそりゃ、3年も経てばちょっとずつ変わっていくもんなんだろうけどさ。でも今聴くと恥ずかしいよね笑 演奏もそうだけど、声もなんか…今よりも若いっていうか…綺麗笑 まだこう、壊れてない、喉が笑 透き通ってて、少年の…いや、なんか、女の子みたいでさ…。
ー何言ってんだか…。でも、今ガラガラだもんな笑
カワノ 寝起きっていうのもあるけどね笑 …この間、「独唱」(先日リリースされたカワノの弾き語り集CD)の歌録音の時にさ…レベルを突っ込んでるわけでもないのに、マイクの音が歪むっていう笑 「高山さん(CRYAMYの作品を手がけるエンジニア)、これ、音量結構突っ込んでる?歪んじゃってるよね」って聞いたら、「いや、オーディオ的な歪みじゃなくて、お前の喉がもうすでにガラガラ鳴ってて、倍音でてディストーションしてる。ノイズみたいになって歪んでる」って言われて笑 波形とかやばくって、結構処理に苦しんだんだよね…。…まあ、喉は年々壊れていってるし、単純に年だね、年笑
ーまだ26だけどね笑 話戻ってLPについて聞きたいんだけど、これはいつ頃制作が決まったの?またお前の無茶振り?
カワノ ううん、これはね、実はマネージャー発案なんだ。会田さん(当時のCRYAMYスタッフ)と前から出したい、って話しててさ。俺も一時期死ぬほど集めてた時期あるぐらいには好きだし、「いずれ俺たちも出してぇなぁ」って言ってて。で、時期は忘れちゃったけど…「#4」リリースツアー終わったぐらいかな。ミーディングの時に、「冬ぐらいに出すか」って話になった。…うん、そんな感じ。結構ね、スタートは、ラフだね。
ーそうだったんだ。「#3」っていうチョイスもマネージャーさん?
カワノ だったと思う。そもそも、新曲をレコードで、って感じでもなかったんだよね。今年はマジで…作曲マシーンの俺史上1番の不作の年だったから、そもそも曲がない…まぁ、ソロは出したし、友達のトラック作ったり、名前出したり人に言ったり聞かせて無いだけで、作りまくってはいたからさ、ないことはないけど、CRYAMYに持っていかなかったから。それに…音響的な話になるけど、俺たちってレコード向きのバンドではない、っていうかさ。
ーほう。っていうのは?
カワノ うーん…今の俺のモードとは違うんだけど、当時の俺たち…まぁ、「red album」ぐらいまでかな…、うん、その辺りはね、とにかく音がデカい笑 CDの限界をせめてさ…たまにピークオーバーしてオーディオ的に歪んじゃっても構わないってぐらい音を突っ込むから、これをそっくりレコードにしたとしてもあんまり良くないんだよね。下手したら針跳びする。後は、レコードって、円盤の内側に行けば行くほど音圧が下がっていっちゃうし、音質も落ちてしまうからね。アルバムの後半にかけて曲がジャンクになっていく俺らには合わないというか笑 …「シングストリート」のセリフじゃないけど、バラードでアルバム締めるとか最悪だからね笑 …とか、さまざまございますけど、まぁ、一番は…CRYAMYというバンドのスタジオアルバムはCDで聴くこと前提の作りをしてるから、どうしてもそうなっちゃう。
ーなるほどね。
カワノ だから、この1st LPの音源も、実はレコード用にリマスターしてるし。テスト音源をもらって聞いたんだけど、すごくCDとは違った感じだし、実物が届いたらそれをレコードプレイヤーで聴くことでも全然違うと思うし。面白いよね。だから、さっきは「恥ずかしい」とか言ったけど、一方ですごく新鮮に俺も楽しんでるところあるかも。
ーいつも通り音にはこだわって作った、と。
カワノ いやいや、でもね、リマスター作業は…少なくとも既に出来上がった作品だから大幅に変えたりはしないし、作業的にはほとんどカッティングエンジニアさんに任せた感じだから、俺は何もしてないけどね笑 あくまで音の調整に終始してる。まぁ出来上がって届いたらまた次、レコード作る時に向けて色々出てくるとは思うけど。…CDとレコード、フォーマットが違うだけで全然変わってくるのは面白かったかな。ミックスを考える上でも勉強になったしね。
ーなるほどね。12インチで一枚?
カワノ うん。そうだね。
ー12インチってのもクソいいな。7インチじゃなくって12インチなのは個人的にアツい。レコードってさ、デカければデカいほど、よくない?
カワノ 笑 いやぁでもわかるっすよ笑
ーね、そうだよね!手に持った時の重厚感があるからいいんだよなぁ。
カワノ 音もね、12インチの方がいいから。…急に思い出したけど、あの、俺さ、Nirvanaの「smells like teen spirit」の12インチシングル持ってたの。UK版の、ちょっとレアなやつ。昔、お金ない時、どうにもならんくなって売っちゃったんだけど…。儲けが出たら、絶対見つけ出してあれを買い戻そう、って、今思った。12インチ繋がりで笑 まぁ後…古本とかレコードは売らない方がいいね、買い戻すのがすげぇ大変…。見つかんねぇの。
ー「#3」のあのジャケット、なんなの? カワノ作成でしょ?
カワノ うん。あれはね、昔の俺んちの蛍光灯を加工したやつなんだ笑 あの黒いぶつぶつは…中で死んだ虫の死骸笑
ー笑
カワノ でもなんか、月面っぽいでしょ? それもあって、採用、みたいな笑
ー一気にジャケットがでかい12インチで受け取るのが嫌になってくるな笑
2.「#3」の作曲と歌詞の制作
ー「#3」のさ、制作当時のことって語ったりしてるの? みんなの目につくところで。
カワノ あー…どうだったかな…確か、「音楽と人」でインタビューはしてもらった覚えがある。でもそれぐらいかも。そこでも詳しくは話をしなかった気がするし。…昔書いてた日記では色々書いてたかもしれない。
ーそっか。じゃあその辺聞いてみようかな。前お前がリリースに際して書いた文言から察するにしんどそうな感じではあったけど、どんな具合だったわけ?
カワノ いやぁ、忘れちゃてることも多いけど…あんまり思い出したくないくらいしんどかったね笑 いつも通り、俺は曲を歌詞から作るんだけど…まずそこが一番しんどかったかな。…実はあのCDの曲の中で最初に完成したのは「sonic pop」と「easily」なんだけどさ、そこら辺はまだマシだった。「#2」や「crybaby」となんとなく地続きなイメージで作れたから。…「月面旅行」と「世界」じゃないかな、キツかったのは。「世界」は大昔に俺が初めて作った歌詞をリライトして作ったんだけど。色々、大変だった記憶しかない。
ーそれは、どうして?
カワノ 歌詞がさ…なんつうかねぇ、初めてぐらいに、自分の意志とか魂っぽい領域に踏み込んだものになったからかなぁ。すげぇ漠然としてるけど…なんとなくわかる? 偉そうな言い方しないなら…適当じゃなくなった…ヤケクソではないんだよね、ちゃんとしてる。…真面目になり出した、なりすぎた?かな?
ーまぁなんとなくわかるな。確かに、それ以前の2作品と比べると、少しずつお前の観念とか哲学に触れるような言い回しが出てきたイメージが俺にはある。「月面旅行」は、俺の中で、「ディスタンス」みたいな吐き捨てるように率直でもなく、「物臭」みたいに一人称の、生活に根ざした視点でもなく、どっか客観性も持ちながら長い時間苦悩した結晶、って印象かな。
カワノ 大層に分析しすぎな感じもあるけど、まぁそんな感じ笑 なんとなく、俺がこれまで書いてきた歌詞とは方向性が、この作品をもって枝分かれした、って俺は思ってるかな。…枝分かれの仕方が、広がった、ってよりは、これまで漠然と、漫然と書いていたものを廃し始めた。かも。
ーあとね、これ多分、お客さんとか、お間の友達とか、同じようなことを言ってる人も多いとは思うんだけど、明らかに表現の仕方が…歌詞の言い回しが良くも悪くも「歌詞」らしく無くなったのかな、って。
カワノ はいはい。
ー歌詞らしくないっていうか、詩的じゃない。「#2」と「crybaby」はまだギリギリ詩っぽかったんだよ。でも、なんというか…この作品は、っていうか、この作品以降、かな、すごく、話し言葉や喋り口調に近い。お前とこうやって喋ってる地平でいることにすごく近いんだよね、音楽なのに。だから受け入れられなかったり、鼻で笑う奴はいると思うけど、刺さるやつにはすごく深く刺さる。し、それでも理解できないこともあるんだけどさ、俺は笑
カワノ ああ、そうかも。それは、この時から、実はものすごーく意識して作った。今もなんだけどさ、…この作品のテーマがあったとしたら、それは…決して誰かを否定するわけではないけど、作品作り…「作詞」になったらおしまいだ、って強烈に意識していた。うまいこと書いたり、詩的で文学的な表現したり、みたいな、そういう、テクニックとか知性でやっちゃうと、俺のメッセージっていうか、誰かに言いたいことや主張したいことが…他人をコントロールするような…「説得」や「啓蒙」の類、なんなら感動させよう、熱狂させようみたいな…「ポルノ」みたいになっちゃうし…嘘っぽくなる。
ーへぇ…そんなこと考えてたんだ。…そもそも、…言い方が難しいけど、たとえばそれは、意識的に使うワードのレベルを下げたり、ちょっと言い回しを低俗にしたり、飾らないで率直であることをわざと心がけてる、っていうのは逆に難しかったの?
カワノ いや!レベルを下げたとか、そういう話でもないんだよね。それはやってない。もしレベルが低いと感じるなら、それは俺の歌詞が下手なだけ笑 いい歌詞に対する追求心は常に持ってるつもりだしさ。及んでないだけじゃないかな。で、逆に難しい、っていうか、むしろ難しいんだよ。ある種、自分の理想実現を図ってる、って段階に差し掛かってる訳だからそりゃあむずかしかろう!って。
ーああ、なるほど。俺の言い方が良くなかったね。すまんすまん。
カワノ でもね、…そもそも、「作詞にしない」っていうあえて課してる選択がそもそも、俺の嫌ってるテクニック的な話じゃん。だから、矛盾!って俺も思っちゃう時あるし、悩んでたしね笑 だから、結構ナンセンスな領域の不毛なテーマな気もしてるんだけどさ笑
ーああ、確かに。
カワノ うん。だから、そもそも結構な矛盾を孕んではいる…けどまぁ、「だからなんだよ」ってやったし、今もやってる感じかな。…いや、矛盾でもねぇのか…、ん…?
(長考する)
ーははは笑 じゃあ、そもそもさ、なんでその…アンチテクニックな方向に歌詞を作るようになっていったの? この作品を作る前後できっかけがあったわけ?
カワノ …いや、ないんじゃない?笑 …ないと思う、俺が「そーしよっかな」ってなった、に尽きるんでは?
ー笑
カワノ いや、さぁ、人間の変化とか、そういうのにね、いつも劇的な出来事やきっかけ…何かがつきまとうわけではないじゃん、みんな。気がついたら考え方が変わっていったり、人となりの重心が移っていたり…。年とか、環境とか、経験とか、体調とか、ホルモンバランスとか、腸のコンディションとか笑 それに、…なんかあったとしても忘れちゃってるよ笑 だいぶ前のことだし。
ー適当だなぁ。さっき「歌詞の適当さを無くそうとした!」とか豪語してた癖に、いきなりバリバリ適当じゃん!笑
カワノ うるさいねぇ笑 久々にちょっとかっこいいこと言うけど、ロックバンドが責任感なんか持ったら終わりっしょ!笑 ほら、ノエルギャラガーもさ、「ロックバンドに人生を委ねるな!あいつらなんでも投げ出すから」(OASIS/Don’t look back in anger より)って歌ってますしね…。いざとなりゃ投げ出すぜ、俺も笑
ー…それでもそこに意味や理由を求めるのが君じゃないのか?
カワノ あー、あー、ダルい笑 最近いろんなことだるいから笑 そう言うのマジでだるくなってる。…もうここらでふざけとこうかなって笑
ーははは…。
カワノ 冗談笑 …まぁ、真面目に言うとね、そうね…強いて言うなら、…当時も語ったことではあるけど、「#3」のね、リリース直前ぐらいにデイジーバーで初めてのワンマンやってさ。…言語化むずいけど、あの、あの場と人たちが持ってきた変化、に尽きるかな。…そのフロアを裏切りたくなかったし、あの人たちをどうにかするのが大事だ、って思った。あの場にはいなくても、…当日これなかった奴らだったり、その当時出会っていなかった未来で出会った人たちだったりも含めて、あの人たちのような人たちのために歌が歌いたいと、当時強く、そう思ったんですよね。
ーうん。
カワノ あんなフロアには滅多に巡り合わない…ってぐらいだったわけよ。それはそれから時間をかけてきた今もそう。…これ以降の人生であんなものが後何回観れるか、わからないけど、でも少なくとも、俺の中の一個、スジではあるね、あそこに義理立てることが。…その義理の通し方があって…もちろん、歌詞や歌の内容はさ、さまざま、歌によって違っていたり、歌詞によって呼びかける言葉も違うけど、ただ、芯の部分はあって、…話散らかってきたな…笑
ーははは笑 笑いに逃げるなよ笑
カワノ 照れちゃってねぇ笑 …まぁ、歌詞の面で言うとその芯の部分と言うもののうちの一つがね…そこに対して歌っていくと決心をして、そこにいる人たちに対して歌うのであれば、さっきからずっと喋ってるように、俺の歌詞は「作詞」ではいけないのよね。…作詞じゃないならなんなんだろう、なんか名前あるか?ってのはないけど笑 …おしゃべり?日記?みたいな。
ーなるほどねぇ。じゃあさ、その、お前が歌っていこう!って言う人たちは、一体どんな人たち?
カワノ まぁそれも人それぞれだから、さ。フロアの人間を一言でまとめるのなんか最悪だよ。別に、めちゃくちゃ元気な奴もいれば、おしゃれで大人っぽい奴もいるし、器用でずるいやつもいる。逆にうつ病のやつとか、金なくてぎりぎりのやつとか、不器用で損するようなやつとか…ひょっとしたら俺のこと嫌いな奴も、逆に俺が好きじゃない奴もね。…何て言うんだろうね、特定の「どんな人」へ、って感じでもないのかなぁ。強いて言えば、そこに、目の前にいさえすれば「どんな人にも」だね。…あれですよ、あれ…。
(長考する)
…俺がみんなにとってどうありたいか、だわ。うん、これだ!俺がそこにいるみんなにとってどうあるか、歌うか、が大事なんだね、きっと。そう思うようになりました、そうなれるように頑張ります、って話。
ー…ちょっと待ってね、…わかるよ、わかるから…(長考)…わかりやすく言うと、「あの人たちに歌う!」っていう決心がまずあって、その決心に基づいての創作論があり、変化があり、…そしてそこで大事なのは、どんな人に向けて、って言うベクトルの話ではなく、あくまでお前自身がその人たちに向かってどうあるか、どう居続けるか、が大事だし、核心である、と。
カワノ 左様でございます! この時期から考え出したのはそういうこと! いやぁ、まとまったね笑
ーははは笑 では少しだけ話が前進したところで…。
カワノ 笑 いやぁ、行ったり来たり…すんませんね。
ーお前がもう少し器用に話ができればなぁ…。
カワノ いや、無理無理。俺、ライブ感重視だから笑
ー笑 …じゃあ、さ、その、お前がどう居続けたいのか、って言うのを聞かしてよ。
カワノ …あぁ、話ずれちゃうかもしれないけどさ、(長考する)…なんて言ったらいいか、今までわかんなかったことを…今思ったんだけどね、俺、ステージ上では、…俺この表現がずっと一番適切だと思ってるんだけど、「天使」でいたいんだよね。
ーでた、カワノの「天使論」。キネマクラブで「俺はステージの上では天使なんです!」って言ってたしね笑
カワノ ははは笑 みんな気に入ってるよね笑 でもマジでそうでさ。ステージに立つからには、フロアのすべての人間に対して、いろんなものをもたらさなくちゃいけない。癒しなのか、解放なのか、救いなのか…その求めてるものに全て答えるんだけど…それをするのは「スター」でもなく、「カリスマ」でもなく、「ヒーロー」でもなく、俺の中の世界で一番近いの、「天使」なんだよね。だから、「天使」。
ーわかる気がするよ。ニュアンスが難しいけど、お前がなりたい、果たしたい役割って、圧倒的にすごい何か、じゃなくて、そいつだけの絶対的な味方、なんじゃないか、って俺は思う。
カワノ うん、近い、近い…。で、そうであるために、そうするためには…逆に、力強くて、すごいものにはなっちゃいけない…無力でいたいんだろうね。うん…きっとそうだと思う。何も持たずに、よわっちくて、最後には負けてしまうような…そういうものへの憧れとか、そうでなくちゃ、っていう。
ー負けの美学?
カワノ というか、負けの側にあえて立ち続ける、的な? 「負ける」ていう結果に重きがあるような次元ではなくってですね…。そもそも、負ければ、死ねばなんでも上手くまとまるって話でもないし、…まぁぶっちゃけて言えばさ、CRYAMYなんてそもそも、負けてすらいねぇと思うのよ。周りのバンドに比べたらすごく恵まれてるさ。だって、ある程度は想像していた夢を叶えてきたと思ってるし…逆に、世話になった友達や先輩を見てもさ、…変な話だけど、望んだような成果をあげられなかった連中だってたくさんいて、さ。その意味では俺たちは…勝ち、とは言わないけど、ただ負けてもいない。
ーうん。
カワノ だから、そう言うのじゃなくって、なんだろう…わかるかな、2パターン、俺の中であって…1つは明らかに巨大で勝ち目のない戦に特攻する、って言うパンクっぽい思考と、もう1つが、…むずいなぁ、他者に何も振りかざさないし自分を守らない…無抵抗な感じ…裸で、傷を負い続ける…鍵が永遠にぶっ壊れて開いてる家、っていう…パンクの逆?…難しいけど、そんなん。それを、それが混在しているのを無力でいたい、って表現してる感じかな。歌詞の話に通じるとすれば、「作詞しない」なんてとてつもなく無力だし。うん…。
ーなるほど。無力である、ってよりは、無力になりにいってる、と。
カワノ うん。いまだにそうだけど、俺は魂の解放とか苦しみからの解脱…ちょっと大袈裟かなぁ笑 まぁ、そういうものに対して、「技術」とか「知性」とか、俺がやっちゃうの最悪だと思ってるんだ。獲得して、持っている力を振りかざして、導いてやってるようで。動物的、本能的であれ、とまではいかないけどさ。少なくとも俺の作品においては、の話ね。…角が立たないように補足しとくけど笑 少なくとも、俺はうまく使えないし、使いたくないからさ、そういうの…。だから、やんない。下手なことをわざわざ好き好んでやる必要ある?勉強も、一輪車も、鉄棒も、知り合いのいない飲み会もさ笑
ーははは笑
カワノ 最高のライブとか、最高のクラブとか、昔のレイヴの映像とか、あそこに映ってる人たち、突き詰めていくと、誰の意思も介在してない。人一人のただの「忘我」の境地で剥き出しで音楽に溺れてるじゃん。俺も好きだけど、ライブハウスでギターの音やリズムが気持ちよかったり、クラブのとにかくバスドラムやベースのローが効いて腹が揺れてるみたいな快感がある本能的な音楽はもちろん、fugaziやrage against the machineみたいな精神性やメッセージが強烈な音楽でもそうで。確かに、何か人の思いを汲む、っていうのはどこかで頭や神経を使う作業だけど、その集中の中でそれを受け取ったらあとは結局そのメッセージや主張に身を委ねたり噛み砕いて、我を忘れるほど没頭するっていう。…ああ、そう言えばさ、そういう状態も、一種の無力だよね。だって、その状態にある人は身を守ることや誰かを攻撃することをしないってことだから。個人で独立しきっている。
ーなるほどね。捉え方、独特だけど、確かに、そもそも何もかもを忘れて没頭するっていう行為が自分だけで完結するもので、他人は登場しないし…誰からも攻撃を受けないからこそたどり着ける…一種の安心だもんな。
カワノ そうそう! 音楽って人を癒したり安心させるものでもあるわけだからさ。だから、果たして…少なくとも歌詞において、自然にそうなるのではなくて、そう仕向けよう、仕組もうってして、見せかけの感じ…作為的に人を誘導したり、一体化させたり感動させたりうなづかせたり、みたいな、そういうことするような要素は排したいな、って。力を使って、…恣意的に誰かを無力にしてしまう…。そうしないためには、俺の側がまず無力にならなくちゃ、って。うん…俺自身、当時も、そして時間を経て今も、まだまだ思考が甘くて浅く表面で捉えてる感じあるんだけどさ。でもそう思ってる。
ー…今の一連の話を踏まえてなんだけど、カワノは結構さ、今の話とかもそうだけど、わざと自分の立ち位置を、ライブなり曲なり、…すごくわかりやすい場で言うとこういうところだったりで、過剰に…明確にすることで、人のことを躊躇なく突っぱねるし、明確に自分の正義に反するものは線引きして拒絶するし、そういうのがあるから浅く捉えると「尖ってる」「喧嘩っ早い」「とっつきにくい」って言われること多いと思うんだけど。
カワノ うん笑 俺すげぇ嫌なんだけどね笑 そう言われたり、思われるの笑 結構俺さ、優しいじゃん?おしゃべりも好きだし、人当たりもすげえいいし、茶目っ気もあるし。
ーまぁ…お前がどれだけ自己弁護をしようが…笑
カワノ ははは笑 冗談ですよ。いいんだ、別に。悪い人だと思われても。
ー口も悪いし態度も最悪だし笑 そうとは言い切れない部分が多すぎるし、それはどっちでもいいけど笑 …でもその実は…上手にできているかはさておいて笑 無力っていうか…シンプルに、ある一方の側に傾くっていうのを極端に嫌がってるだけなんだろうね、なんかにはむかってるっていうか。
カワノ うん、何かに食ってかかるとかはしてないつもりだけどね。こう見えて言いたいこと結構我慢してる方だしさ笑 …でも色々はっきりさせたらそりゃあ、対立とまではいかずとも、相容れない人は出てくるし、むしろ増えていくもんでしょうからね。それでいいと思ってますし。
ーうん。で、さ、俺が思うのがさ、お前、シンプルに全体主義が嫌いなんじゃないの?っていう。今の話を踏まえて、その、そう言う感じの自分にも他人にも向ける厳しさは。
カワノ ああ。…全体主義って、例えば、ヒトラーみたいなことでしょ?
ーそうそう。この場合、ヒトラーっていうか、利するための共同体はお前ら…バンドってことになるんだけど。なんか、わかりやすい一体感を拒んでるんじゃなくて、ある一個の絶対的なものにだけ利益とか得が生じるのを許せないんじゃない?カワノは、って俺はたまに感じる時があるね。
カワノ ああ、難しいねぇ。確かに俺は「みんなで一つになろうや!」とか宗教臭くって嫌だし、「俺に賛同しろ!チヤホヤしろ!」的なアイドルとかマッチョ文化みたいな扱いも嫌だし、「手を上げろ!」とか寒いし…悪いけど、「推し」みたいな、あの感じも好かん笑 なんか、人間同士の交流における過程とか面倒くさいあれこれをすっ飛ばした上で成り立ってる感じが嫌なんだよね。…もう、なんか、お互い近道しあってる感じ。煩わしいところをうまくサボってない?そういうの、って。漠然とした言い回しになるけど、互いに美味しい部分だけとって、それをよしとする空気もあるしさ。…話出たからあれだけど、たとえば、ヒトラーの演説なんかは…まぁ俺、チャップリンの映画…「独裁者」か、それでしかよく知らないんだけど…、そう言うものの最たるものの一例だと思うしね。あの人の演説の、自分の都合よく、人間を扇動したり一体化させるためのあの、システマティックな演説テクニック。
ーうんうん。
カワノ こう、信じてもらえないかもだけどねぇ、俺ライブでもここでも話とっ散らかるでしょ? これね、わざと。わざとやってますから。わざとなんですよ、ええ。
ー嘘つけ! 普通に話下手くそなだけだろ!
カワノ 笑 いや、でも半分マジだよ。さっきの作詞の…いったらルールを自分に課してるのと同じでさ、こう、何も言うこととか、具体的に考えないようにしてんの。一切。ステージ上でもギリギリまで悩んでることも、多いし。
ーああ、なるほどね。
カワノ いや、言いたいことはちゃんとあるんだよ、だけど、作文みたいにその文言を考えたくないわけよ。起承転結整えて、人が聞いたら何思うか想像して、って…。もう、さっきの話と同じでね…うまいことやろうってすると途端にダメなわけよね、そういうの。そりゃあ理路整然としてわかりやすく、何もかもがしっかり伝達するのがいいことなのかもしれないし、…少なくとも選挙とか、音楽で言うとさ、感動的で泣かせにきてるMCとか、ね、…否定はしないし、そういうのの演説とは本来そうであるべきだけど…。
ーお前のやってることはそうじゃないし、そうであるべきではない、と。
カワノ そうそう。まぁ、俺が思うに、俺らがやってるのは票や数集めではなくて、その逆…個人間で一対一で向き合うことですから。もっと言えば音楽が主体で、それに付随する形で俺のソウルがある、と。おまけだよ、おまけ。…で、俺の思うに、そういう場で行われる演説のようなものがあるとすれば、俺の演説はそのソウルをいかに深いところまで嘘なく出そうと努力できるか…という。
ー努力。
カワノ そう。努力。努力っていうのが大事。最後の結果はどうあれ、そこにいくまでの時間とか道のりの中では、感情や空気を仕組んだり、操ってはいけないんだよね。そして、結果として一人一人違う感じを抱いてしかるべしだし。だもんで、するべきは、その…あくまでその場ででっちあげる、っていう。…演説っていうか、もっと適当、おしゃべり…会話だよ、会話。交流、対話…その類。人間の面倒なこと。だから、そりゃあ意味不明化してもいいし、ワタワタしてもいいし、むしろして何が悪いんだ、と言う、ね。でもそうなるからこそ本物だと思うし…わけわからんくなってきたからもう終わっていい?
ーはっはっはっ!笑 いや、でもうっすらとはね、伝わってきたから笑
カワノ ああ、もう、それでいいよ笑 何もかも全てわかってもらいたいなんて、音楽も歌詞も言葉も、何事においても思ってないから笑 その、薄く伝わった何かでね、少しでも意味があればいいし…。あと、まぁ、そういう感じでやってるけど、…打率低いけど、たまにすげぇ、フロアと俺がはまる瞬間があってさ、そういう時は嬉しいんだよね、素直に笑 …もう、そういう、偶然の奇跡にかけていきたいと思っている次第であります笑
ーははは笑
カワノ …で、話戻しますけど…なんだっけ?
ー全体主義。
カワノ ああ、そうそう。…あの、ただ、難しいのがねぇ、俺がどれだけそう思っていようが、そうしないようにしようが、絶対その…全体主義っぽい感じっていうのは出るぜ、バンド。もうこれはしょうがないんだなぁって思ってる。もうこれは、言い切ってしまっていい、絶対に無理!
ーまぁたすぐに身も蓋もないことを笑
カワノ いや、でも本当にそうよ。例えば何か苦しみから逃れるためにライブハウスに来てる奴らでも、それぞれどうやって逃れようとしてるのか、違うと思うわけよ。単純にでかい音で踊りたいやつ、イケメンやかわい子ちゃんを見ていやされたいやつ、みんなで盛り上がりたいやつ、アーティストの主義主張を受け取って糧にするやつ…って。俺も日によってもアーティストによっても楽しみ方違うし。でも、演者…私といたしましてはね、どんな人でも自分の音楽が好きならそこにはラブで返したいし。でも…そうなってくると、それぞれにチューニングが合うっていうのは、曲ごとであったり演奏ごとであったり、努力して瞬間瞬間ではできるだろうけど全員一斉に合致することは無理でさ。となると、その、確実に無理な瞬間では、ある人とはその、交流って側面ではインスタントにならざるを得ないから…ライトな方に陥ってる。逆も然りで…逆パターンの言い回しむずいな、なんていえばいいんだろう?
ーああ、結局、それぞれに合わせるというか、お前がそれぞれと「合ってしまう」っていうことが、瞬間瞬間での全ての人との交流がうまくいってないことに近くって…それによってある意味もうすでに全体主義である、と?
カワノ あー、そうそう…うん…まぁ、そういうことなのかなぁ。…結局、無意識のうちにステージで、自分に容易に利する瞬間が作れてしまうのが良くないんだよな、っていうさ…。…すごい難しい話だからわかんなくなっちゃってるけど笑 少なくとも言えるのは、広く何もかもを扱った時、俺もいろんなものに対して嫌悪感や不正義を感じるけど、自分に当てはめたときに完璧な人間ではないな、ってこと。だから、努力してるよ。
ー…気づけば難しい話になっちゃってたね、すまんすまん。
カワノ いっつもこんな話してるしね笑 まぁ、ここまでの話を浅くライトに簡潔にまとめてさ、乱暴に結論出すなら、卑しい手段で自分の気持ちを伝えたくなかったし、虚飾なく率直に人と交流がしたかった…さらに踏み込めば、…全体主義とはまた違うけど、オーディエンスと演者の関係が…ロックとかパンクなんて、ペテンのシノギだ、っていうのも実際そうだし。騙すことで人の背中を押す、熱狂させる、っていう。でもね、間違ってはないけど、そのペテンが美しければ美しいほどいいから…うん…歌詞ねぇ、難しいけど、それを目指したって感じ。だからしんどかった。俺は結構、質や多様性はもちろん担保した上で、少なくとも曲を産む「量」や作業の「スピード」とか、そういうものに関しては俺はマジで天才だと思うし、曲を作るのに苦労したことないけど、作詞は、少なくとも作品レベルに持っていく気がないし、それ以前に俺は超凡人だからね…、楽じゃなかったね笑
ーははは笑 …面倒臭い話たくさんしたけど、色々わかったことも多かったよ。こういうの、知れるだけでも単純に嬉しい人いると思うし。
カワノ いやぁ、でも、別に知られなくてもいいんだよ笑 まずこんな長い文章読んでるやつなんてマジでごく一部だと思うし、音楽やってるやつのキャラや主張、内面なんて、はっきり言って大勢や大局においてはどうでもいいんだからさ。いい意味で期待してないの、その辺は。大事なのは、もっと単純な話で、曲で何を感じるか、ライブでどう感じるか、っすよ。…まぁ、強いて俺がこういうのを通じて望んでるとしたら、もうちょっと限定的な人たちへの…そうだね、ある人が俺たちとより深い交流を望んだ時のアンサーになればいいかな、って。こういうのは。…歌詞の話長くなっちゃったね笑 はい、どんどん次行こう!
3.「#3」制作当時のエピソード
ーお前が仕切るなよ笑 …バンドの演奏とか、アレンジとか、その辺りの思い出は?
カワノ うーん、その辺りもすでに朧げな記憶だけど、逆にいうと、この時期の制作ぐらいからかな…俺たちの空気やノリが、今のスタジオやライブ、練習の空気にちかくなっていったんじゃないかな。ある意味転換期、っていうか。だからこそ印象薄いっていうか。スタジオで俺が怒号を飛ばしまくったり途中で出ていったり、緊張感も日に日に増して行って、だんだんとメンバーとの関係が「友達」じゃなくなっていったのが「#3」製作中からかも。…まぁ元々そんなに仲良くなかったけどね笑 レイとも…大体壮絶にやりあう時って俺とレイなんだけど、ギターアレンジで揉めて、やった記憶がある。
ーへぇ。すげぇな、なんか初期って感じだ笑
カワノ 当時はなんとなく、俺もそうだし、周りも含めだけど、バンドやる以上一心同体!みたいな、そういう考えではあったのかもね。互いに無理に同じ方向を向こう、向かせようとして、挫折して、失敗して、開き直ったのか…不貞腐れたのか、ねぇ笑 でも、やっぱり四人それぞれ考えも向いてる方向も違うし…そこを統一するとさ、それこそさっきの話じゃねぇけどさ、作曲者のための…俺のための全体主義になるから。…今はね、俺たちは一個の肉体なんだ、って思ってるよ、うん。生物の肉体って、筋肉も内臓も脳みそも、それぞれ役割も動きも違うけど、摩訶不思議なバランスで人間って生きてるし。うん、そんな感じ。
ーなるほどねぇ。具体的には、レイくんとは何で揉めたの?
カワノ いやぁ、それがあんまり覚えてなくて笑 なんだったかなぁ…ギターアレンジで意見が食い違ったのは確かなんだけどさ…「そのフレーズダサいからやめて」とか、「そのエフェクト踏むなよ!」とか、言ったのかも。でもたまにあるんだよね。年に一回ぐらい。リズム隊二人は怒鳴られると不服そうに黙ってることが多いけど、彼は結構ガンガンやりあう笑
ーうわぁ、なんか、想像に難くないのがなぁ。お前、言い方きついんだよ。マジで態度と口が悪い。
カワノ いや、俺もさ、言いすぎたなぁって毎回反省するけど笑 だし、不思議なのが、それぐらいの感じだけど、俺がたまにヤケクソに走ったり、「もういいわ、はいはい!終了終了!」みたいな笑 そういう破滅的になった時に「お前、それは違うぞ」「一生後悔するぞ」って止めてくるのもレイなんだよね。俺を沈めたり、暴走を諌めるというか。
ーへぇ、意外。
カワノ 彼は結構周りに気を使うタイプだからね。バンドのメンバーの中間管理職っぽい感じ笑 だからストレス溜まってある瞬間に爆発する笑 多分バンドメンバーで脱退したり、失踪したり、やめたり、誰が一番早く死ぬか、ってなったら俺かあいつじゃない?
ー笑
カワノ まぁ、そういう感じで、色々ありながら紆余曲折を経て完成させたよ。確かに、当時の技術や知識の不足とかもあって、演奏は甘いし、アレンジも今思うと拙かったり騙し騙しでやってる感じはあるけど、うん…みんなよく頑張りました!って思うな。
ーそっか。俺は演奏の巧拙、って言うのはよくわからないから、単純に「いい曲だなぁ」って聴いちゃうんだけどね。
カワノ ああ、聴いてくれる人はそれでいいと思うし、素直に嬉しいですよ。演奏の上手い下手って、すごく重要だけど、すごく表面的にはわかりにくいものでもあるしさ。努力目標として、俺らの中には基準がシビアにはあるけど、まぁ…曲がよかったらいいんじゃない?ってね。それに、CDの作品って、あくまでその当時の記録、って意味合いも強いしさ。あくまで、当時鳴らされていた音の再現になれば、って。それに、演奏も年々、上手くなっていってるよ。…まあ、最初が酷すぎたから伸び代が人よりあったのはあるけどね笑
ーなるほどね笑 …この六曲の中で気に入ってる曲はあるの?強いて挙げるなら。
カワノ あー、俺は「easily」かな。昔たくさんやってた分、最近のライブではやんなくなっちゃったけど。なんか、アレンジやクオリティ、歌詞に納得!ってよりは、あれ確か、5分ぐらいで歌詞書き終えて、曲も二時間ぐらいでツルッとできたから、そういう意味で好き笑 俺を苦しめなかったから、あいつは笑
ー笑
カワノ いや、でも音楽的にもね、あれは俺らの曲の中でも数少ない、アコギ一本で成立する曲だと思ってんのよ。フォークっぽいメロディでさ。
ーへぇ、俺はお前の曲、全体的に歌だけでも聴けるぐらい強度が高いと覆ってるんだけど、本人的にはそんなことないんだ。
カワノ うん。あんまり歌を主軸に作ってるつもりは…昔の曲は特に、ないしね。結果的に他の三人のうち誰かが歌に寄り添ったアレンジをしてそういう完成系になった、って場合の曲もあるけど。だから、うん…結果論でどうなったか、ってよりは、俺が曲を作り出した原風景でどう思ってるか、ってのが大事なのかも。アコギで歌ってもストレス感じない、的な。
ーなるほどね。
カワノ まぁはっきり言ってあの曲、ピクシーズだよね笑 ベースのルート弾きで始まって笑
ー笑
カワノ ピクシーズで明るいパワーポップをやる、みたいな笑 うん、でも俺は「easily」かなぁ。変に俺の情念とか主張が強すぎない感じも、ストレスなく聴けるし歌える。
ーなるほどね笑
カワノ …ああ、あと、演奏的な意味で言うと、「プラネタリウム」も早かったな。スタジオで合わせて一回で演奏かたまった記憶がある。たかしこのベース以外。そこだけあいつが家で詰めてきたのかな、でも時間かけなかったイメージがあるよ。
ー意外だな。3拍子の曲ってあれが初めてだよね?難しそうだけど。
カワノ うん。ってかあれ以降ないし。「世界」をパンクオペラにしよう!ってなって、3拍子のパートを突っ込んだんだけど、そことリンクさせたくて、ね。あの歌詞はエイトビートでストレートに行きすぎるとよくなかったんだけど、3拍のリズムだったら…俺のイメージだけど、ちょっと言葉の距離が取れて…言葉の押し付けがましさがでないし、メロディつけてみたら、なんかちょっと可愛かったからさ笑 うまくまとまった感じあるなぁ。
ーあれが一番ポップだけどね、アルバムの中で。
カワノ ラストナンバーにしてはちとパンチにかけるな、って思うけどね笑 今の俺だったら最後に重いビートの曲ぶち込みたくなるけど笑 でもあの軽さがいいのかもね。頭でっかちなアルバムだからさ、「#3」は。
ーそうだね。それと、「#3」の曲はいまだにライブでもやってる曲が多いから、これがきっかけに聴き始める人がいるなら、ひとまずライブに足を運んでみてほしいなぁ、って俺は思うかな。
カワノ そうかもね。なんのかんの三枚目だけど、サウンドもアレンジ的にはシンプルすぎず、かといって過剰に変化球を投げている訳でもないから、ある意味一番王道だし、それもあってこのアルバムの曲はライブでは頻繁にやってるのかも。歌詞の意味でも、このアルバムは結構、別のどのアルバムの曲にもリンクする歌詞が揃ってるし。
ーうん。…後、なんかね、サブスクをやってないお前らの活動方針ならではだと思うんだけど、どのアルバムからお前らを聴き始めたか、でCRYAMYの印象、人それぞれバラバラなんじゃないかなって俺は思うんだよね。
カワノ というと?
ー大体その時の最新のアルバムを買うわけじゃん、新しく君達を聴き始めた人って。サブスクで一発当たってる、よく回ってる曲をまず聴きます!とかじゃなくて。
カワノ ああ、なるほど。はいはい。
ーまぁ、例えばさ、「YOUR SONG」から入った人たちからしたら「#3」はすごく直線的で王道に映るだろうし、「#4」から入った人たちはもっとお前らに比較的ポップな印象を抱いてる人が多いだろうから、「#3」は曲の尺が長くてコンパクトなポップソングが少ないなぁって思うかもしれない、とかさ。
カワノ ああ、そうかもねぇ。人によってはすんなり聴けないものもあったり、逆に遡ってハマるものもある。
ーうん。良くも悪くも一定の印象がない。みんなそれぞれのCRYAMY像があると思う。で、その中でも、どのアルバムにも通じる、今でも核にあるものが反映されてる6曲なんじゃないかな、って。「#3」は。
カワノ 俺としちゃあ少し複雑だけどな笑 やっぱりこう…繰り返しになるけどさ、これは当時の全力ではあったけど、今聞き返すと「カァーッ!惜しいぜ…」みたいな笑 こう、忸怩たる思いありますよ笑 10代の頃のさ、えぐい剃り込みと腰パンの自分の写真見た時のあの気持ちだよね。…違うか。
ーまぁ、なんとなく言わんとしてることは伝わるけど笑
カワノ 後、そうね、こういうのかも。昔の写真見せて、彼女に「可愛い〜!」って言われて絶妙に屈辱的な気持ちになる、あれよ、うん笑
ーわかったわかった笑
カワノ 笑 でも不思議なもんで、やっぱいまだに「#3が一番好きです!」ってお客さんも多かったりするんだよね。
ーそうなんだ。
カワノ うん。だからその…あの当時、すごく苦しかったけど、これを作ったことでつながっていられている人間も多くいるし、そういう意味では作った意味があったと思うし…何より、そうなったのはきっと、俺自身の念が目に見えるレベルで深く残せたからこそなのかな、って。そういう意味だと、作家としての俺は冥利に尽きると言いますか、ね。
ーそっか。
カワノ だからこそいまだに演奏してライブで育てていって、ブラッシュアップを重ねて、最新の曲たちとも並び立てるように、鍛えていってるとこもあるしね。うん…まぁ、決して過去が美化されるわけではないがね笑 今を更新するしかない。
4.雑談、そして、このタイミングでレコードを出す意味や今後のCRYAMYの音楽
ー…喋ったら体調戻ってきた?
カワノ うん笑 やっぱ頭回し出すとシャキッとするね。
ーははは笑 …まぁ頭も冴えてきたところで休憩するか。まだ30分ぐらいしか経ってないし、この調子で喋ってても疲れるだろ。
カワノ そうねぇ。…最近どう?
ー俺に聞くのかよ! どっちかといえば俺がお前に聞く方だろ! …で、そういうお前はどうなの?
カワノ いやぁ、地味に多忙だね。レコードやら曲作りやら何やら、毎週細かくライブや制作が入ってきてる。でも最近体力が落ちてきてる気がするから…徹夜とかはやめて、しっかり寝るようにしてるよ。無理矢理でも。最近、ジジイみたいになってきてさ…ほら、今日もコーヒー、ホットでしょ? 温かいものがいいのよね、僕。
ーははは笑 まだ早いけどなぁ…。本とか最近読んでる?
カワノ いや、活字は体力使うから最近はめっきり…。積んでるやつは、色々片付いたら一気に読もうかな、って感じ。いつになるやらですが…。漫画とかも読んでないなぁ。…映画は見てる、休憩がてらに。「Laundry」よかった…。後は「SILENCE」。実は、すごく影響受けてるんだ、俺。遠藤周作。
ー二つとも窪塚洋介出てるじゃん笑
カワノ 笑 …ああ、そうそう、レコードつながりでね、自分のも出すし、って、最近ようやく家でレコード聞けるようにしたんだよ。いやぁ、数年ぶりだよ、家にプレイヤーあるの。
ーあ、そうなんだ! いつもは店(カワノらの友人がやっている飲み屋)で聴くだけって言ってたけど、ついにか。
カワノ それもあるから、最近家で色々聴いてるなぁ。でも、久々に家でレコード聞くなんて、結構贅沢な感じするよ。内容どうこうって言うより、もう、「聴く」という行為がね笑 レコードって、スマホにデータ落として再生ボタン押して、って感じでもなくさ、自分で円盤出して、針落として、頭からずーっと聴いて、さ。こう、すごい久々だからなのか童心に帰らされる笑
ージジイだなぁ笑
カワノ うふふ笑 ありきたりなこと言うみたいだけど、いいよねぇ。…なんか、音楽ってもちろん中身は大事なんだけどさ、こういう、聴き方でもすごくこう、想起させられる感覚って全然違うからさ…。すげぇこう、そう言う意味でも俺にとってはいいリースになったなぁって…。…ビビるぐらいめっちゃ普通のこと言ってるけど大丈夫?
ーたまにはいいんじゃない? いっつも小難しいこと捏ねてるんだしさ笑
カワノ じゃあいいや笑
ーでも最近は色々便利になって、俺も出先とかだとスマホで音楽聞いちゃうことが多いな。実際、昔よりこだわらなくなってきたかもしれない。
カワノ ああ、それは確かにそうだ。俺も、家で聴くときはともかく、外だとスマホでぱぱっと選んで済ませちゃうこと多いな。…なんなら家でCD聴く時もさ、プレステ2でテレビで笑 怒られそうだな笑
ー笑 自分のバンドは色々こだわって作ってるくせに…。
カワノ そこに関してはあんまりそこをサボりたくないんだよね。サボるっていうか、無意味に作業したくなくってさ…。ある部分で、そこは適当です!ってなんか嫌じゃないですか。いくらストレートな曲だって、考えればいくらでもやることが見えてくるものだし。それでも及ばず、リリースのたびに反省するし。誰かの手元に届いたら好きに聴けばいいけど、作り手側はなるべく納得したクオリティまで俺たちは近づけて、聴く側が少しでも感動してくれれば…ってね。まぁ当たり前に、作る側はみんなやってるんだけどさ。で、聴く側はプレイステーションにCD突っ込んで聴くもよし…そこは適当でいいのよ笑
ー音質って部分だとそれぞれの作り手で違ったこだわりがみんなあるよなぁ。ビートルズとか、やっぱり今聴いても…。
カワノ すごい。ものすごくこだわってる。俺がやってることなんて全然、序の口なんだな、って。ポップな曲もあるけど、実験的なこともやってるし…かっこいいよね。
ー…こだわり、っていうと、カワノはやっぱり、フィジカル…音源をもので出すことにこれまでずっとこだわってきてるじゃん。それこそ結成当初からずっと。
カワノ そうですね。
ー色々理由があるのは知ってるけど、今回はCDじゃなくってレコードっていう、また別の形に残る形態でのリリースになるけど、レコードっていうフォーマットで出すのは正直意外だったんだよね。
カワノ まぁそうだよね。俺も、いずれは、って思ってたけど、意外と早かったな、って思ったし。…さっきも話したけど、俺のイメージ、レコードで音源を出すバンド、って感じでもないかなっていうのは、自分でも思ってたから。
ーうんうん。
カワノ 日本に限定した話かもしれないけど、最近のレコードブームで取り沙汰される音楽って、シティポップとか、そう言うおしゃれな…乱暴に括ったら暖かくてふわふわした音楽…って言うイメージがあったんだよね。レコードの温かい音質も相まって、なのかもしれないけど。で、俺たちは…そんなこともないじゃん。
ーまぁね。
カワノ うん。俺たち以外にもたとえば…そうね、じゃあ、ドオルタナとか、メロコアとか、バキバキのスクリーモみたいなバンドとかもね、正直レコードで聴くって言うイメージはない。…俺だけかもしれないけどね。まぁそれは、なんか、そのジャンルや世代のバンドを聴くときに俺がCDを行く使ってたから、って言うのもあるんだけどさ。
ーなるほど。自分の価値観と照らし合わせた時にCRYAMYはレコード的なバンドじゃないんじゃない?って思ったってことね。
カワノ そうそう。…え、そう言う意味で意外って思ったのかな、って感じてたんだけど、違う?
ーいや、俺はむしろCRYAMYのレコードもありだと思ってるよ。お前ら、お前が思ってるほど現代的じゃないから笑 ちょっと前時代的な、オーセンティックな音楽やってるよ、実は。だし、まぁシンプルにさ、好きなバンドって、CDでも聴くけど、レコードが出たらかっちゃうじゃん。お前もニルヴァーナのシングル買ってたり、俺も毛皮のマリーズのアナログは当時、限定で発売された時に買ったんだよね。うん、そんな感じ、だから、「バンドがレコードっぽくないなぁ」とかはなかったわ。
カワノ あら、そっか、失礼しました笑
ー俺が意外だったのは、どっちかっていうと、CDっていうフォーマットへの強いこだわりがあるのかな、って感じてたから、だったんだよね。「あっ、CD以外の方法でも出すんだ!」っていうさ。そう言う意外さ。
カワノ なぁるほどね〜。…いや、でもね、こう、微妙な違いだけどさ、「CDのみ」って形に強く固執してるわけではないんだよね。あくまで「モノでだす」っていう、そこには意義や理由っていうか、そういうのはあるけど…別に「CDでしか音源出しません!」みたいな感じではないね、うん…乱暴に言い切ってしまえば、モノとして存在してればいい、かな。それぞれ、フィジカルのCDもレコードも、カセットも、もしかしたらこれから未来的なフォーマット出てくるかもしれないけど、ものとして存在するものだったら、それぞれ良さや特徴があるし。
ーなるほど。
カワノ CDで出してきたのもさ、一枚目…一番最初に「#2」を作った頃って、俺、サブスクというものがあること自体知らなかったし、世の中的にも多分今ほど生活に関わるレベルで普及してなかったと思うんだけど…、ミュージックFMとか、違法視聴がすげぇ問題になってたぐらいだったからね。…で、当時、音楽を聴く手段として一番ポピュラーで王道で、みんなやってる誰にでも手軽な手段がCDだったんだよね。楽曲を作る上でも、レコードほど音響的な側面で制約もないし。
ーあぁ、確かに! ミュージックFM、懐かしいなぁ笑 最近見たり聴いたりしないけど、今はもうみんな、大体どの曲もサブスクで出ちゃうから廃れたんだろうね。
カワノ か、我々がおじさんになっただけで、若い子はまた新たな別のアプリを使ってるか、ね笑 後、プレスして実物を作るコストも単純に全然、レコードよりも安いし。まぁ、当時はよく考えずに、「CD出すっしょ!」ぐらいの感じだったけどね笑 けど、今となっては…制作する側の、だけど、たとえば、CDの音響的利点とかも分かってたりするしさ。ある意味俺たちの制作において考えること…音響、コスト、人に渡る時のあれこれ…そういうことの基準にはなってるかな。CDリリースって形が。
ーふーん。…これ、意地悪な質問だけどさ、仮にお前が5年遅く生まれてたら、多分同世代のバンドは、お前の言うその王道な手段っていうのがCDじゃなくてサブスク、っていうのが普通になってたと思うんだよね。もし5年遅く生まれてたら…ぶっちゃけサブスクやってた?
カワノ あぁ〜こいつは難しいねぇ! 「いや!フィジカルだけっす!」ってやってると思う、っていうのも、言い切れないかもね。…だって、その、俺のいうフィジカルの良さ、モノで音源を持つこだわり、っていう価値観もさ、自分で見出した、っていうよりも、周りにいた音楽好きな人たち…たとえば先輩がCDかしてくれたり、オーディオオタクが友達にいたり、彼女が部屋にレコード飾ってたり、親父がレコード大量に持ってたり、とかそう言うのが形成した物だからね。それに時代的にも、違法視聴とか、問題になってたけど、CD買うのってまだ当たり前だったから。結局環境とか大きな流行には左右されてんのよね、なんだかんだと。
ーうん。
カワノ だから生まれる時代がずれてたら、周りがサブスクで音楽を聴くことが当たり前の感じだったら、別に突っ張ってないでやってたんじゃない?すんなりと。逆におっさん連中に話聞くとさ、「CDが出た当時はあのキラキラ光るのが未来っぽくてアガったんだよね〜」とか言ってたし笑 「光るのなんか当たり前だろ!」って俺らはなるんだけどさ笑 そもそも、周りに音楽好きな人いなかったら、俺は多分、当時好きだったんだけど、湘南乃風とかGReeeeNばっか聴いてたと思うしな笑 まぁ、そんなもんだと思うよ。それぞれ、世代とか、環境とか、いろんな要因があって、その上でそれぞれやり方や美学がある、と。だから答えは…どちらとも言えない、かな笑 半端で悪いけどさ。
ーよくわかりました笑 あえて意地悪しようと思って聞いたし、挑発に乗って意地悪なこと言うかと思ってたんだけど、その辺はお前、やっぱりフラットに捉えてるのね。
カワノ うん、あくまで俺が好きにやらしてもらうぜ、ってやってること、こだわってるところがそこ、ってだけで。…説明や理由求められて、いちいち面倒臭い時もあるんだけどね笑 だから最近は「いや、やってない方がハードコアっぽくてカッコ良くない?」って言ってる笑 そしたら「あ、そうなんだ…」って…。
ー雑だなぁ笑
カワノ でも最近は、色々…音楽の聴かれ方、っていうのかな、そういうの、考えるねぇ。…ここ数年で音楽のメインストリームはサブスクに急激に移って行った訳だけど…今年入ってからかな、バンドマンとかレコード会社の人とはまた違うんだけどさ、音楽系の…スピーカーとか光学ドライブ(CDやDVDを再生する機器)とか、そういうの作ってる人たちと会話する機会があったんだけど…近いうちにCDやDVDを再生する機械がそもそも、なくなるかもしれねぇ、って言ってたんだよね。
ーえっ! そうなの!
カワノ こればっかりは俺らにはどうにもできんところだからさ、俺も「マジかよ!」って笑 そもそもさ、最近のパソコン、確かにCDドライブもう内蔵してないんだよね。
ー確かに…全部外付けだねぇ。俺のもついてないや。…俺、マックなんだけど、アップルだからついてないのかなぁ、とか呑気に考えてたんだけど笑
カワノ ははは笑 俺、使ってるパソコン古いから、知らなくってさ笑 で、車にも、もう最近のやつにはついてない、って。車も乗らないもんだからそれも知らなかったんだけど…すごいことになってるな、って。
ー車はねぇ、俺のも実はないんだよね。だから車ではサブスクからBluetoothで全部流しちゃってるよ。だからCRYAMYが車でかかることはないし…かけても…ねぇ。
カワノ ははは笑 前さ、有線で俺らの曲が流れてさ…。
ー「こんな辛気臭い曲、酒が不味くなる!流すな!」ってお前の友達、居酒屋で怒ってたもんね笑
カワノ マジでひどいよな笑 笑っちゃったけど笑 …でさぁ、極め付けは、CDをプレスする機械、あるんだけど…いつも使ってる工場の人が言ってたらしいんだけどね、もう、その、プレス機、今新しく生産されてないんだってさ。
ーああ、そこももうやばいことになってるんだ。
カワノ だから、CDプレスも、その機械完全にぶっ壊れたら終わり笑 …怖いよね。シンプルに作る数や人も減ってるみたいだしねぇ。
ーなんというか…マジで急激に変わっていってるんだな…。…なんかやだなぁ、どんどんいろんなものが置き換わっていくのを見るの…。
カワノ ちょっと俺も嫌だけどさ…日を置いて冷静に考えてみたら、まぁ、俺らが知らないだけで消えていったものってきっとたくさんあるし、仕方ないのかなぁ、ってのも思うんだよね…。
ーあぁ、でも、そうか。MDとか、8cmシングルとか、昔はあったけど気がつかないうちにないことになってたものって多いしなぁ。
カワノ 8cmシングル懐かしいな笑 俺、四歳の時、買ってもらったなぁ、仮面ライダークウガのオープニングテーマ笑 あれ、確か8cmシングルだった。…今も持ってるんだよね、ブルーハーツの古いシングル。カードリッジ入れないと聴けないやつね笑
ーそうそう笑 まぁ俺もリアルタイムではない…MDがギリギリかな。だから、まぁ、そういう風に音楽の聞かれ方も変わっていくんだろうね。本当に面倒な時代に始めちゃったな、バンド…笑
カワノ そりゃあまあ、しょうがないでしょうな。だって、逆を言えばリバイバルブーム…それこそレコードブームとかも、そもそも俺知らんかったし、そんなのやってくるとも思わなかったからさ笑 だから逆に、CDブームとか…来ないだろうな笑
ー笑
カワノ まぁ、CDって身もふたもないこと言うと、制約や制限がない分、データだからね。アナログと、いわゆるCDみたいなデータとしての音源との絶対的な差だよな。もちろん、物として面白いし、価値はあるけど…データで済んじゃうならそれこそネットでもいいじゃん、ってなってくるのも仕方ないのかな、って思うし…。
ーただ聴くことを目的とするなら、重視はされてないのかもな。
カワノ うん。…でもまぁ、本来音楽だから、聴くこと、聴かれることに本質的な意味があるもんだからね。別にそれは、ある一面では間違ってない意見だとも思うからさ。悪いことだとは思わないけどね。手段の違いってだけで。
ーそういう時代というか、音楽の聴かれ方の移り変わりはやっぱり、考える?
カワノ うん。俺たち、結構保守的なやつだと思われてるだろうしさ、振る舞いとかもこんな感じだから、何にも気にしてないようで、実は色々考えてるよ。
ーそっか。
カワノ 例えば、CDだけでずっとリリースしてると、シンプルに昔から、やっぱ言われるわけよ。「サブスクやらないの?」とか「やったほうがいいよ」とか。けど、色々理由があってやらずにここまできてさ。「面倒だなぁ説明」とか思うこともあるから色々はぐらかしてきてるけど笑 まぁでも、周りの人たちからしたら、理由とか俺のこだわりとか、そんなもんは知ったこっちゃないだろうし、俺は俺で押し付ける気もないからそれもよしとしてきたけど…どうなんだろう、ちょっとあり得そうで怖いんだけど笑 世の中的に、例えばね、数年後、「CDはもう再生できません!」的な、そういう事態に直面したら、普通に困るね笑
ー笑 それはもう、お前ら、終わりだからね笑
カワノ ねぇ笑 でもあり得ない話じゃないでしょ。そういう場合は流石に考えなくちゃ…とか、ね。だからそこは、のほほんと構えてるように見えるかもしれないけど、都度都度、もし何かが起こった時にすぐ動けるように、先のことを想像して、しっかり考えていかなくちゃね、って思ってるよ。…1番に悲しむのはきっとお客さんですから。急に聴けなくなっちゃった時に。
ーそうだね。それは音楽作る人だから…やはり一番に考えててほしい。俺も、お前の友達もさ、いろんな商売やってるけど、…まぁお前はちょっと違うけどさ、でも、広い意味で捉えるとみんな客商売じゃん。相手がいてこそ、っていうか。そこに対する気持ちは…やっぱ大事にしないとなぁ、って俺も思いました笑
カワノ なんで俺が説教垂れたみたいになってんだよ笑
ーははは笑 でも、そういう気持ちを忘れなければきっと何が起こっても大丈夫だよ。
カワノ うん。でも、ずっと言ってきた話だけど、便利なものはそれはそれとして素晴らしいけど、モノとして音楽が残る、っていうこともまた素晴らしいことだから。だからそこはずっと、どんなことになったとしても大事にしたいかな。だから、今回LPをリリースできるのも、最近のレコードブームで音楽を保有するっていう楽しみ方が開かれてきてることを考えると、そこにはちゃんと俺たちみたいな奴らの活路があるし、素直に仲間入りを果たしてリリースできることが嬉しい、って思う。…興味も湧いてるしね、もし俺たちがCDではなくてレコードを主体に据えた制作をやったらどうなるかな?とかさ。
ーへぇ!面白そうじゃん。
カワノ 変な話だけど、「#4」以降さ、これまでみたいにただデカくてジャンクな方向で攻めるんじゃなくて、めちゃくちゃ音のいい音源作ってやろう!みたいなマインドにもなってきてるし笑
ーようやくね笑
カワノ そう、ようやく笑 うん…だから、今作限り、とかじゃなくって、レコードっていうものはこれからも作っていこうと思ってる。俺たちのもう一個の道として、って意味でも、新しい体験をする、って意味でも、音楽的に向上する、って意味でも、ね。
5.リリースパーティーについて
ー…では話戻って…、リリースパーティは新宿LOFTとバーステージの二会場で開催か。思ってたよりも出てくれるアーティストも多いね!
カワノ ありがたいことにみんな即決してくれて助かりましたよ。お客さんは…このラインアップは困惑するだろうけどね笑 それも分かった上で、良い感じっしょ?
ーははは笑 そりゃあ意外なラインナップだもん笑 だって、これまで全然やったことない人たちばかりだよね?
カワノ ああ、そうだね。基本的に今回は一度もやったことなくて、かつ俺が好きな人たちを集めた、って感じ。…あぁ、でも、小林(小林私)くんだけ去年一度対バンしてるかな。去年出したCDのデザインをやってくれた松尾ってやつがいて、そいつがライブの企画を組むことになって、俺たちをよんで来れたんだけど、そこでね。かっこよかったから話しかけて、ライブの後、ちょっと仲良くなって、「またやりたいっす!」みたいな。だから、前々から「誘うよー」って言いながら機会がなくってさ…。バンドと弾き語りではなかなか機会もないと思って、なんでもありなこういう日になることだし、これを機に。
ーなるほどね。
カワノ 他の人たちは本当に初見だ。全然これまで関わりないね。でも、俺が掘って見つけてはまって…っていう感じでもないかも。…2年前ぐらいからさ、俺あんまり、邦楽聴かなくなっちゃったんだけどさ、今年入ってから「これじゃいかん!」と笑 意識的に聴くようにしてて。でもあんまりハマるのがなくてさ…。結局、YOASOBIばっか聴くっていう笑
ー笑 ぽくねぇ笑
カワノ ははは笑 で、これは詳しい人にいろんなおすすめの音楽教えてもらって聞いた方がいいなって、聞いたりしてたんだけど、その中でもこれは!っていうのを是非とも共演したいな、と声をかけた感じ。pavilionは金子さん(daisybarブッカー兼時速36kmマネージャー)から教えてもらって、前からかっこいいなぁって思ってたんだよね。すばらしかはw.o.d.のタクちゃん(Vo,Gt)と夜中長電話してる時に勧めてもらったり。khakiはドラムやってるなすよしってやつがいて、よく遊ぶんだけど、そいつが教えてくれた。
ーなるほどねぇ。
カワノ 嬉しいのがねぇ…サイサリ(PSYSALIA 人)は改名前から好きだったけど、改名してから出してる曲がとにかくかっこよくてさ。復活したタイミングで友達で「サグい」っつってすげぇ話題になったんだけど、俺にハマっちゃって、絶対共演したい!って。ダメ元でオファーしたら出てくれることになった。超嬉しい。まだ生でライブは見たことがないから、楽しみなんだよねぇ。
ーふーん。こうしてみると、全アーティスト毛色もジャンルも全く違うね。
カワノ うん。っていうか、あえてそうした感じもはっきり言ってある。どうしても普通に活動していくと、出てるライブハウスとか近いジャンルで繰り返し括られたり、誰かしらが都合よく用意した枠組みに入れられてそこで固められたりっていうのが最近って普通なんだけど…結構そういうの、うんざりしててさ笑
ー…あんまり角が立たない言い方で答えて欲しいんですけど、そうなんですね?笑
カワノ いや、別に怒ってないんだけどさ笑 なんと言いますかねぇ…でも一番は、俺が食傷気味になっちゃうんだよね。退屈でさ。人に勧められたり、イベントのオファーのメールとか見ても、「ああ、またこのバンドか…」みたいな…。そのバンドが嫌いとか、…まぁもちろん、ださいのや好かんのもあるけど笑 なんか…安易に枠で括ってるのが、客もイベンターも見えるじゃん。偉そうに「シーン」とか言ってまとめてくるあの、安っぽい感じ。いやだねぇ。
ーなるほど。
カワノ …っていうのとかさ…煩わしいのが…よくあるのよね。ライブじゃなくても、いきなり飲み会にやってきてさ、初対面のバンドの人たちと異常に繋げてこようとする人。バンドやったことあるやつはみんな絶対に覚えがあるだろうけど、「君たちとあのバンド、合うと思うんだよね!」「バンドは繋がりだから!先に生きてくるから!」とか言ってさ…。別に…仲良くなる時はお前みたいなのが居なくてもなってるよ…って。いちいち紹介するなよ…っつってさ。
ーあぁ…いるねぇ笑
カワノ そういうのに限ってダサい笑 あと…フェスとかイベントのバックヤードとか、友達のライブ見に行った後の楽屋とかで、レコード会社の人や売れてるバンドに挨拶させようとする謎の勢力。すげぇ酔っ払って話しかけてきて、偉そうにアドバイスのつもりなのかわからんけどさ、「打ち上げ出て仲良くなっておいた方がいいよ!写真撮ってSNSあげてもらったほうがいいよ!」とか「酒の力借りて対バン決めてこい!上に行け!」みたいな笑
ー謎の勢力笑
カワノ 交渉術の指南みたいな…さ。音楽じゃねぇじゃんそんなの!って笑 勝手にやってればいいけど、だっさいなぁって。あと、たまにライブ後、外ウロウロしてると話しかけてくる人にも、大して好きでもないバンドとさ、「○○さんと繋がってツーマンしてください!」「○○さんと仲良くしてください!仲良くなってください!」とか…。客までこうか、と。…これが一番きつい笑 悪気ないから笑
ー色々大変なんだなお前も…。
カワノ まぁ、僕ももう良い年ですから…どれもただただニコニコしてかわすけどね笑 でも正直…指図されて構築する人間関係なんか、気持ち悪りぃじゃん。あの感じよ、ホラ…小学校ぐらいの時おったろ、仕切り屋の、「クラスみんな仲良くしてください!」みたいな、「無意味な責任感」を振りかざす女子…ああ、あいつ、名前忘れたけど、思い出しただけで腹立ってきたわ。
ーくくく笑
カワノ 良かれと思ってなのか知らないけど…なんか、自分の気持ちよさとかお楽しみのために人を操るのマジで躊躇ねぇな、って思っちゃうんだよね。「なんで俺がお前の理想のお人形遊びに付き合わなきゃいけないんだ?」ってさ。「今からリカちゃん人形でも買いにいくか?」っつって笑 …なんか、そういうのの、デカいバージョンみたいなのが…構造的にも生じてるのがいやだ。まぁでも、音楽業界、そういうもんだから、しょうがないね。
ーこわいこわい笑 …カリカリしてきたからやめます?この話笑
カワノ ふふふ笑 まぁそういうのがあったかな。でもさぁ、好きにやれば良いけど…でも、俺はそこに全面的に巻き込まれる筋合いはない。別にそこにやらしく組み合わせを合わせて俺ら主導でそういうライブをやる意味もわからないし、逆に俺が周りからそれを強いられるのも変な話だろ? シンプルにさ…繋がったり、関わったり、…理由はさ、「いいやつだから」「音楽が好きだから」って、色々あるけど、人間の交流は、俺は自分で選ぶよ、っていう…今回のライブはそういうちょっとした意思表示でもあるのかな、ってさ。もう一回言うけど、俺は誰のお人形でもないんだから。
ーなるほどね。
カワノ まぁ、この日に限らず、今年のライブは特にだけど、やりたい人とやる!っていうのはまぁそうだけど、そこだけじゃなくてさ、いろんなジャンル…誘ってもらったら下も上もいろんな世代の人たちと分け隔てなくライブをしましょう、いろんなとこ行ってみましょう、っていうのはやってみましょう、って、そういう感じで動いた年ではあったかも。楽しかったよ。
ー確かに。お前らの今年のライブスケジュール振り返ってみると、出てるイベント結構趣旨も内容もバラバラだね…。ハッキリ言って意外な組み合わせめちゃくちゃ多くない? もちろん、近しい関係の人たちともやってはいるけど、それ以外…いわゆるギターロックの年下の若い子たちともやってるし、8ottoみたいなどオルタナもあれば、鋭児のようなミクスチャーもいて、KOTORIやa flood of circleみたいな格上とも2マンで当たってるし。会場もさまざま…。本数もそこそこ多いけど、なんかすごいな笑
カワノ うん。そういうので揉まれてみてさ、「ああ、音楽って自由だな」って思ったんだよね。何やってもいいし、何が好きな人でもいいな、って。…だし、初めましてのお客さんも、共演したバンドの人もなんだけどさ、意外とそういうところでも、噛み合わないこともあったかもしれないけど、初めましての人たちに確かに受け入れられる瞬間があったりとか。おもしれぇな、って。もちろん時速と回ったツアーとか、友達と結託して何かをやるっていうのも超楽しかったけどね。そういうの以外の場所で感じたことも今年は多かった。
ーなるほどね。
カワノ そういうわけで、色々いい経験にはなったと思うわけよ。意外な組み合わせだからこそ、フロアの感じも日によって全然違うしさ。…で、そういうのの面白さがあったから、今回のリリースパーティーはこういう日になったわけよ。この一年を再現するわけではないけどさ、ジャンルもタイプも年齢もバラバラで集めたらおもしろいかな、って。俺も楽しみだし。…めっちゃ普通なこと言うけど、来る人も、最近はライブハウスで遭遇した知らないバンドにハマるとか、あんまり聞かないけどさ、そういうのもあるといいよね。
ーなるほどね。俺らも、ふらっと立ち寄ったライブで全然知らないバンドやアーティストに出会って好きになる、ってこと、多かったしね。ああいうことだよな。
カワノ そうだねぇ。そういうのって、例えば友達から「これ超良いよ!」ってサブスクのリンクを送られてきて聴くよりも深く記憶に残るっていうか…。ライブハウスでも、クラブでも、その場で遭遇した印象って耳でただ聞いただけより強いし、大事だよ。でも…そういう意味だと、本当はDJとかも入れたかったんだよ笑 好きな曲ガンガン流させて笑 「なにこの曲、めっちゃいい!」みたいな、さ。で、DJも、マジでもう、一度もそういうのやったことないような奴らに無理やりやらせる感じで笑
ーははは笑
カワノ 流石に今回は2会場で転換リハだから厳しいと思ってやんなかったけどさ。…まぁいずれ、ライブじゃなくってシンプルなDJイベントはやってみたい、シンプルに好きな曲、爆音でかけたいじゃない?笑 チャゲアス、でかい音でライブハウスで聴きたいわ笑
ーまぁ、なんでもやればいいよ笑 自由に動いてるのはいつものことだからさ笑 …音楽だけじゃなくてパン屋さんの出店もあるんだね。
カワノ そう。「シンボパン」さんに来ていただきますね。昔から良くしてもらっててさ。
ーこちらはどうやって出会ったの?
カワノ 昔働いてたバイト先かな。健太郎さん(analogfishのBa,Vo)が紹介してくれたんですよ。…健太郎さんはそもそも、10代の頃からの知り合いでね。バンドマンとしての知り合いっていうのじゃなく、俺のバイト先に遊びに来てた街の優しいおじさん、みたいな笑 もちろん俺は「うわ…analogfishだ!本物だ!」って思ってたけどね笑 で、健太郎さんがシンボパンで働いてたり、の縁もありまして。で、一緒にお酒飲んで、仲良くなって…。会うたびすごいよくしていただいてですね…。
ーへぇ。
カワノ 当時、生活苦の僕を気遣ってねぇ…。本当に金がない時だったんだけど、お店のパンをバイト後の僕のためにいくつも持ってきていただいたことがあって。その、もらったパン齧って飢えを凌いだ日もあったんだよな。懐かしい。
ーめちゃくちゃお世話になってんじゃん笑
カワノ 笑 だもんで、まぁ、いずれバンドで何か一緒にできたら、ってずっと思ってたからさ、こういうカオスな1日が作れたわけだから、是非ともお力添えいただけませんか?ってお願いして快諾していただいた、って感じ。
ー面白いねぇ。でもお前らが仕切ってこういういろんな人を集めるイベントやるのってなんか新鮮だな。印象…っつーか事実だけどさ笑 お前らって昔からマスへのアプローチや縦横のつながりを無視して、…なおかつ、人とあまりつながらないで「俺たちは好きにやらしてもらうよ」って、良くも悪くも孤立して動いてるイメージだったからさ。
カワノ いや、まぁそこは相変わらず、今後もそうだと思うよ。まず、このイベントも「そういう気分だったから試しにやってみた」に尽きるしさ。…もちろん、俺たちはこの日にライブで表現したいものはあるけど、それはどの人もお互いさまだから。イベントそのものを仕切る、ってよりはただフラットに力添えしてもらって、ただライブを見に、見せに集まってもらうって感覚が近い。捉え方としては…俺らを中心に、ってよりは、俺らがきっかけになっていろんな方向に進んでいけるよ、っていうイベントになればいいかな、って。
ーああ、なるほどね。
カワノ 本来こういうたくさんの演者が入り乱れるイベントって、画一的なラインナップで過剰にエンタメ化するより、発見とか驚きが一番にある方が、俺はそっちの方が楽しんでもらえる気はするしね。それに、いつもどのイベントもそう思ってるけど、ライブは、いろんな人がいようが、音を出せば30分だろうが2時間だろうが「俺らのライブ」って思ってるし。それに、ほら、それこそ俺が仕切ってる感じが出ちゃうとさ、全体主義っぽくなるだろ?
ーああ、なるほどね。…今日、良く出るね、全体主義笑
カワノ 俺良くわかってないけどね笑 イメージで語ってる笑 …で、まぁ、そういうのもあって、今回は、時速とかSuUとか、仲の良い友達とか、培ってきた人間関係で固めるとかさ…言い方悪いけど、おともだち采配はなし、っていう形にした。「仕切って集める」って意味だとそっちの方がぶっちゃけ楽なんだけどさ、どうしても俺の狭い交友関係で回すと、内輪ノリの空気出ちゃうし。
ーそうだねぇ。さっきも出たような驚きとか発見はないか。
カワノ それに、親しい友達や近いジャンルの人間を今回は集めなかった、そこの外に目を向けてみたっていうのは…対バンの幅を広げるとか、シーンを作るとか、そういういやな意味でもなく、かといって友人を突っぱねるわけでもなくてね…、どちらかといえば、そうだねぇ…さっきの話にも繋がってくるけど、これは、これからは誰かの用意したものじゃなくて、俺は俺が選んだ人間関係でやるんだ、これからやってくんだ、自分で選んだ新しい仲間作っていくんだ、っていう意思表示っていうのもやっぱ、あるからね。
ーほう。
カワノ さっきの話じゃないけどさ、やっぱりどうしても、ここまでバンドを続けてるとさ…すごいこう…バンドの世界…に限らずだとも思うけど…まぁ、ともかくさ、人間関係のいやな感じ…まぁ、そうね…例えば…腹の黒いところを隠しあって利用し合うとか、具合よく立ち回るために売れてる人やビジネスみたいな人に媚び諂うとか、下げたくもない頭を下げさせられるとか、人間関係も武器にしちゃうとか…そういうの躊躇ないやつ本当に多いし、そうやって変わってしまったから疎遠になった友人もいるし...むしろそれが普通みたいな…さ。…中にはさ、ひどいと、友達だったやつも利用するとか、平気で手のひら返して裏切るとか、自分が有利になるように嘘つくとか…いたからねぇ。ここ数年、すげぇそういうの、嫌だなぁって出来事が多くってさ。…まぁ、はっきりいうと、仮に俺が無自覚にある「シーン」みたいなのに組み込まれてたとして、そのシーンがもうとにかく嫌になっちゃんだよね。一刻も早く離れたかった。
ー…まぁこれは日頃からお前が言ってるし、ヒデアキ君(時速36kmドラマー)も言ってたけど…そもそも別に、下北の街にも馴染めなかったわけでしょ?笑 友達にすらボロクソに言われてたし笑
カワノ ふふふ笑 …まぁ、どこにも属せないだけならまだ良いんだけどさ…メジャーもインディーも一緒くたで広そうに見えてすごく狭い世界だから…ある種サラリーマン的な、って言っていいのかわからないけど…おべっかや打算、くだらん人間の駆け引きとか、そこでうまくやることを強制されるわけよね。そういうのに結構…疲れちゃってね。みんなやるんだ、おれとおなじくらいとか少し下の世代のやつ。
ーそうだねぇ。お前に限らずだし…バンド関係に限らず…トラックメイカー、ボーカロイド、アイドルのプロデューサー、職業作家…いろんなやついるけど、俺たちの周りの奴らもすごく苦しめられてる空気ではあるかもね。俺たちの周りにはいろんな奴、ジャンル、活動拠点の奴らがいるけど、ある奴は周囲にチューニングを合わせる苦しみもあるし、ある奴はお前みたいに全部無視してストレスを受け続けることに歯向かうカロリーもあるし…。
カワノ そうだね。
ー…でも、苦汁は舐めてはいるけど、みんなさ、そもそもの、そういう変な構造への憤りは、共通して抱えてるところではあるか。
カワノ ひねくれ者の集まりだからなぁ、俺たちは笑 まぁ、もちろん、そういうよくない空気のものっていうのも、すごく一部の限られた世界ではあると思うけどね。しかも器用な奴は上手くやれちゃうだろうけど。でも、その狭いところで、俺も足を引っ掛けられたり、友達っぽいやつにハメられて「しまった、やられた!」ってことめちゃくちゃあったし。俺らの仲間もそうだしさ、…そうじゃない直接の知り合いに限らず、音楽に一切の関係のないくだらないことで病んだり、傷ついたり、無駄なパワー使ったり…ああいうのはもう、絶対、よくないから。俺もだし、周りの奴らもだし。…別にそういう構造にはむかったり、攻撃を加えたり、そういうのはやらなくても良いからさ、誰からも指図されずに、自分で取るも捨てるも好きなように選べて、…好きに生きられるように…って思うかな。
ーうん。
カワノ …人間関係とか、人との繋がりとか、そういうのってさ、すごくこう、数字とか括りとかでみられがちだけど、本来はそれを構成してる一個一個、全員が孤独で、一人で立ってることが前提にあって、その上で成り立つものだと思ってるから。…でも最近は楽しいよ。本当に居心地の良い人たちと過ごせてる時間が多いし、変な話…音楽でさ、みんなともいろんなことがやれたら面白そうだなって思う笑 せっかくインディーレーベル作ったわけだしね。自由にさ。
ーははは笑 っていうけど、毎日忙しそうだけどな笑
カワノ 今は余裕ないけどさ。…まぁ、喋ってていろんなこと浮かんできちゃったから大仰に語っちゃいましたけど…ひとまずこのイベントは、レコードのレコ発だし、何より忘年会っすから。純粋に良いな、っていう人らを集めてやるっていうのが一番で、別にこのイベントだけで一石投じた気になるつもりはないけど、…まぁ、でも一方で、俺はさ、リリースもそうだし、ライブもそうだけど、このバンドのあらゆること…伝わってるかどうかはわからないけど、絶対に意味のない、ノリだけのことはやらないっていうのはお客さんも友達もみんな、わかってる奴にはわかってると思うしさ。
ーそこは君のお得意のペラ回しでこの日も伝えてさ…いやぁ、この日も30分押すかねぇ?笑
カワノ 馬鹿かお前笑 出番最後だからそんなにやっちゃったらライブハウスの音出し終わっちゃうよ笑 …まぁ、今後これを発展させたような、いろんなバンドに集まってもらうライブをまたいつかやるのかどうかは、まぁまぁやるだけで大変だったし、正直全然考えてないから全くわからないけど…とりあえず、なんにせよ最初の1回目だから、こういうイベントにしたかったんだよね。
ーそっか。いや、でも…いいイベントだと思うし、全貌が見えたところで、改めて楽しめる人、多いんじゃないかな。
カワノ だといいね。うん…何よりも、まずは来る人は全員、余計なこと考えずに、自分の楽しみ方で楽しんで、自分のノリで動いて、自分の気持ちに正直にライブを見てくれればいいよ、誰がどうとか考えずにね。流石にまだフルキャパではないけど、ライブハウスが、今年の夏終わったぐらいからかな、制約はまだあるけど、以前のように人が入ってもOKって形に戻していきましょうね、お客さんにもある程度の自由を許していきましょうねってなってきたし。一方で、だからこそ、肌感覚として今、一番ライブのあり方が難しい時間だから…月並みですが、いい日にできるように頑張りまーす、って感じ笑
ーそれで言ったら、このリリースパーティーに関してお前が書いてた文章も、よかったよ。現状のライブハウスについて、あれは、良い言葉だと思った。
カワノ うん…。今ライブハウスに足を運んでる人たちはさ、すごくこう、チケット代の意味不明な高騰とか、ライブハウスを取り巻く空気とか、ライブっていうものに足を運ぶことが難しくなってしまった時代を経て、改めて集まってくれる人たちだからね。そういう人たちにとって、性別も年齢も立場も何も関係なく、各々が思い思いに過ごせる場所があればいいと思うからさ…。まぁ、御託並べるのはこんなもんで、あとは当日…お楽しみに、って感じ笑
6.雑誌「CRYAMY MAGAZINE」について
カワノ …そうそう、雑誌の方もそろそろ完成しそうだよ。LOFT公演で発売予定っすね。
ーおっ!ついにか。これもまたメンバーの手作り感のあるやつだもんね。カワノ、前からやりたがってたし。
カワノ 面倒くさくてやってなかったけどね笑 後、我々みんな、そういうなんか、企画立ててやる、みたいなの苦手だから笑 でも、ハードコアパンクの畑のバンドがやってるジン(バンドの手作りによる小冊子。ライブ写真やステートメントなどを掲載したものが多く、80~90年代に流行していた。)みたいな、こういうのは今年の頭にやった「CRYAMY新聞」でもやったから、その発展系かな。ボリュームアップバージョン。
ー内容はどんな感じなの?
カワノ 俺以外の各メンバーをフィーチャーして企画立てたよ。レイはギターマガジンのインタビュー記事のフォーマットパクって、彼のギターにまつわるあれこれを語ったインタビューが載るかな。機材や足元の写真なんかも載せて。…まぁでも、収録してからも都度都度、ライブごとに色々変わったりしてるから、リアルタイムにはならなさそうだけどね笑
ーへぇ、でもギター演奏してる子たちは気になってるところかもね。
カワノ あぁ、でも、これインタビューでも話になったんだけど、使ってる機材自体はマジでオーソドックスなものばっかりなんだよね。音作りが外道を極めてるだけっていう笑 まぁその辺も語ったりしてるよ。他にはたかしこの日記とか。
ーへぇ、面白そう笑 …純粋に疑問なんだけどさ、彼はマジで無口なの? メンバーとは喋る、とかでもなくさ。
カワノ 無口っていうか、ぶっ壊れてるよ、心が。
ー笑
カワノ いや、マジで。本当にあれはねぇ…イカれてる、うん。一応最年長なんだけどね、要介護なんだ、彼。昔色々あってさ…その結果産まれてしまった悲しきモンスター…笑 最近は呼びかけると返事はするようになったから、ポジションとしては、Siriだね。俺、スマホがアイフォンじゃないから…適当だけど、Siriってあんな感じのイメージなんだよね。
ーめちゃくちゃいうな笑
カワノ まぁ、でも逆に面白いかなって笑 得体の知れない、俺ですら何考えてんのかわからんようなやつが日記で日々のことを振り返る、っていうのが。ちょっと俺も楽しみだよね、あれ。結構センチメンタルな感じだったら俺、笑っちゃうかも笑 「人の心、持ち合わせてたんですね!?」って。
ー悪いところ出てるなぁ笑 ドラムの彼は何をするの?
カワノ 大森くんには曲を作らせてね…。QRコードで買った人たちが聞けるようにしてる。なんか、熱心に作ってたし、聴いてあげてほしいな。
ーおもしれー。多分初めての作曲だよね?
カワノ だと思うよ。だから、結構無茶な要求だった笑 作曲をするように言伝てさ、二ヶ月近く粘ってたみたいなんだけど、なかなか苦労したらしくて、すごい憔悴しきっててね笑 3年ぶりぐらいに個人でラインが来て、「ちょっと相談乗って欲しいんですけど…」「はい、じゃあマックで…」みたいな。
ー笑
カワノ スタジオも上の空で「話聞けよ」ってフジタくんにキレられてたし笑 歌詞を書くのがしんどかったみたい。まぁ、俺も気持ちはわかるからアドバイスをする感じの流れだったんだけど…俺がずっとthe smithsとthe 1975の歌詞がいかに素晴らしいかを語って終わるという…。
ーあぁ、だめだよ、そういうのは。友達とやれよ、そういう、不毛なトークは笑
カワノ ねぇ笑 でも、無事完成まで漕ぎ着けたみたいなので、お楽しみに、って感じ。ドラマーが作る曲って概して面白いって印象だから、俺も聴くの楽しみだしね。…どうしようね、変拍子とかだったら笑
ーまぁ、「カワノくん、こういうの作ってよ」って無言の圧力でしょうね笑
カワノ やだなぁ笑
ーでもみんな頑張ったんだなぁ。日々制作で忙しいだろうに…。俺からもお疲れ様でした、って言いたいですよ。
カワノ どうもねぇ、ご丁寧に笑 まぁやってみて思ったけど、もうしばらくやりたくないけどね…。やってみたけどやりたくない、ってことばっかりだ。マジで大変だし、改めてユーチューバーとかテレビマンとか、バンバン毎日いろんなことやっててすげぇなって思ったよ、俺にはできない…。
ーそういうカワノは何やんの?
カワノ なんもせん。
ーは?笑
カワノ いや、なんもせんよ笑 っていうか、これまで日記とかも書いたりしてたしさ、このレーベルのさまざまな企画やったりとか、そもそも曲も作ってかなきゃいかんし、俺はもう、忙しいんだから…だから、なんもせん!
ーいやいやいや…。そこはがんばんなさいよ。
カワノ 笑 まぁ、「なんかあったほうがいいよ…」って言われたから、なんか書こうかと思ってるけど、まぁ基本的には俺が何か発信するとかはないかな。…あとは他で言ったら、お客さんからハガキを募ったり、交流のある人たちからコメントもらったりとか、そういうのかな。
ーこのデジタル全盛期にはがき募集はやばいけどね笑
カワノ ねぇ笑 まだどんぐらいきてるか、とかも聞いてないんだけどさ、一通も来なかったらどうしようね笑 たくさんきたらそれはそれでスペース限られてるからどうしよう…ってのはあるけど…。まぁ、ジャンプの巻末のさ、お便りコーナー的な…ああいう、軽くみんながノっていけるページがあればいいな、って。…まぁ、なんのかんの、そんな具合で進めていってるから、後はデザイナーと打ち合わせして作っていく感じ。完成まで暫しお待ちを、っつってね。
ーいやぁ、楽しみだね。特に他三人のメンバーはあまり知らないことも多かったりするし。SNSもあまり活発じゃないバンドだしさ。最近このウェブメディアは始めたりもしてるけど。
カワノ まぁねぇ。そういう意味ではすごく面白いと思ってるよ。単純に手作りでやることの面白さ、っていうのも集約されてるし。こういうレーベルのコンテンツもさ、半年も経ってないけど、回してみて反省や改善点とか、…例えば今はこういう形で回してるけど、近々ブラッシュアップしてこうやっていこう!とか、新しくこういうのやろう、とか、そういうのもあるし。…フィジカルでの雑誌のリリースもあるけど、引き続きこっちももっとうまいこと使っていきたいかな。
ー…最近気づいたけどさ…お前、結構真面目になってきてるよね。年々、ね。
カワノ ふふふ笑 いいことじゃん笑
7.ライブCD「NAKED」について
カワノ あ、そうだ、これも伝えておかなきゃって思ってたんだ!思い出しだよ。…まずは、…これ聴く? 最近ずっといじっててさ。(イヤホンを渡す)
ー…音バキバキじゃん笑 これ、なんかのライブ?
カワノ ううん。練習スタジオでやった練習の音。練習してる音をそのまんま録音して俺がミックスした。これ、すっごい急きょだけど、LOFTの日に出す。
ーえっ! またリリースするの!?
カワノ 正式で本格的なリリースって感じでもないけどね笑 会場限定で売るやつだし、内容もスタジオレコーディングの新曲でもないしさ。
ーへぇ…スッゲェ急遽じゃん笑 …これは、どんなコンセプト?
カワノ ああ、俺らね、…俺らの制作って大体スタジオ借りて反復練習か、ライブハウス夜中に間借りしてプリプロ音源録音してアレンジ詰めて…って感じなんだけどさ、この音源はライブハウスでプリプロの合間っていうか、余った時間でざらっと1ライブ分一気に演奏して、それを録音してパラデータもらって、俺が持ち帰って友達と遊びながら突貫でミキシングした、って感じ。だから、コンセプトっていうのはこれと言ってなくて、単純に思いつき先行。ただ、ラフに録音した俺編集のライブリミックス音源の作品、って感じかな。…厳密にいうとライブやってないから、ライブ音源でもないんだけどさ笑 練習風景のパッケージング、が正しいか。
ーなるほどね。お前、ソロの作品とかも作って、音響やレコーディング周りの勉強も今年に入って熱心にやってるしね。
カワノ そうそう。まぁそういうものの、俺の勉強の成果としての、アウトプット先としてやってみようかしら、ってスタートかも。…まぁ、この機会に…ワタクシのような素人の…素人作業で…笑 もちろん、しっかり商品として耐えうるレベルには作り込んでるけど、そういうラフな演奏を届ける場があってもいいのかな、って。
ーなるほど。じゃあ今回はそういう、クオリティっていうよりも、悪い意味で雑なものに近いものを出す、と。なんかそれは、一種、お前らなりの「お試し」って感じもありつつ?
カワノ うーん、そこはちょっと違うかも! 確かに、いい意味でのラフさやインスタントさは求めたんだけど、「お試し」「低クオリティ」っていう感じではないかな。お試しでいいならiPhoneでとったボイスメモわたしゃあいいわけだし。あくまで荒々しさとか雑然とした感じは欲しいし、そういうのが俺らにもあって良い、とは思いつつも、適当にならないように…作品として成立する最低レベルをあえて狙って、って。だからやっぱりニュアンスは、さっきあげたものたちとは微妙に違うっていうかね。…ああ、そうねぇ、今思うに…これは既存の曲のリミックス版みたいな捉え方もできるんじゃないかな。
ーほうほう。というと?
カワノ そもそもがこの作品、練習してるスタジオでレコーダー回しっぱなしにして、その素材を持ち帰って俺がシコシコとミックスしてたわけなんだけどさ…この作品において頭で書いた設計図的には、さっきも言ったけど、ライブ音源ってよりも練習風景のパッケージングで、さらに言えば狭いスタジオで一発で演奏…マイクの音被りもすごいし、ライブハウスのでかいスピーカーほどの解像度はない、デッドな環境の、本当に日々俺らが練習してるガレージみたいなスタジオの空気が素材になってるわけで…。だから、…ちょっと難しい話になるけどしてもいい?
ーどうぞ笑 それきくために来てるんだから笑
カワノ どうもね笑 …で、まぁ、話戻ると…そうね…。…本式のスタジオレコーディングとか、ライブの音とかはさ、俺のテーマは「生々しさ」とか、「ドキュメンタリー」とか、「リアリティの再現」、「感情表現」なんだけどさ…まぁこの辺は長くなるから一旦置いとくとして笑 でも、この、初めて作ってみたこういう、練習スタジオのデッドな環境のレコーディングっていう変則的なものは、さっきあげたようなものの再現とか実現がすごく難しい…と。だから、俺の設計図的には…そこを逆手にとって、そこに偶然生じたいびつさとかそういうものを生かす方針をとった、って感じ。音被り然り、部屋の反響しかり、モニターの悪条件然り、ね。
ーうん。
カワノ そうすれば、そもそも実際のライブではないから、実際の現場でしか事実上再現できない臨場感や生っぽさっていう要素を、いっそ振り切って再現しようなんて思わずに、そこで食っていた帯域とか処理とかを一才カットしてもいい…し、逆に音もとんがってる部分をバリバリに増幅したり、ノイジーな感じにしたりさ。俺たちの音や演奏なんかも、あくまで練習だから、いい意味で気が抜けた緩いものになるし。実際…ギターが割に適当だったり、俺も歌詞とか、飛ばしまくってるしね笑 音も、プロに頼むんじゃなくて、俺が自分で、練習スタジオのコントロールルームとか、家のパソコンとかで友達の力も借りて一緒に作ってるし。強いてやろうとしたことって言えば、あの…小箱で鳴らした時のデッドな質感っていうのを再現したつもりかな。サスティーンもなくてリバーブも広い箱でかかる天然のものっていうよりはライブハウスの卓でかけたしょぼい感じ。ぎゅっと狭い空間でぐるぐるしてる、閉塞的な、さ。
ー面白そうだね。
カワノ まぁあと、これを商品としてパッケージングするもう一個意味があるとしたら、一個一個のライブに希少性とか、そこに足を運ぶ特別な意味を持たせたくってさ。それは物販で言えばTシャツとか、そういうものでも補えるとは思うけど、そういうのじゃなくって、あくまで音楽的なもので。今年、死ぬほどライブやったんだけど、お客さんも俺たちもさ、なんか、そういう日の記憶が作業っぽく過ぎて行くことが嫌でさ。その日のライブの思い出にプラスして、ちゃんとしたCDとかじゃない、もっと雑な音でも何か持って帰って欲しくて、さらにそれがライブに直接足を運んだ人間の特権になればいいな、って。こういうの手に入ったら、単純に俺なら嬉しい。
ーうんうん。
カワノ それと、売り方もちょっと特殊だね。お金を払ったら、そのCDはジュエルケースとかでパッケージングされてるわけじゃないんだよね笑 歌詞カードもなしで、CDを裸で渡すだけ笑 一応物販には不織布の布カバーはあるけど、買う側もラフに円盤一個を受け取っておしまい笑 なんか、ガワのあれこれにも俺たちはリリースの度にこだわってきたつもりだけど、そこも一切を廃しちゃう、っていう別の特殊性って感じ。
ーすげぇな笑 グレイトフル・デッドみたい笑(当日のライブを会場に設置してあるカセットレコーダーに焼いて客に渡していた) じゃあ当日は円盤だけを裸で握りしめる奴らもいるわけだ笑
カワノ そういうことだね笑
ー録音はいつものところ?
カワノ そう。マイクいくつか立てて、各楽器の音拾って、パラデータでもらえるように別々にチャンネル組んで録音。で、素材として高山さんがざっと録音したのをチャンネルで分けてまとめてくれて。で、ミックスは、俺と宅録やってる友達何人かとスタジオ借りて、飲みながら雑然としすぎてるところはざらっとまとめてさ。
ーああ、あの夜な夜なのお前らの馬鹿騒ぎはそういう笑
カワノ そうそう笑 「俺はカワノくんの奴隷じゃないっすよ!」とかスタッフが言いながらね笑 とか言いつつ結構ノリノリだったけど笑 単純に音いじるのみんな好きだからね。あーでもないこーでもないってやりましたよ。
ーははは笑
カワノ それも面白くてねぇ。性質上、俺とプロのエンジニアや宅録アーティストじゃ扱うトラックの質が違うわけじゃん。俺は生楽器をマイクで拾ってきたもの、あいつらはPC上で組んだ音やプラグインのすでに用意された音を加工したものやサンプリング…って。
ーそうだね。やっぱそこは全然違うの? 音とか、そういう、エンジニア作業において。
カワノ うん。実際一緒にいじってみて、話半分で聞いてたことが、少なくともわかった気にはなったし、勉強になった。やっぱり生楽器のデメリット…クラブミュージックではマストで出してる生のドラムやベースで補えない帯域のウルトラローの厚みだったりとか、レンジの住み分けのはっきりした感じとか、迫力や爆音の密度って観点だとどうしても現代音楽やトラックミュージックには勝てないなぁ、って。バンドサウンドがヒップホップ化していくのもわかるし、最近の…特に日本人は、エンジニアリングが「DAWの技術選手権」みたいになっていく理由も、今ならわかる。
ーへぇ。
カワノ うん。でも、面白いのが、dBやレンジで測れないところの迫力で…なんか、むしろバンドサウンドの方がでかく聴こえたり、ドラマチックになる局面があったりね。生楽器の特徴とかメリットっていうか…ちょっとオカルトだけど、ある。うん…端的だけど、俺もかなり自分の中の固定概念とか、崩されたし、これはバンドにとってでかいフィードバックになると思う。
ーいい経験。
カワノ うん。で、ある程度生感を伴った、まだまだ半端なドキュメンタリーなものを最後の仕上げの本格的なミックスでぶっ壊してジャンクにする作業は最近仲良くなった友達の、ボーカロイドで曲を作って発表してる式浦躁吾って最近仲良くなった友達のやつと家のパソコンでこれまた飲みながら地道に。
ーへぇ! おもろいな。マジで全員畑違い笑
カワノ そうそう。元々は共通の友達…ヒデアキとイセノちゃん(JIGDRESSギター)が前から仲良くてさ。去年、なんかのタイミングで同じ場に居合わせて、速攻仲良くなってね。すごいいいやつでねぇ。で、ある日、酒場で音楽談義をしてたんだけど、せっかくだからこの機会に一緒にやる?って声かけた感じ。
ー意外な組み合わせだけどね。それこそバンドとボーカロイドって、お前のいう対極な感じもしないでもない。
カワノ でも、彼は元々、ライブ見に来てたりとか、CD買ってくれたりとか、俺らの音楽好きでいてくれててね。全然、お互いに作ってるものの毛色は違うんだけど、あっちがまず、すごい俺への理解があるからすげえ早かった。「これかけて潰そうぜ!」とか、「ここ邪魔だから削ったら良くない?」とか言いながらさ。やっぱ、トラックメイカーもボカロもそうだし、ソロシンガーとか、あの人たちって宅録のプロだからさ、機材も詳しいし、俺の疑問もサッと答えてくれる。…まぁ最終日、俺と式浦、…彼の曲だけ聞くと意外かもしれないんだけどさ、めちゃくちゃロックとかハードコアが好きで、趣味が変なんだけどさ笑 「メチャクチャにしようぜ」っつって、完全に二人とも、ブレーキを失って盛り上がりすぎて音上げまくっちゃってさ笑 「超サグいぜ!」って納品して、そのあと酒飲んでピザ食って寝たんだけど…翌日、「音がデカすぎてCD規格に合ってないっす、全部ホワイトノイズになっちゃってますね…」って笑
ーはっはっはっ!笑
カワノ エフェクトで歪みをかけたつもりが、音がデカすぎてスピーカーが歪んでいただけだった笑 結局後日、音を下げる方向で作業するという笑 日程にも余裕持たせたつもりが、結局いつも通り納期ギリギリでしたね…。
ーへぇ。今回の製作はすごい手作り感あるね。イッチバン最初の、246スタジオとかで録るみたいな、デモ音源みたいなノリ、っつーかさ。
カワノ そうだね。ぶっちゃけ、金かければかけるだけこういうレコーディング方法にした意味がないというかさ、あの雑然としたライブのフロアで味わう生々しさとは全然違う、もうちょっと荒んでて、人間との距離も近からず遠からずの微妙なイメージの…素朴で整ってない感じがほしくて。…ステージの中音で、でかい音出しすぎてだんだん耳のハイが落ちていってるような、あの感じを目指したかな。一緒に作った友達連中もみんな、元々CRYAMYの音楽が好きで、お客さんとしてライブを見にきてたり、CDを買ってくれてた人たちだから曲もわかってるし、音楽的に共通言語が多いから話が早いんだよね。みんな自宅でDTMを駆使して曲を作ってる人たちでもあるから音響の知識もまた違った意味ですごく抜群だしね。ありそうでなかった、不思議な音源になったと思うよ。俺も勉強になったしさ。
ーなるほど。…正直、中身は全然想像つかないんだけどさ、かえって楽しみになってきたよ笑
カワノ そうだねぇ。あとは…中のトラックもさ、曲ごとに分けたりしてない。40分弱のトラックが一個だけ。
ーああ、曲間を作ってないのか。
カワノ まぁそういうこと。厳密には曲ごとに分けて録音してないから、一回のライブ全部一発どりしたってイメージが近い。もちろん、エディットも一気にやってる。かなりラフな編集しかしてないから、音像は狂ってるけど、人間的なところは徹底的に残したからダイナミズムは相当あると思う。
ーじゃあなんの曲が入ってるか、とかは…。
カワノ 聴いて見てのお楽しみ、だね。中身を全部聴き切るまで曲目も不明だし、曲ごとに飛ばせないからレコードライクな作り方でもあるし…例えるなら、ライブ始まる前の「今日どの曲やるんだろう」みたいな…そういう、あれに近いワクワクも味わってほしいな。
ー…やっぱお前、変なやつだな!
カワノ 変なやつになろうとしてんのかもよ?笑 まぁあとさ、シンプルに…人と気楽にものを作るの楽しいね笑
ー根源的な話だな笑
カワノ ほら、CRYAMYはさ、常に殺伐としてるから…。笑顔とか、ない笑
ーまぁ、それに関してはお前だろ、悪いの笑 大概お前んち行った時も、モニター睨みつけて、地獄みたいな表情でエディットしてて…。メガネなんかかけちゃってるから、「目悪かったっけ?」て聞いたら、「伊達だよ!!!!悪いかよ!」って怒鳴られた笑
カワノ ははは笑 ブルーレイカットね。
ー形から入るタイプ笑
8.最後に
カワノ …いやはや、結構喋りましたね。すんませんね、長い時間お付き合いいただいて。
ーまぁ言うてもまだ昼だけどね笑
カワノ 来るの早すぎだったんだよ笑
(暫し談笑)
ー…じゃあ、最後に、締めましょうか。なんか、最後に言っておきたいことあれば。
カワノ そうだね…。…っつわれっとなんも出てこないね笑
ー笑
カワノ まぁ…そうだねぇ。…まぁ、2022年、お世話になりました皆さん…っつう、ね笑 うん…良いお年を、みたいな…。
ーはっはっはっ!笑 まぁそうなるよな笑 随分話もしたしさ。…今年も終わるけど、今年はお前…バンドもそうだけど、色々大変だったから、ひとまず年末年始はゆっくり休みな。一時は見てられないぐらいだったから。
カワノ まぁ、そうねぇ。本当に…変な話さ、去年とかはね、アルバムを出して、ツアーもこなして、結構ねぇ、絶頂だったかもね、俺笑 確かにあのアルバム(red album)に関しては、自分の理想像との乖離を…あえて明確にはしたんだけど、それによってすごく悩んではいたけどさ…あくまでそれは、俺個人の葛藤でしかなかったわけで。まさか、今年入ってここまで、っていう、ね。社会も、世の中も、俺の身の回りもいろんなことがあってねぇ…。うん…前にも言ったけどさ、俺、終わっていくこの2022年は忘れらんない年になったよ。
ー…正直ここで、文章として形にするにはデリケートな話もたくさんあったし、まぁ本来はさ、言うても俺は部外者だし、お前とこうやって連絡を取り合うようになったのも去年の半ばごろだったから、もっとお前をよく知る適切な人間がいるとは思うんだけど、ちょっと異常なぐらいだったからね。
カワノ ああ、そうだねぇ。制作も、周りの人間のことも、何もかもね。まぁ、俺はあまり表面にそう言うのが出ない人だとは思ってるから…その分口にした時、ショッキングに受け取られることも多いけど笑 それは非常に、何も口にせずとも伝わったのがそれというのは、的をいてるし、あんたね、さすがっていうか笑 …変な話、俺、今年にあったいろんなものを経て…やっと東京の人間になった気分なんだよね。
ーへぇ。お前もう、何年住んでるんだっけ?
カワノ 8年。…もっと言えば、実家を15で出て、一人で暮らすようになって、そこから色々転々としてるから、10年近くフーテンをやってる計算になる。まぁ、…だからこそ、東京暮らしもクソもないぐらい、生まれた土地を故郷っていう感覚は人よりも薄いかもしれないんだけどさ。…ぶっちゃけさ、東京きてからの俺の人生…それ以前に比べると、全然、普通に、大したことねぇなって思ってんの、俺。超波風立たぬ、平穏、みたいな笑 激することもなく、徹底的に落ちることもない…。昔の方が心は毛羽立っていたし、煤けてたなぁ、ってさ。
ーははは笑 俺からしたらバンドやるために上京してきて、っていうストーリー、結構刺激的に感じるけどね笑 むしろそっちの方が激しそうだけど。
カワノ うーん、まぁ、そう外からは見えるだろうし、刺激はあっただろうけど…俺は東京という街で…っていうか、バンドを組んで以降の東京か…振り返れば、そこにはCRYAMYの楽曲の核になる強烈な出来事…それは痛みとか喪失なんだけど….全然、なかったと思ってる。実際、形として残ってないし…ギリギリ…ダンくん…CRYAMYのさ、「物臭」を送った、俺の東京時代での…おそらく最初で最後の唯一の親友…ってぐらいのやつ、そいつぐらい。だけど、そいつはバンドを組む前にもう、去っていった人間だからね。だから…俺の曲は、全てが東京とCRYAMY以前の、俺の全てで完結してるんだよね。
ーあぁ。でも、確かに…言われてみれば、そんな気がしないでもない。し、たまに「あの歌詞どういう?」っていうのも、大抵お前が10代の頃の出来事だったり、バンドを組む前に出会っている人たちを元にしているよね。…あくまで視線は東京にやってきたお前がその出来事を消化した上で向けてはいるんだけど。
カワノ もちろん、演奏は俺たちだし、最初話したみたいに曲の変化や歌詞の深度みたいなものの変遷っていうのがあったし、バンドを組んでからの時間ともオーバーラップしてるわけだから全く関係がない、って話じゃないんだけどさ。東京で生まれた曲とはいえ、東京とか、そこでの出来事が直接の原因になって産んだものでは絶対にない。ここにくる前の出来事を長い時間をかけて落とし込んだものにすぎない、たまたま暮らしているのが東京だっただけ、っていう。東京という街やそこで出会う人が...魅力的ではない、ってこと、俺にとっては。
ーあくまで経験や長い時間の思案に基づいてはいるけど、東京という街でのお前っていうのは薄いってことなんだろうね。…まぁ、いろんなことはあったにせよ…はっきりいって、比較的そこまで大したことじゃなかった…歌にしたいって感じるほどのものはなかった、ってことか。
カワノ うん。だし…こんなこと言ったらすげぇ悪いけどさ、俺はこの、東京という街で、2022年以前は大きなものを何も失わなかったわけよ。友人も、恋人も、心も、神経も。…そりゃ、友達も、彼女も、それに、心も神経も、離れる、すり減らすっていうのは全くなかったってわけじゃないけどさ。多少なりとも欠けてはいってるけど、実際それのどれもが…別に…いなくなられても、傷ついても、全然問題なかったものばかりだった…。人間関係なんて、他の出会いで全然埋まっていってしまうし、落ち込んだ心や痛んだ神経も気晴らしも腐るほどできちゃうぐらい…っていう。これは東京が人やもので溢れてるから、簡単に代替を見つけられてしまうからなのかもせんけど…なんというか、そういう、2022年以前のこの街での経験や出会った人たちっていうのは、俺の記憶とか思い出には、強烈にはなっていかないし、色褪せる速度も尋常ではないっていう。…怒るかなぁ、これ言ったら笑 みんな、見てないこと祈るけど笑
ーいやいや、怒るっつーか、お前、ひでぇ話だよ笑 友達もいるだろうにさ。
カワノ …(くすくす言いながら押し黙る)
ー笑ってんじゃねぇよ! いやあ、それは怒るわ笑
カワノ でもまぁ、今はこうなってるから結果オーライじゃん笑
ーお前…。
カワノ …まぁ、うん…でも本当にそうでさ…だから、東京…俺はここに来る前と比べると、そういうものはなく…マジで普通に生きてきたなぁ、って、そんな感じ。…今も、俺の中で後悔とか、取り戻したい人や物事って全部この街に足を踏み入れるまでの人や出来事だけの気もするし…。だから変な話、これまでは矛盾でもあるわけだよね。俺はこの街で生きていて、決定的な喪失もなく、忘れられない傷を負うでもなく、死ぬほどする後悔というものもなく、なのに歌の内容は、それを躊躇なくメロディにしてる、っていう。今まさにあるものではなくて、過去でもあるし事実でもあるけど…それ以上に、その…具体的な実感なき幻とか、ファンタジーの領域っぽい。だって、この街で起こった出来事ではないから。
ーあぁ。なるほど。過去のこと…今のお前の暮らしのリアルというよりも、感情の発露の源は全て過去に置いてきたもので…それだから、現在発露させているものも、自分では少し離れた感じになってしまっている、と。
カワノ まぁそんな感じ。瞬発力がねぇな、って。…でも、それもいいことでもあるんだけどさ。それは何か本質を伝える上で、深い苦痛や長い時間をかけた情念の濃い結晶になり得るっていう、物凄い良さ。けど、少しなのかもしれないけど、矛盾を覚えてる自分もいたんだよね。他にも俺は、たくさんの矛盾や撞着と格闘はしているけど…この話に関しては、これがデカくってさ。
ー…ただ、今年に関しては…。
カワノ ま〜〜〜〜〜〜あ、大いに崩れたね、俺の…いろんなものが。一月、初っ端から、どっかーーーーん!って笑 全然普通じゃねぇ! 失ってはいけない、離れてはいけない人間…ほぼ毎月毎月、次から次へと積み木が崩れるかの如くどうしようもないことばっかりが、ねぇ笑 2月のリキッドのワンマンの日なんかさ、俺、ライブ始めるまでマジで完全に逝っちゃってたからね、頭笑 「もうどうでもいい…帰りたい…」みたいな笑 バンド、辞めるつもりだったし。
ーははは笑
カワノ 不思議なもんで、ステージ上がれば俺は…「成せばならぬ、なぜなら男だから」というあの…いつものやつで、…だし、あの日はさ、伝えなくてはいけないこととかもありましたから、なんとかやりきったけど…。それだけなら良かったけどさ…まぁ…それ以降も次々と…ねぇ、本当に色々あったんだからっ!
ーそんな可愛く言われても笑 まぁ…わかってるけどさ。
カワノ ふふ笑 うん…でも、そういうものを…まあぶっちゃけさ、味合わなくても良かったような出来事を、一気に今年、東京って街で味わって、…一気に俺のチューニングが変わっていった。漠然とだけど、真に東京の俺、になったし、ならざるをえなかったし。なんていうか…客観的に見ても、人間がこう…いろんなものに覚めていくのってこういうことなんだ、っつーさ、大袈裟だけど、思った。
ーうんうん。
カワノ でもそれは、この街に適応するって意味ではなく、下手したらずれまくって、…むしろ、ここでなんとか自分を殺さず生きていくということだから、もはや何者にも合わせるのを放棄していくぐらいの回転というか。…で、そうなってくるとさ…今振り返ればさ、その、過去の色々…東京以前の、今の俺を構築した出来事も、味あわなくても良かったもので溢れてるんだけど、それがようやくね…よくも悪くも、逆にそっちがどんどん俺の中でズレ始めたんだよ。
ーほぉ。…それは、今までの話を踏まえると…過去の楽曲を歌うことへの違和感…ってことになるよな。
カワノ …正確に言えば…過去の歌が遠のいていってる。あの、強烈で鮮烈だった俺の喜怒哀楽…一種俺を縛り付けていたものでもあったけど…あれが、一気に色褪せ始めた感じ。…当時は自分の血肉そのものだ!ってぐらい、思ってたはずなんだけどね。…それは違ったみたい。ああ、これは、実は記録でしかなかったんだ、っていう気付き。
ー記録か…。
カワノ なんかね、すぐすぐこの…先ほどから例えとしてあげてる東京に…チューニングは急激に変わってるけど、決してフォーカスが一瞬であったわけじゃないんだよね。そんなに器用ではないし、そこの格闘はまた長い時間続くと思う。そうではなくって、昔が…過去は過去であることに変わりはないけど、その距離がどんどん離れていってるイメージ。時間は経過してるんだから、当たり前っちゃ当たり前だけどさ。
ー…むずくなってきたな笑 要はその…スッゲェ簡単にいうとさ…この一年のことを受け止めたことで、さっき言ったような曲たちをやるのに必然性とかリアリティがなくなってきて、代わりに他の曲…まぁ言ったら、これからやっていくであろう曲に重心が傾いてる…多分こんな簡単な話じゃないけど、そういうことだよね?
カワノ そう!ベラベラ喋ったけど、それぐらい簡単でいいや笑 結構さ、俺なりに、過去のものも今の自分のものとして落とし込もうとは頑張ったんだけどさ…、惑っている今はどうしても苦悩の連続で…たくさんライブをやったけどね、難しかったよ。本当、己との格闘だった笑 良いものを見せられてる実感がなくて…毎回毎回、イライラしてたし笑 タカさん(CRYAMYのPA)がライブごとに相当心配してくれたけど、本当、どうしようもなくてねぇ。
ーでもカワノは自分でも言ってるし、これまでもそうだったけど、「俺は昔に作った曲でも絶対に胸張って歌える」ってやつだと思ってるんだけど、…今はそうじゃないってこと?
カワノ いや!それともまた違くてさ…。…もちろん、これまで作った全ての曲、おっさんになっても…まぁおっさんになってもはバンドなんか、絶対やってないけど笑 全然、誇って、胸を張って歌えるけどさ、また次元の違う話というか。全然、多分こんなこと考えないでいればバーっとやれちゃうんだけど、歌うことの必然性とか連続性とか…より厳しい目で見ると、…「やれはする」んだけど、半端に「やるべきじゃねぇ」…で、最終的には「そんな感じでやっちゃっていいんすか?」って思うっていうか。
ー…昔の曲をやることに相当厳しい目線を向けてる感じするけどね。
カワノ …俺ねぇ、2022年以前に作った曲をさ、…ほんの1,2曲を除いて、全部消したんだよね。今後作る気は一切ない、っつって。
ーえぇ!
カワノ もうね、全部。消えた。歌詞も、…俺コンビニとかで売ってるようなノートにダラダラ書いてるんだけどさ、捨てたわけじゃないけど、もうどこ行ったかわからんのよ。ふっつーになくした。触ってるのが今年に入ってしばらくしてから書きだめてる方のやつだから。…まぁ言い訳じゃないですけど、今年入ってからの制作物…新曲のリリースが結局年内になかったのはそういうこと笑 本当にね、曲が…CRYAMYでやる上での曲ができなかった。
ー…俺はそういうのお前の悪いところだと思うけどねぇ笑 破滅主義というか…なんというか、極端なんだよな。頑固通り越してやたら自分にスパルタで…でもそういう態度は俺からするとキャパ狭いんだよな、お前笑 喧嘩売るわけじゃないけどさ、どうかと思うところはある笑
カワノ ははは笑 いや、それは間違ってないね笑 リセット癖、みたいな。…でもそれは、漠然として見えていたものの明瞭度が上がっていくにつれて、そこに誠実に、正常にリーチするためには削ぎ落としていかなくちゃいけない、って思ってるんだと思う。そこにリーチするために、もっと純度を高めなくっちゃ、いらないものは捨てなくちゃ、って。
ー…でも過去の成果もさ、その都度純度は追求して作ってきたわけじゃん。それは…。
カワノ いや、もちろんそうよ。だけど、それはその時のベストであって、じゃあ今顧みたら及んでいない、っていう、ただそれだけのシンプルな話でさ。…だし、自分のやってることをそれぐらい厳しく見れんくなったら、終わりだと思うし。
ーそっか。
カワノ でも…本当にね、ずっと喋ってきたけど、今年たくさんのことがあって、俺自身もすごく揺らいで、その中でなんとか乗り越えてきたわけだけどさ…。そういうのを、経てきてさ、一番シンプルに思ったのは、…時間は有限じゃないし、命も有限ではない…だから、そこに何かを及ぼそうとする、そこで誰かと深く関わろうとする、ってするとさ…ずっと避けてきたけど…生き急いでいかなくちゃいけないんですよ、絶対。じゃないと人の速度には間に合わない。
ー今以上に、ってこと?
カワノ うん。タラタラやってたら手が届かなくなってしまう。急いで力をつけなくちゃ手遅れになってしまう。…もうこれは…ぬるい言葉では言わない。うん…いい意味でも悪い意味でも、これまで通りじゃいられないし、いるつもりはないし…我慢できねぇな、って。…時間っていう軸でたくさん話をしてきたけど、俺が本来向かってるのって、一人一人の人であり、その人の人生であり、その人の生きる世界であるから…そう考えたらさ、そんな大きな、複雑な、しちめんどくせぇものに対するには、今までのままじゃ時間が圧倒的に足りねぇな、って。そんなもん随分前からわかってたはずなんだけど、また改めて気付かされた。…俺はぶっ飛ばしていかなくちゃいけないんだよね。
ーなるほど。…これはちょっと話がずれるかもしれないけどさ、…これ言って良いのかわからないけど、お前の近頃作ってるデモとか…よく聞かしてもらうじゃん、「これどう?」っつって、みんなで聴いて。俺はそういうものの成果を実際に聴くに…マジでそういう風に生きていこうとしてるんだな、って。俺は思ってんだよね。「#4」で確かに変わったけど…それ以上の…っていうか。
カワノ みんなに心配されるやつね笑 「カワノ、お前は一体どこにいこうとしてるんだ?」って笑
ーいやぁ、するよあれは笑 だってもう、バンド変わってるじゃん笑
カワノ 俺はむしろ、「ああ、やっと音楽、楽しくなってきたな」って…マジで思ってるけどね、今の俺の方が愛せるぜ、マジで。
ー笑 でも、そういうものを作って、大勢の人をうなづかせる自信はあるでしょ、あんた。かなり大袈裟な言い方だけど、あの音楽…パッと聴いた感じ、たとえ、これまでのお客さんや築いてきたキャリアを捨てることになっても…って姿勢に見えなくもないけど、…それでも、生き急ぎながらも、なんかお前は未来見てるんじゃねぇかな、って。
カワノ まぁ…これは珍しく俺が自分で誇りに思ってることだけどね…俺は自分で決めたことはこれまで全て成し遂げてきたし…断言するけど、一点の曇りも汚れもなくCRYAMYの表現はここまできましたからね。その上で、現実、負った傷も壊してきたものもあるけど、俺はそれも美しいし…クールだと思うね。…まぁ、叩けば埃も出るし、よく見ればくすんでるけど、それすら許されるぐらい、良い感じ、ってさ笑 だし…そこで真の意味で獲得できた関係とか繋がりは、絶対に失わないんじゃないかな。…まぁ、全部なくなったら、これまでかけてきた時間が培ってきたものがその程度だったってことで。…まぁともかく、今後どうなるかなんて当事者の俺ですら知ったこっちゃないっすけど笑 何より、俺が正しいってものを出すのが芸術…音楽だし、さ。
ーははは笑 お前自身がそこに誇りを持てるんなら、それは事実だろうね。…昔お前に言ったけどさ、お前、何者でもないのに、なんか妙に堂々としてるというか…いい意味で態度でかい笑 だけど、なんか…みてて賭けたくなっちゃうんだよなぁ。
カワノ ふふ笑 クソ褒めてるし、絶対カットせんどくわ笑 うん…まぁ、本当にね色々あったから…今もすげぇ悩んでるけどさ…まだ年内、やることは山ほどあるし、ライブも残ってるし…自分なりに結論を出して、すっかり綺麗に終えるつもりでいるよ。…この一年…忘れないためにもだし、それ以前も、これから先の未来も、全部引きずっていくために、ね。…まぁそんな感じの、2022年でした。